ep65 青空の下、ブルーシートの上で
そんなこんなで、ユウとアキ、ミサとミヤはロープウェーに乗って先に高原へと登った。透き通った青空、心地よいそよ風、朗らかな気温、総じてとても良い天気が高原には広がっていた。そこに広がる公園は、アスレチックに遊具、滑れる斜面と、子供にはさぞかしエキサイティングな場所だった。家族でやってきて、子供と遊んでいる人々がいっぱいいる。また、広がる手入れされた芝生の上でレジャーシートを敷いて歓談する人々も多い。
ユウたちも、持ってきたブルーシートとその上に座って弁当箱を広げた。
「まあ、あの人たちはいつ帰ってくるかわからないから、先に食べ始めちゃおうか」
「すごくおいしそう」
「あ、これどうぞ。作ってきました」
ユウがサンドイッチの詰まった弁当箱を開ける。ミヤはカバンの中から手作りと思われるマフィンを取り出す。
「え、凄い。お菓子作り好きなの?」
「いえ。前世の知識があるので」
「なんだか小説で出てくるセリフみたい」
ユウたちもミヤのことについては聞いていた。それにしても、いい子たちだとユウは純粋にそう思った。きっと、こういう世界じゃなければ、もっと優しい人に出会えていたら、きっと、輝かしい青春を送ることができていたのだろうと邪推してしまう。ただ、そうであれば、今こうして同じ釜の飯を食べることもなかったのだろう。無駄なイフの皮算用はこの辺にしておこう。今は出会えたことに感謝だ。
ある程度お腹も膨れてきたところで、女子3人が集まって(正確にはアキはいる)することといえば、ひとつだ。
「ねえ、ショウ(あいつ)のどこがいいの?」
「やっぱりショウのことは嫌い?」
「まあね。いけすかない。兄ちゃんのことも許すとか許さないとかじゃなくて、一生言い続けてやる。でもさ、あいつ、気にしてるようで、気にしてなくて、でも気にしてて……。それを見てるとさ、なんか自分だけ過去に囚われて足が止まってるように感じて自己嫌悪になる」
「また戦場に戻れば気が紛れて吹っ切れるかもしれないけれど、一応大人だし、私はあんまり勧めたくないな」
「アタシたちは3人いてなんぼだから……。すぐに死ぬだけだと思う」
ミサの声は悲しそうなようで、悲しくなさそうなトーンだった。しばらくは争いから距離を置きたいように見える。同時に、時間が経てばふらっと舞い戻りそうな危うさも感じられた。
「話を戻してさっきの質問に答えると、どこって、出会えたとこかな」
「なにそれ。出会えたら誰でもいいのかよ」
「強いて言えば、しばらくは離れていきそうじゃないことかな。私も、それなりに別れの多い人生だと思うから。なんか、しばらくは一緒にいれそうってのは重要な要素だよ。勝手にそう思ってるだけだけど」
「幻想だよ。戦いに出てる奴なんてある日突然死ぬんだから」
「そうそう。だから、片手間でするの。戦いも一緒みたいなこと言ってなったっけ。余裕のない一本槍じゃあ勝ち目薄いって。とりあえずの間に合わせで時間つぶし。それで十分って精神衛生的に思うことにしてる。それで、ミサちゃんやミヤちゃんたちのほうはどうなの?」
「話せることなんてないよ。まあ、口説いてくる男はそれなりにいたけど。これから命のやり取りをしようってときに口説いてくるのほんとやめてほしかったよね」
「同世代の子とか出会わなかったの?」
「いてもアタシらより弱かったから覚えてないや」
「妥協は大事よ。他人は自分の思い通りにはならないんだから。理想を探すんじゃなくて、妥協点を探るのがコツかな。パズルみたいに、用意された形しかなんだから。そのうちわかる日が来るかもね」
「学校とか行ってたら多少は出会いとかあんのかね」
「ごめん。それには、はいと即答できないわ。代わりに、お姉さんから助言をひとつ。相手を選ぶときは、背景で選ぶといいわよ。男の人を顔と口で選んじゃダメってのは前提として、ね。背景っていうのは、その人の価値観とか行動とかそういったものに大きく影響している。そこに共感だったり、羨望だったり、はたまた反発だったり、どんな形であれ共鳴できないくらい自分のとかけ離れていると、結局すれちがってしまう。学校が同じってのは、生きてる場所や時間が同じってのが共感しやすいポイントになるね」
