ep50 どちらが檻の中か
第一印象『ロリ巨乳』。マジで。あと例に漏れず容姿がいい。出会う女全員タイプや方向性が違って、うまくカテゴライズできず脳が混乱する。香囲粉陣で勘違いしそうになる。だが、皆揃って一癖二癖ある。ちゃんと美人なのだが。
「君がロスト君かあ。思ってたよりも若いけどなかなかいい男だね。あと本当に左腕ないんだ」
「あんた名前は?」
「ここではラビットと名乗っておこう。おや、もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃないかな」
「俺も会いたかったよ、ラビット。まあ、可能性としてありえた話だからな。可能性の一つとして考慮してなかったわけじゃない。そんで、こっちも聞きたいことがわんさかある。協力はただじゃないんでね。後でみっちり吐いてもらう」
「じゃあ、さっさとズラかろうか。あと、ハッキングしようとしてるみたいだけど、たぶん無駄だよ」
「うちの(ハッカー)は優秀なんで」
「一兎も得ない結果にならないような忠告なんだけれども」
ネイからインカム越しで通信が来る。どうやら、ハッキングできなかったというよりは、めぼしい情報がなかったようだ。ラビットが拉致されて2日も経っていない。拉致犯は研究が上手くいかなかったから優秀な研究者を拉致してきたわけで、当然と言えば当然だ。
だが、人生2回目の正体を知らなかった奴と実際に会ったら実は女だったケースに、やっぱり戸惑いが隠せない。ジンとミヤの2人は慣れた様子だったので、正確な正体は知らずとも性別くらいは知っていたのだろう。加えて、ショウとネイとラビットのちょっとした因縁も知っているようで、出会い頭にもめないか警戒しているようだった。ちゃんと必要な情報は開示しているところは、ジンたちから見てとれたラビット(ボス)への信頼が築かれていった理由のひとつなのだろうと感じ取れた。
「あのー、他の捕まってる人たちはどうするの?」
「そんなのおいて逃げるよ」
ミヤの良心的な疑問に、ラビットと名乗る女はバッサリと即答両断した。ジンも顔が少し引きつっている。それを見た女は補足を続けた。
「だって、彼らは研究させる目的で拉致されたんだから、研究さえしてれば当分の間の命は保障されている。自由をこよなく好んでいる私には檻はいささか窮屈なんだ。そんなことで、私が逃げられなくなっては困る」
自己中心的なその発言に、兄妹2人は得心がいっていないようだった。ジンが目配せで意見を求めてくる。ボスには頭が上がらないらしく、部外者のショウに一言を求めているようだった。
「同僚なんだろ?」
「BBでは研究成果を食い合う敵同士だったんだから、むしろそれを気にせず研究させられるここは彼らにとって楽園のはずなんだがね」
「まあ、俺はお前らのボスの救出しか頼まれてないから。それ以外は別料金だ。正義のヒーローごっこは俺のいないところでやってくれ」
「やるねえ、君。気に入った」
『ラビット』という凶悪なハッカーの名は一部では知られていた。その正体は、こんな小さい女だった。だが、体は小さいながら、並々ならぬ度胸と知能を持っていることはこの少しの会話だけでわかった。彼女が嘘をついている可能性もなくはないが、その必要性が見当たらないし、これまでの手腕で裏付けるには十分だった。今考えてみれば、子供故の残酷さみたいなものだったのかもしれないと思わなくもない。
女は興味が湧いたのか、ショウの顔を見ようとフードに手を伸ばしてくる。ショウは顔を反らして拒否する。女の小さい背丈では背伸びしても届かなかった。そして、先ほどから話し方が上から目線なのが気に障る。
「もういいや。早く逃げよう」
女はショウに構うのを諦めて切り替えた。
4人は扉を出て、ラビットの支持するルートで研究所内を抜けていく。綺麗に監視カメラや見回り兵との遭遇を回避していく。
「おい、あんた。これなら一人で逃げられたんじゃないか?」
ジンとミヤが先行し、その後ろをついて行くショウは隣にいるラビットに聞いてみた。
「それはそうなんだけど、万全を期して、ね。できるなら、ボディーガードがいたほうがいいでしょ。それに、ここ僻地だから施設を脱出した後が寂しいじゃない」
「気になってたんだが、誘拐にしてはザルすぎないか?」
「誘拐するときの謳い文句は、『ついてくるか、それともここで殺されるか』だったかな。まあ、BBだと法外な研究はできないわけで、新天地が見つかって歓喜している者も少なくはないはずだよ」
「そいつら本当に天下のBBの社員なのかよ」
「研究者に倫理観なんて期待しちゃダメ。普通の研究者は研究費がカツカツで息を切らしてるのがオーソドックスなんだけど、BBにはたんまりあったからねえ。やりたいことが気兼ねなくできるから、ネジの外れた頭のおかしい奴らはエスカレートしちゃうんだよ。結局BBは襲撃で撃ち負かされちゃったわけだし、弱いなら見限るのもまた摂理さ。彼らは頭がいいからね。凡人たちが重んじる序次とか筋とかを吹っ飛ばして考えちゃう節があって、軽視しちゃうんだよ。純粋に心から世の中がよくなって欲しい、って本当に思ってるんだよ」
「まったく話が理解できない。ボス、嚙み砕いて説明して」
会話を聞いていたであろうミヤが口を挟んできた。先行するジンが役割のほとんどをこなすので、きっと暇になったのだろう。
「例えば、法的な治験によって生まれた新薬と、非人道的な人体実験の果てに生まれた新薬があったとしよう。どちらも人の命を救う神薬だったとして、そこにどれほどの差があるのかって話だよ。人体を使った実験には変わりないし、人を救ってるのに文句があるのかってね。考え方の話をすると、ダメなものから生まれたモノであっても、ダメなのはそれまでのところであって、そこから生まれたモノは別で、それを否定するのは違うんじゃないかって感じかな」
「結果良ければすべてよしってことなんだろうが、成果がすべての仕事だからな。まあ気持ちは理解できなくもない」
「自分の研究が世界を動かし、世の中を平和にするって信じて疑ってないんだよ。それ故に、だね。まあ、この国一の研究機関の所属ではあるし、間違ってないんだけど」
「ずいぶんと危険なにおいがするな。正義は1か、それ以外か、だ。0か複数だと基本的に何も起きないが、1だと盲信すればそれは破滅への入り口だ」
「そうだね。自分の正しさを依怙贔屓している人間には関わらないほうがいい」
「というか、君意外とおしゃべりなんだね」
「俺はビジネストークのつもりなんだが」
「そういえば私の唯一の親友だった人が君らしきボウトに助けられたと言ってたんだ。もし……」
「しっっ」
突然ジンがストップをかける。耳を傾ければ足音がする。そんな警戒は虚しく、銃口がこちらに向けられる。まだ姿が見つかったわけではないだろうが、明らかに存在はバレている。




