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銃力と  作者: 沓月
7/10

ep7 実の力のみで2

「あんた何者だ? ちょっと聞かしてくれや」

「奇遇だな。俺にもお前に用事がある」


 的確に向けられた声に、ロストはそう返事をした。男の声から受ける印象は、威圧感と態度のデカさだった。あと、すぐ隣に女がいる。


「なあ、ちょっとそこから出てきてくれんか」

「ならまずは全員が銃を置け」

「立場が分かってねえようだなあ」


 男は声を荒げて威圧してくるが、ロストは涼しい顔のまま煽る。


「もうすでにこちらは7人殺っている。そちらには余裕も猶予もない思うが」

「不意打ちしといてなに言ってんだ。そして、もうこれ以上奇襲はない。それで、ここから勝てると思ってんの?」

「動いたら殺す。時間稼ぎなら他でしてくれ。付き合うつもりはない」

「俺が聞きたいことはひとつだ。お前、どこから来た?」

「どこからって……。俺はなんて答えればいいんだ?」

「だから、どうやってここまで来たんだ?」


 その男からは変わらず威圧するような気概が感じられた。そして、ロストは、その息遣いから男がどこか焦っているのを感じ取る。


「そんなに奇襲が悔しいのか? それとも奇襲されるとは思ってなかったとか?」

 ロストはまたも男を的確に煽る。


「黙れ。もういい。貴様、何者だ?」

「聞きたいことはひとつじゃなかったのか。いや、今回のは答えやすいから答えてやる。ただの通りすがりさ」

「BBの回し者か?」

「うーんと、それは否定しておこう」

「じゃあ、目的はなんだ?」

「質問が多いなあ。まあ、大した目的はない。強いて言うなら、生きるために優先順位をつけた結果。気まぐれって答えたら納得してくれるのか?

 こっちにも聞きたいことがある。どこでチートを手に入れた?」

「さあ、そんなもの知らないなあ」


 ロストは、律儀にも質問に答えた。しかし、男はロストの質問にはしらばっくれた。ロストは、まだ確信がなかったのでカマをかけたつもりだったのだが、男の反応わかりやすいものだった。


「どうせウォールハックだろ。だから、俺の奇襲を察知できなくて焦った。それに、昨日の襲撃は、BBのガードの死体の位置がまとまっていたような印象を受けたから、どうせ固まってるところを一網打尽か、裏取りを成功させて、ことごとく潰したとかでもしたんだろ。敵の位置がわかっているからできること、だ」

「お前も昨日いたのか!」

「で、誰に貰ったんだ?」

「だから、知らないって」

「ラビットか?」

「さて、ね」


 ロストは知っている名前を出してみるが、男はまたもしらばっくれる。しかし、ロストの直感は、カマをかけられ返されている、おそらくハズレだ、と言っていた。


(まあいい……)


 心の中でつぶやいた言葉を、会話を途切れさせまいと音にしようとした矢先、ロストは隣の柱に向かって走り出す。その道中で少し離れたところにいた1人に銃を向けてダウンを取る。1人減って、残り4人。ロストは男をまた煽る。


「おいおい。部下のしつけがなってないんじゃないの。ボスの話の途中に銃を抜くのは不信心じゃねーの」

「お前こそ話してる途中にやってくれちゃって」

「銃を向けるから悪いんだよ」


 が横にいた女とコソコソ何か喋っている。

「・・・・・・」

「マジかよ」



「おいおい、何話してんだよ」

 ロストは会話を切りたいがゆえに焦って言葉を放り投げる。


「話は終わりだ。やっちまえ」


 ロストは移動した柱に背中を預けている。ロストがいる柱を中心に、12時の方向にボスと女。男たちの左側、10時の方向、さっきいた柱の近くに1人。男たちの右側、3時の方向付近にもう1人。遮蔽なし。


 音からして、左がピストル、右がサブマシンガン、後ろのボスがアサルトライフル、女はなし、いや、わからん。ボスと女の傍には、さっきまで奴らが座っていたソファーがある。それを遮蔽にされると非常に面倒くさい。


 左右から挟み込むように撃ち出せば、ロストが射線を切れる場所はなくなる。どこに飛び出しても撃たれる。


 ならば……。


 ロストは右側、3時の方向に閃光弾を投げる。そして、左側に3発威嚇射撃をしながら、左の最初の柱を目指して駆け抜け、まずはそこの1人を狙って移動する。同時に3時の位置かつ左側かつ現在は背中の方向では、投げたフラッシュボムが破裂し、凄まじい光を放つ。



 目を奪ったとしても、弾丸を防げるわけではない。柱へ無駄なく一直線に向かっていけば、ボスの撃つ弾を受ける前に柱に到達できる自信があった。しかし、3時方向付近にいた人間は少し移動すれば、ロストは遠ざかるだけの的であり、背中から撃てる。事実、そいつは閃光弾に目をあてられながらも撃ち散らかした。アサルトライフルの弾のうちの1発がロストの右足に刺さる。


