ep66 白黒赤と青
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ユウたちピクニック直行組と別れたネイとショウは“ある場所”に向かった。
望月サトミ(ラビット)を救出し、牛飼たちと遭遇し、ジンとラビットを失って、命からがら逃げ伸びたあの日のことはまだ記憶に新しい。だが、感傷に浸り続けているわけにもいかない。あの日、ジンを残して逃走するとき、バイクで追いかけてきた連中がいた。牛飼につながる手掛かりの一つとしてネイはその行方を追っていた。そして、その連中がよくたむろしていた廃墟がこの近くにあるらしいことを突き止めた。マンションからは少し遠かったため、ついでに親睦会ピクニックを計画したのだった。
街と住宅街を少し進んだところにその廃墟はあった。古びた倉庫のような風貌で、血気盛んな荒れた若者が集うにはちょうどいい場所だ。いい感じに近くて、いい感じに人の目がない。
「ここ、ですね」
「ああ。さすがにこんな時間にはいないだろ」
「まあ、なんとかなるでしょう」
「万が一戦闘になったらどうします?」
「計画通りに行こうか。相手は素人に毛が生えた程度だ。説教が必要かな」
連中の正体はいわゆる暴走族のチンピラだ。年齢は高校生くらいで、学校に行っているのかはわからない。バイクをかっ飛ばしてイキりたくなるお年頃だ。まあ、牛飼に騙されるもしくは、金に釣られるようなそんな奴らだから、おつむがいいとは考えにくい。そして、牛飼に忠誠がある、情報を持っているとは考えにくい。最悪金で解決すればいいだろうという魂胆で、ここへやってきた。まあ、一握りの望みをかけて盗聴器を仕掛けるくらいのことしか計画していないのではあるが。
中に入ると、そこには誰にもいなかった。だが、異様な光景が広がっていた。
あの日見覚えのあるモーターバイクスがある。しかし、タイヤはズタズタでボディはボコボコに殴打され、おおよそ廃車状態だった。それも2台ともだ。
「ショウさん、これは、一体……」
「先客がいたか」
「おそらく……」
「全滅だな」
ところどころ血痕のような跡がある。この世界では、死ぬと文字通り消滅するが、流れた血はケースバイケースでその法則はよくわかっていない。ただ、錆びた鉄のような鼻につく匂いはまだ消えていない。
「まるで拷問でもあったみたいだな」
その光景は、古の拷問を写したモノクロ写真を目前に現像したようで、博物館で写真を眺めているようで、現実を見失いそうになるものだった。
ひと際鉄の匂いの染みついたズタズタの椅子がひとつ転がっている。不吉なロープがところどころに散らばっている。誰かが括り付けられ、痛めつけられたことを告げている、そんな痛々しい椅子とロープだった。
「こんな感じでしょうか?」
ネイは躊躇なく椅子を触ると、倉庫の壁の近くに置く。
「おい、立場が分かってねえようだなあ」
そして椅子に足ドンをかまして、クソみたいなセリフを吐く。ズボンのポケットに手を突っ込み、脅す意味で壁を蹴り、椅子に括り付けた無抵抗な人間を上から見下ろす、そんなクソ野郎の映像を見事に再現した。ただ、ネイの低い身長と短めの足のせいでいまいち迫力がない。それに、太ももがプルプルしている。
「ひでーな」
「あー足痛い。やっば。足釣りました」
「ネコはバレリーナには向いてないな」
ネイはまだ太ももの裏をさすっている。
「白鳥かフラミンゴかは知りませんが、よく片足で立ってられますよね。尊敬します。コホン、本題に戻って、これをやったのはとんだサイコ野郎でしょうね。バイクの壊れ方をみるに、何か情報を吐かせたかったというよりは破壊衝激強の愉快犯に見えます」
「拷問が趣味ってイカれてんな」
「おそらくですが、奴らは全滅でしょうね。こんな趣味の悪いサイコ野郎が取り残すはずがありませんから。ですが、目的がわかりませんね」