「まあ、正直兄ちゃん以上の人じゃないと無理だね。アタシは」
「ワタシはあんまりしたくないかな。看取ることばっかりだろうし。でもそれでもいいって思えるロマンチックな恋にはちょっと憧れる」
恋愛の話を振る人間は、決まってその答えを得ている。でないと、他人の恋愛観に踏み込んで無傷でいられないからだ。自分と違うものに晒されて傷がつかない方がおかしい。だから、傷がついても大丈夫な状態でないとそもそも踏み込まないのだ。強がって問題先伸ばしているようなミサに対し、ミヤは悲しげながらも期待を込めているようだった。
「おい、あんたもなんか言えよ。女子会盗み聞きしといてロハでいられると思うな」
「お前らが勝手に始めたんじゃないかよ」
「好きな子とかいないのかよ?」
親分ミサに巻き込まれたアキは首を大きく一回だけ横に振った。
「まあ、普通そうだよね。こっち側の世界にいると、恋もクソもないよな。悪い女とかはいっぱいいるんだけど」
「学校は行ってたときは、悪いけどねーちゃんより可愛い子いなかった」
「純粋ゆえの悪意のない言葉の刃……」
ユウはアキの姉のことは存じないが、自分よりも“いい女”だったのはなんとなく察していた。だって、全然なびいてくれないから。そりゃあ、焼き肉で牛タンの後に豚タン出てきたら、しょぼく感じるよ。別に豚タンが悪いわけでもマズいわけでもないけどね。でも流石に牛タンには勝てない。
「あんたもアタシたちと似たようなもんだったね。でも、よく(姉を)殺した相手と一緒にいれるわ」
「ねーちゃんも楽になれたと思うんだよ。そう思うことにしてる。この世界には本当にロクでもないクズがわんさかいる。ねーちゃんにつきまとってたようなゲス野郎が許せない。そういうやつをぶっ殺したい。だから、力がいるし、まだ死ねない。あいつは許せないけど、まだ、反抗できない。俺じゃまだ勝てない。でも、ショウ(あいつ)はゲス野郎たち(そういうやつ)をぶっ殺してくれるからまだギリ耐えてる。いつか勝てるようになったら復讐するかも」
「小さいのに結構覚悟決まってるのね。見直した」
ミサは隣に座っているアキの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。そして、いつものようにアキはその手をぐしゃぐしゃと振り払おうとする。
「遅くなりました」
ネイとショウが帰ってきた。2人とも変わりない様子で何事もなかったようでユウは一人で胸をなでおろした。
2人はすぐに広げたシートの上に座ると、小さな声で「いただきます」とつぶやいてから残ったサンドイッチを頬張った。
「それで、どんな話をしてたんですか?」
「女が集まればあれしかないでしょう」
「私はショウさんが好きです」
サンドイッチを頬張りながらネイは即答する。そして、「みんなは?」みたいな表情でこちらを見てくる。せっかく一段落ついた話を蒸し返すのはなんとなく虫の居所が悪いので、ユウはふわっとはぐらかすことにした。
「学校行けば恋ができるのかな、とか」
「無理ですね。恋愛は集団のカースト上位の人々の道楽なので。最下層のあなたがたには縁遠い話です」
もっと言葉を選べるはずなのに、こちらを的確に攻撃できる言葉を選んでくる。純粋に悪意の刃だ。急に飛んできた刃の対処に戸惑っているユウたちを気にも留めず、ネイは間髪入れず続ける。
「そういえば、ミサさん、ミヤさん、学校に興味はありますか?」
「あんなこと言った後に出てくる台詞じゃないでしょ」
「学校に通わないかと聞いているんですよ」
「アタシたちに学生をやれってか」
「そうですよ。学はあって困るものじゃないでしょう?」
「どういう腹積もり?」
「純粋に今しかできないことをやったほうがいいんじゃないですかって提案してるんですよ」
「嘘だ。あんたもそれじゃ私たちが動かないってわかってるでしょう?」
「まあ、そうですね。ここで簡単に首を縦に振られるほうが逆に心配かもしれません。かいつまんで話すので、聞いてから答えを聞かせてください」




