ep64 運がよければ……
「運がいいですね。御見それしました」
「ずっとジョーカー来なかったし。たまたまだよ」
ネイの言葉に、アキは無垢な目をして応える。その言葉を聞いて、溜め息をつく人間が1人。
「私、ずっとビリなんだけど。運無さすぎない?」
「まあ、順当ですね」
「ババ抜き(これ)って運のゲームでしょ?」
「いえいえ、教えてあげてくださいよ、ショウさん」
ショウは内心大焦りしながら、急旋回で飛んできたボールをなんとかキャッチする。
「簡単な思考実験みたいな話なんだけど、勝負に、戦略と運と実力っていう三要素があるとする。そしたら、戦力は戦略に、戦略は運に、運は戦力に、有効っていう三すくみと考えることができる。ユウには運しかなかったから、戦略で対抗されると、不利がつきやすいみたいな。とりあえず、戦い方が少し間違っているってこと。
実際問題、戦力も戦略も運も持ち合わせた奴らと戦わなきゃいけないことのほうが多い。現実は非情ってことじゃないのか」
「ババ抜きでこんな悪口が言えるなんて流石ですね。私はてっきり、『人読み、癖読み、そういった駆け引きを常日頃しているんだから、そんなこと微塵もしてないあなたは不利だ。ゲームで飯を食ってるやつに反射神経で勝負を挑んだり、テニス選手に卓球を挑むようなもの。競技が変わったところで、イーブンにはならないし、たいして弱体化にもならない』くらいを言うと思ってました」
「お前の悪口のほうがひでーよ」
「もう、だいたいわかった。私は勝ち目はなかったってことよね」
「まあでも、助言というかコツがあるとすれば、しているゲームがババ抜きではなくポーカーとでも思うことです。ババ抜きは特殊なので」
「一番メジャーじゃないの?」
「遊び方としてはメジャーですが、ルールは特殊なほうだと思います。なぜなら、多くのトランプを用いたゲームにおいて、ジョーカーはワイルドカード扱いのことのほうが多いですから。ババ抜きはジョーカーが嫌われるかなりレアなゲームです。ワイルドカーを手放すなんてもったいないじゃないですか。早く誰かに擦り付けようではなくて、それをいつ効果的に使うべきか、行使権はこちらにあるのだ、とでも思うのがいいんじゃないですか。絶対にやってはいけないのは、ジョーカーの有無含めて相手に情報を与えることです。それは非常に大きな影響を生みます。勝負において、情報差は不利に働きますし、余裕がないと勝てない勝負には勝てません」
「いやいや、飛び抜けて運がよければどうであれ勝てるぞ、アキ(こいつ)みたいに」
「まあでも、ジョーカーを引かないようにするってのが一番だと思うけど、あんたたちの言う『戦略』って何?」
ミサとミヤに挟まれて、固くなっているアキをショウが褒めると、それにかこつけてミサがアキの頭を撫でる。どうやら、ツンデレのデレがなかなか出てこないタイプの姉ミサは、この間のラビット救出作戦で供に行動したアキをえらく可愛がっているらしい。まるで子分みたいな扱いだ。そんなときに、ミサから飛んできた質問に、ショウとネイは2人して車窓の彼方に目を逸らした。イカサマすれすれの共謀を白状するわけにはいかなかった。
「企業秘密です。そろそろ準備しましょうか。到着するみたいですし」
丁度いいタイミングで流れた到着を告げる車内放送に乗っかって、ネイは話を煙に巻いた。
改札を出ると、流石は行楽地といったところか、家族連れも含め、大勢の人がいた。争いの絶えない世界とはにわかに信じられない程、幸せそうな空間が広がっていた。しかし、どんな繁華街にも、ひとつ路地が違うと薄暗く治安が悪い場所があるように、光があれば影もあるような、この景色が特異でもなんでもなく、なんの変哲もないことではある。
「ショウさんと2人で寄り道するところがあるので、すみませんが先に行っててください」
「そんな気はしてたけど、どこ行くの?」
「心配なさらず。デートとかそんな生ぬるいものじゃないので」
「そういう言い方されると、嫉みよりも心配が勝つんだけど」
「今回の来た目的と関係あるの?」
「ミサさん、それも企業秘密です」
駅を出て公園のある高原へつながる坂道の前で、ショウとネイは別行動を告げる。
ユウもアキも、ネイたちの単独行動? はいつものことなので何も言わないのだった。財政を握るネイには下手に文句をつけられないし、そのネイがベットしているショウの行動も咎められない。だが、上下の権力構造がはっきりしているわけではなく、2人とも素直ではあるし、話が通じないわけでもないしので、お互いに自由の利く関係を維持しようとなっているだけだ。ちょうど国会、内閣、裁判所の三権分立、ちょっと裁判所が弱めな感じもする、のようなものだ。誘っておいて幹事を全うしないのには噛みつきたくもなるが、先に謝っているので許してくれってことなのだろう。