「牛飼が俺らを取り逃がした罰で排除を依頼したか」
「いえ、あの人はおそらくチンピラごときに正体を明かすようなことはしてないでしょうから。処分なんてしょぼいことにこだわるでしょうか」
「こいつら他にも恨みでも買ってたのかな」
「サイコ野郎の思考はわかりません。バイクがうるさかったとか、ただの通り魔の可能性だってあります。適当に牛飼を追うつもりが、変なのの尻尾を掴んじゃったかもしれませんね」
「牛飼につながる可能性は?」
「わかりませんが、0とは言えませんね。ただ、こんなサイコ野郎に私は個人的には興味があります。もし牛飼が知らなくても、興味くらいは持つんじゃないでしょうかね。頭のおかしい人っぽいので」
「お前も頭おかしい自覚あるのかよ」
「どこかしら頭がおかしくないと生きていけないですよ。多数は多数であって、正しいわけじゃありませんから。普通に生きれるってのも、おかしいことには変わりないので。さて次はどうしようか?」
「うーんと」
ネイはスマホを取り出して動き回ると、現場を写真に収めた。
「いい考えがあります」
「すごい悪い顔してるぞ」
「予想外の収穫でしたね」
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「というわけで調査に行って来たんですが、わかりましたか?」
「あんたたちがピクニックに誘った理由はわかったけど、学校のくだりはさっぱりわかんないんだけど。まさか善意とか言わないでしょうね?」
「察しが悪いですね。現場には足跡が残されてたんですよ。文字通りの足跡が。私がやったみたいに拷問のときに壁に足をかけたんでしょうね。靴跡がうっすらと残ってました。その靴、結構特徴的でして。調べると、どこぞの学校の制服の指定靴でした。もうおわかりですよね?」
「つまり私たちにそのサイコ野郎の調査をしろと?」
「イエス、ザッツライト!」
「その学校にいるとは限らないし、本当に乗り込む価値があるの?」
「その学校、今のこんな状況でも何一つ問題なく治安がいいんですよ。BBの警護もなくなって、誘拐や学級閉鎖のひとつくらいあってもおかしくないのに。何か裏があってもいいと思います。今回のと関係があるかはわかりませんが。それと、どうせ編入しても途中からなので、ついでにほんの少しの青春を楽しんできてください」
「危ないのか安全なのか、どっちよ。で、どこなの?」
「行きますか? まあ、行かないのなら他の方法で調査しますが」
「行くわよ。あんたに乗せられるのは癪だけど。このまま家に引きこもっとくわけにもいかないし」
「良かった。あ、学校は星庭学園です」
「ちょっと待って。超ハイレベ金持ち学校じゃん。後出しじゃんけんはズルいわよ」
「それが何か?」
「アタシたち学もなければ高貴な所作も知らないわよ」
「所詮、ボンボンたちの学校ですよ。大丈夫ですよ、普通にしてれば。あなたがたをねじ込むのは造作もないんですが、成績のほうはさすがに偽造できないので。お勉強のほうは頑張ってください。変に悪目立ちされても困るので」
「無理。アタシ馬鹿だし」
「そうですね」
「はい? なんて?」
「じゃあ、てっきりバカの自覚がないものかと思ってました。意外です」
「次から次とうるさい。で、ミヤちゃんはどうする?」
「ワタシはいってみたい……かな。せっかくだし」
「勉強は大丈夫?」
「一応記憶があるから……。思い出せば高校の内容ならなんとか……」
「そうだった……」
その後は、残り物をみんなで片づけて、高原のそよ風を浴びて休憩してから、行きと同じ路線の列車に乗った。3人掛けの向かい合った座席に6人は座る。窓側からショウ、ネイ、ミヤ、その向かいに、ミサ、アキ、ユウ。向かい同士のショウとミサは、目を合わせることなく、それぞれ遠く窓の外を眺めていた。




