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銃力と  作者: 沓月
67/70

ep67 帰りの列車で揺らされて

「解の公式は?」

「フランス革命時に処刑された国王の王妃の名は?」

「新大陸、後のアメリカを発見した人物は?」



 こんな具合に、帰りの電車では勉強クイズで持ちきりだった。出題はネイで、アキとミサが回答者、答え合わせにミヤといった具合だった。もちろん、高校をギリギリ卒業しているユウは答えがわかっても口を挟まないし、ショウも中学校程度の内容なら最低限わかるので黙っていた。学がないなりに頭を使って生きてるのって尊敬できることだなんて柄にもないことを、ひとりふと思った。


 クイズを片耳に、ショウは車窓から太陽の橙色の残滓を眺めていた。


 時刻はちょうど午後6時。そのとき、車内全体に緊張が走る。


「動くな。全員手を上げろ」


 急に立ち上がった男が、銃と刀の両方を乗客に向けて叫ぶ。


 当然、車内は悲鳴に包まれる。なんせ、乗客たちは幸せな時間を過ごした帰り道なのだ。列車ここにいるのは、この世界の戦場ダークサイドからは程遠いところで暮らしている住民ばかりなのである。事件なんて画面の向こうの話でしか知らない人々がほとんどだ。もちろん、武器を取り出す人もいない。


「貴様たちは今から全員人質だ。変な動きを見せるなよ。お前のせいで関係ない誰かが死ぬのは見たくないだろう?」


 前の車両から武器を所持した男が追加で2人やってくる。ショウたちのいる最後尾の車両にはハイジャック犯がこれで3人いることになった。おそらく、他の車両も同様なのだろう。列車の揺れとは違う騒然さが走ったかと思えば、今度は極度の緊張が伝わってくる。それでもショウは落ち着いていた。なぜならまだ生きているから。列車が爆破で即死じゃなかったから。いつもは自分から仕掛けることがほとんどで敵に攻められるのは慣れていない。口で息を吐くことで実感できる、生きているという事実だけで体は戦闘態勢に切り替わっていた。まずは状況を把握する。車内は座ったままの乗客の手が大量に上がっている。恐怖で筋肉がガチガチに固まっているものばかりだ。戦闘慣れしていそうな腕は見える範囲には見えない。列車は6両編成のはずだから、敵は最低でも18人。だが、何が目的かわからない。大胆にハイジャックして大勢の人質をとるのは権力のある誰かと交渉するときには有効だが、果たして今この国にそんな権力者がいるのだろうか。となると、目的は人質ではない……。となると……。


 いきなりの状況に眉毛がひきつったままのユウに、表情ひとつ動かない肝の太いアキ、キョロキョロしながら周りの状況を把握しているネイ、仕方なげに手を挙げているミヤ、こっちをキツい目つきで睨んでくるミサ。これはきっと「やるのかやらないのか」の判断を仰いでいるのだろう。全員がそれぞれの態度で状況を受け入れているようだ。牛飼と弦木のあのにじみ出る、今にも飲み込まれそうな絶望のオーラを、生死の瀬戸際を体験した後では、ハイジャックに戸惑いつつも絶望で目の前が見えなくなることには陥らないらしい。ひとまずパニックになっていなくて助かる。


(「どうします?」)

(「やるの? やらないの?」)

(「変に動いて他人を巻き込むのは避けたい」)

(「あんたそういうタイプじゃないだろ」)

(「列車は止まってないんだ。逃げ道無いのに戦闘はしたくない」)

(「どこのどいつで、目的は何でしょうか?」)

(「ロクでもないのは確かだな。あと作戦を練る時間がない。すぐにあいつらが来る」)

(「そうですね。そこでドンパチでしょうか」)

(「しばらくはおとなしくしておこう。乗客の戦力がマジで期待できないから増援が怖い。背中撃たれても困るしな」)


 目だけで会話が進む。正直何言っているか、伝わっているのかもわからないが、一旦ステイは伝わったと思う。


 予想通り、すぐにハイジャック犯がショウたちのところに来る。


「お前、両手を上げろと言っただろ。死にたいのか?」


 ユウの首元にナイフ、ショウの額に銃口を突き付けながら、中年くらいの男がショウを脅す。一番弱そうなユウに即死可能な刀を突き付けていて、人質の取り方に抜かりがない。


「すまない。事故で左腕はないんだ」


 ショウが左肩を揺らし、芯のない左の袖を見ると、男はショウたちの元を離れ他の席へ監視に行った。


 そこから、男たちは全員の手首を後ろに回させ、結束バンドで締めていった。これで、銃をその手に取り出しても撃てなくなったわけだ。完全に無力化された。


「お前はこっちに来い」


 手首を縛れないショウは車両の先頭に連れていかれる。拘束できないため、直接監視されるらしい。乗客の前で刀の刃を首元に当てられ、まるで見せしめだ。


「なんだ、お前怖くないのか?」


 ハイジャック犯は表情を動かさないショウに不信感を覚えたようだ。


「すまない。怖くてうまく体が動かない。あと、そろそろ腕が疲れた。さっきから俺だけ腕上げっぱなしだし」

「変な動きを見せなきゃ、その首はまだつながったままだろうよ」

「俺はどうなるんだ?」

「お前たちはこれから奴隷だ。まあ、お利口にしてれば殺されはしないさ」

「お前たちは何が欲しいんだ? 俺は今とても水が欲しい。緊張で喉が渇く」

「―はは、世間話で気を逸らそうなんて無駄だぞ」


 男はショウの腹に当てていた銃口をこめかみに変えてぐりぐりと押し付ける。


「お前はさっき奴隷って言ったんだ。これからの飼い主のことを知りたいって思うのは普通じゃないのか?」

「なかなか利口な犬だな。ボスに忠誠を誓えば出世できるかもな」

「ちゃんと出世があるのはいい企業だ。出世したら何か報酬は増えるのか?」

「さあな。ボスは情に厚い人だぜ。頼んでみるんだな。まあ、お前が欲しいのは犬用の皿に入った水だったかな」

「そうだな。演説に喉は大事だからな。なあ、ひとつ推理を披露してもいいか?」

「推理? 動けば殺すぞ」

「いやいや、あなたがたが何をしようとしていて、これから俺がどうなるか、答え合わせがしたいだけだよ。あんたのとこのホワイト企業は、この国の情事に乗じて武器商でもやろうとしてんじゃないのかってな。戦争で儲かるのは武器屋だ。なんせどこが勝とうが武器は売れるからな。よって、俺たちは人間武器製造機として暮らすことになるんじゃないのかってね。これは人質じゃなくて誘拐だろう?」

「さあな」

「はぐらかしは肯定か? まあでも、欲しいものを聞いたときに銃を見たのが答えだよ。余計な情報は与えないに越したことはないぜ。LP使って武器を産み続けさせられる家畜か。まるで、卵産むニワトリだな。」




 それは、ショウの推理の余韻の前の一瞬の出来事だった。大きな音を立てて3人の男が同時に倒れる。

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