 ロストが向かった先、左側、9時の方向、最初の柱付近に来ていた男も挟み撃ちを試みていた。顔を出す前に飛んできた威嚇の弾が通り過ぎていった後に、すぐに顔を出して撃とうとする。しかし、目の前の足元には、さっき見たばかりの光る爆弾が転がっている。男は咄嗟に身を引いて目を瞑る。しかし、それは破裂しなかった。その判断によって生じたわずかな隙間が命取りだった。


 すでに男の目の前にロストは来ていた。ロストは男が銃を向ける前にナイフを首に突き刺す。そして、右の3時方向の1人から射線を切るようにその柱を陰に飛び込みながら倒れてくる死体の背中を掴むと、それをアサルトライフルの弾丸の盾にする。アサルトライフルを撃ち続ける男は、盾にされた仲間に一瞬の躊躇をする。ロストはそのタイミングを見逃さなかった。持ち替えたピストルで撃ち返し、3発当てたところでその男は倒れた。



 残り2人。ボスと女の位置は動いていない。柱のおかげで一応射線も切れている。ロストは、最初にいた柱に戻ってきたことに安堵感と郷愁を覚えながら、LPを使って足の傷を治す。

 LPとは、この世界における命であり通貨だ。

 虚空から銃を取り出すのも、銃がヒットしたときに受けるダメージも、銃の傷を治すのも、全てLPの増減によって賄われる。0になったら死ぬ。LPの使用は命を削ること同義であり、利用は計画的に。



 ボスは絶えずアサルトライフルをロストのいる柱にぶっ放している。どうやら、アサルトライフル2丁を女が交互にリロードしているらしい。これでは向こうの弾が尽きるまで無駄撃ちをしていて欲しいところだが、向こうは2人残っているし、遮蔽にしている柱も改造銃の威力にいつまで耐えられるかわからない。それに、撃ち続けてくれたほうが行動が予測しやすい。


 ロストは傍に転がっていた不発の爆弾を拾い直し、ボスに向かって爆弾を投げる。


 すぐに閃光が炸裂する。


 ボスはソファーを遮蔽にして身を隠しながら、絶えずアサルトライフルを連射する。


 光で目を潰しながら接近してくる、だからそこを撃てばいい、と考えるだろう。しかし、打てば必ず弾切れが起きて銃を変える隙ができる。


 ロストはそれを待っていたかのように、銃交換のタイミングに合わせて、2人が隠れたソファーの後ろにフラッシュボムを投げ込み、正面から突っ込む。


 2人は飛んできたグレネードに一瞬だけ怯んだ。しかし、それは爆発しなかった。しかし、そのおかげでボスがもう一度撃ち始めるのを一瞬でも遅らせることができた。ロストにはそれだけで十分だった。大きく飛び上がったロストはソファーの上から丸見えの男を空中から撃ち下ろす。鈍いピストルの発射音が鳴る。


「キャアーーーーー」


 女の悲鳴が響く。ロストが着地したソファーの向こう側には、頭から血を流した男が転がっていて、すぐそばに腰を抜かした女がいる。ロストはすかさず女に銃を向ける。さっきからずっと死体が量産されてきたわけだが、1人残されてようやく、自分の番が来たことでも悟ったのだろうか。


 ロストはピストルを向けたまま一歩女に近づく。近くで見ると、白銀の髪にところどころ黒色のメッシュが入った、派手な服装の若くて美人な女だった。そんな女は、今から武器を取り出したとしても勝てないことを悟ったのか、命乞いに徹している。


「ねえ、助けて。助けて。お願い。ねえ!」

「ひとつ聞こう。チートはどうやって手に入れた?」


 ロストは冷たく機械的な声で、マニュアルのような、慣れきった質問をかけた。

 ロストの心は動かなかった。これまで幾度となく命乞いを聞いてきた。今回も機械的に目の前の人間の精神を決定した。それに疑問などなかった。


「ブルって名乗ってる人からもらったって言ってた」

「いつ? どこで?」

「そこまでは知らない」

「そうか」

「あたしを見逃してよ。なんだってする。反抗もしない。あなたLPに困ってるんでしょう。私にできることは何でもするから」


 必死の命乞いをロストは眉ひとつ動かさず聞いていた。


「アイツ(さっき殺されたボス)が、LPを買えるって話をしてたのを聞いたの。あなたにとってその情報は貴重じゃない? だから…」


 ロストはピストルを握ったまま、女にもう一歩近づく。


「俺、命乞いは嫌いなんだ。買った宝くじが外れてもおとなしく諦めるだろ。外れるのが嫌なら買うなって」

「ぶはっっ」


 その一歩で女の胸にはナイフが刺さっていて、ひと声上げたのち、何も言わなくなった。


 立つ鳥跡を濁さず、ロストはすぐにそのビルから撤収した。

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