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銃力と  作者: 沓月
31/62

ep31 覗くだけは飽き足らず、深淵に足を踏み入れた

 次の日から、地下倉庫でのトレーニングが開始した。車もそこにあるとのことなので、初日の行きだけは徒歩で向かわなければならなかった。会話もないままに2人はマンションを出ると、案の定、ショウはまるで背中を追いかけてこいと言わんばかりに走り出す。いや、置いていくつもり満々だ。シャイな男が気を利かせるなんてことをするわけがない。会話がない方が楽だと考える方が自然だ。2人きりの行き時間に少しの希望でも抱いたことを反省した。


 頑丈なセキュリティをくぐった先には、予想だにしなかった光景が広がっていた。ネイは使ってない地下物置倉庫だと言っていたが、水や食糧、武器や弾薬が常備されている。もちろん車もある。奥の方には、トレーニング機器もさることながら、射撃場と思しき設備や、武具の試用の跡もある。明らかに訓練用の施設であり、一時的な避難場所として使うことも想定されていたはずだ。倉庫内を反響する音が、金持ちの恐ろしさを告げていた。


 ショウは、ひと通り準備を済ませると、さっそく試射を始める。感触がよかったのかすぐに撃ち止めると、次は筋トレに勤しみ始めた。


「私は何をすれば……?」


 ショウは大きく溜め息をする。ユウにはそれが照れ隠しであることがすぐにわかる。教える自信がないのか、教え方がわからないのか、とりあえず、シャイなのだ。ただ、話しかけなかったらこのまま無視しておくつもりだったのも透けている。


「使える武器は?」

「社員訓練でピストルとアサルトライフルは触ったことがあるわ」

「撃ってみて」


 ピストルを渡され、ユウは的に向かって引き金を引いた。両手を伸ばして反動に備え、目で対象と距離を見極め、呼吸を整える。そうやって神経を集中しても、弾は思ったところに飛ばないし、腕は痺れる。

 ピストルを撃ち終わると、次は無言で渡されたアサルトライフルに持ち替え、引き金を引いた。


 撃ち終わっても反応がないので、恐る恐る振り返ってみる。ショウはユウが撃ち終えたピストルを弄っていて、目線はこちらに向いていなかった。


「どう?」

「まあいいんじゃない。あんまり教えることなさそうだし」

「自分の身を守れるくらいとは言わないから、あなたたちの邪魔にならなくなる方法はない? それと、狙ったところに弾いかないんだけど、コツない?」

「別に邪魔じゃない。それは俺も聞きたい」

「でも、さっき的に全部当たってたじゃん」

「あんた勘違いしてるよ。あれじゃあ実践では意味がない」

「どういうこと?」

「落ち着いて撃ってんだから、そりゃあ的の近くに行くさ。でも、実際はそうもいかないだろう? 恐怖とか焦りとか不安とか、冷静ではいられないから」

「ショウみたいなのでも不安になるんだ」

「死ぬのは怖い、普通だろ」

「結局どうすれば」

「逃げる、これに尽きる。相手が手を出せなくなるまで位置まで、逃げる。銃は有利状況で抜く。逃げられない場合は、後先考ずそこまで飛び出したのが悪い」

「じゃあ逃げるにはどうしたら……」

「体が資本だよ。結局、技術を手に入れるにも金が要るしな」


 それからは、文字通りトレーニングだった。筋トレやランニングで、体を鍛えていくのだった。2人でトレーニングをするのは最初は気恥ずかしさがあったが、途中からはそうもいってられなかった。ユウは、普段から体を動かしているようなジム通のサラリーマンでは決してなかったので、いきなりのトレーニングには身に堪えた。それでも、ストイックな仕事と生活と調査をしていたおかげで、意外と体はついてきていた。でもそれ以上に、最初は涼しい顔をしていたショウが、だんだん疲れてくると、息が荒くなったり、手を抜いたり、サボったり、横になっている時間が長くなったり、勝手に予想していた厳格なストイックさが欠片もなかったのだ。自分と同じような人間であると自覚する他なかった。マッチョではない細い体の線に嘘はなく、少し筋肉のついた身体の男でしかなかった。勝手な幻想を壊されたユウは、帰り際に聞かずにはいられなかった。


「ショウって結構ユルいのね。思ってたのと違った。」

「なんだよそれ。別にマッチョになる必要ないしな」

「ボウトで強いともなればゴリゴリのイメージあるじゃん」

「筋肉付きすぎて体の取り回しが悪くなったり、機敏じゃなくなったりする方が困る。ヒットボックスも増えるし。バランスが大事だと思う」

「BBのガードはみんなガタイが良かったよ」

「銃ってのは人を殺すこと、それに特化した武器だ。包丁と違って、それしか用途が無いしね。そして、剣士や戦士ならパワーがいるが、銃はそうじゃない。遠距離から、力関係なく同じダメージがだせる。チビでもヒョロガリでも大男を倒せる。だから、シンプル故に駆け引きが必要になる。銃ってそういうものだから。だから……。いや、なんでもない」


 振り回すだけで凶器になるバットや包丁とは違う、弾がないと意味がないし、手入れや準備がいる、持っているだけでは機能しないから、単純に見えてどう使うかが問われる、とでも言いたかったのだろうか。ただ、頭を使った戦略が必要になってくる分、小さいというわけではないが決して大柄でもない、平均的な体格のショウにとって、この銃環境は決して向かい風ではないということらしい。


 それからの日々は、午前中に車で地下倉庫に行って、トレーニングで体を動かし、夕方ごろに車で帰ったら、今度は料理作って、死んだように寝る。銃も触るが、撃つのにもお金がかかるので、そうやすやすと無駄遣いはできない。


 ショウはたまにネイと共謀して、ボウト狩りに行っていた。人を殺さないと生きられず、たまに殺しに行くような人間と一緒に生活をするというのは嫌悪感や抵抗があるかと思われたが、そうでもなかった。だって、BBのガードも同じように危険分子は排除していたし、排除するかどうかの線引きが意外と似通っていたからだろう。例えば、抗争からの虐殺を働いた集団から叩くとか。とは言いつつも、怪物と戦う者から、怪物へと染まりつつあることをユウ自身も否定できなくなりつつあるのだった。

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