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銃力と  作者: 沓月
30/60

ep30 一旦調停

 回鍋肉、一品だけ作ったが、ここで一つ分岐が発生する。小分けにするか、オードブルのように取り分けて食べるようにするか、である。

 ショウに聞くと、案の定、どちらでもよいとの回答が帰ってきたので、小分けせずに大皿に盛りつけた。出会って3日しか経ってないのにもう3人で食卓を囲めるくらいになっているのがユウは嬉しかった。しかし、同時に気付いたこともある。ネイは体もまだ小さいし、寝室に積まれたラムネと炭酸水の箱の量から想像はしていたが、小食だった。それ以上に、ショウもネイに負けないくらい小食だった。ユウは急に恥ずかしくなるのだった。


「ねえ、あなたたち、もっと食べなよ。もしかして、私の料理マズい?」

「そんなことはないですよ」

「ならいいんだけど。この中だと私が一番大喰らいなのなんか……」

「いいじゃないですか。デブになれば」

「これでも気にしてるんだから」

「まあ、ショウさんに相手にされないからって、胃袋から掴もうなんて魂胆は見え見えですけどね」

「あなたたち、私よりマシなご飯作れるの?」


 2人とも箸を止めて黙った。どうやら、できるできないは別で、料理をしたくはないらしい。


「まことにごめんなさいでした」

「味はどう、ショウ?」


 ユウは思い切って、聞いてみた。初めて名を呼んだ。


「んんっ、まあ、別に」

「それじゃわからないんだけど」


 ユウは自分が少し意地悪になっているのを自覚しつつも、味と呼び方のどっちかくらいには明確な反応を示してほしかったので、ワガママに踏み込んだ。


「うまいよ」

 味には反応をもらえた。しかし、無理やり迫ったっからか、物寂し気なトーンだった。


「食べにくいんですよ。ショウさんは片腕なんですから」

 ネイが呆れたような口調で言った。


 あまりに器用に箸を使っているので、ユウは気付かなかった。紙皿を手でもち上げることができないし、軽い紙皿は動いて使いにくい。


「ごめんなさい、私、全く考えていなかった」

「いいよ。作ってくれてるのはあんたなんだから」

「いや、これからはちゃんとする。もしかして、おにぎりとかのほうがいい?」

「いや、気にしないでくれ」

「ここで言っとかないと、この先手間が増えるかもしれませんよ」


 ネイが助言を挟む。諭された年上2人は息を吞んで、お互いに目を合わせる。


「もしかして、友達のお母さんが作ったおにぎりとか食べられないタイプ?」

 ユウはいたって、真面目な質問をしたつもりだった。ショウは下を向いて、笑いをこらえながら、首を振っている。


「あんたに合わせるよ。まあ、そっちの方が助かる」


 これでいっけん終わったかのように思えたが、ユウは食い下がった。

「私の呼び方どうにかならない? ネイちゃんだけずるいよ」

「あなたに付け入る隙は与えませんよ」

「ネイちゃんもさあ……」

「私は許可した覚えはないんですけど」

「なんて呼べばいいんだ?」

「名前で。ユウでいいよ、ユウ」


 ショウは戸惑ったような苦い表情をしている。ネイはネイで、呆れたように溜め息をつく。


「ショウさん、前々から思ってましたけど、年上のお姉さんに弱いのどうにかなりませんか?」

「ちょっと待て」

「いやあ、他人の性癖についてイチャをつけるつもりはないんですが」

「冗談はやめてくれよ」

「年上のお姉さんには甘い傾向があります。この前もそうでした。最後には殺してたので文句は付けませんが」

「ごめん。でも、男ってそんなもんだろ」

「ロリコンだったら文句はなかったんですが」

「そっちのほうが問題だろ」

「例えば小さい頃にお姉さんに性癖でも歪まされでもしたんですか?」

「言われてみればそうかもしれない」

「否定すると思ってました。何があったんですか?」

「俺を鍛えてくれた人は年上のお姉さんだった」

「その人のこと詳しく聞いてもいいですか?」

「また今度な。飯が旨くなる話でもないし」

「ショウさんはこうなので、あなたが特別だとは思わないことですね」


 唐突にネイからくぎを刺され、ユウは頭を低くした。


「そういえば、なんか銃が撃てるところないか?」

「ボウトの寝床でも襲えばいいのでは?」

「それはするけど、トレーニングする場所があったらいいなと。ないならあの家に帰ろうか」

「あれを家とは呼ばないんですけどね。近くに地下倉庫があるのですが、そこ使いますか? スナイパーとかは響くのでマズいですが、ピストル程度なら大丈夫です。まあ、そんなに広くないんですけど。ここからだと車で20分弱くらいです」

「そんな場所聞いたことないぞ」

「物置として父が作ったものらしいので、部外者の心配もありません」

「車で20分か。結構あるな」

「ユウさんに運転して貰えばいいじゃないですか?」

「えっ、私?」

「車ならありますよ。それも地下倉庫にあったはずです」

「走るから別にいいんだけど」

「ショウさん、ここは居住区です。あなたが住んでた幽霊地区とは違うんです。目立つ行動は避けた方がいいです」

「なんか申し訳ないんだけど」

「ついでにショウさんにしごかれてきたらどうですか?」

「人殺しの作法を教えるのは気が乗らない」

「元の刑法が機能していた世界でも正当防衛は認められていたんですから。自分の身を自分で守る力くらいはあったほうがいいんじゃないでしょうか」

「あんたはどうなんだ?」

「ユウよ」

「……ユウさん」

「私はあなたたちの足手まといにはなりたくないかな。私を強くして欲しい。でも、キツいのは嫌かも」

「わかったよ。いろはくらいなら。役に立つかはわからないが」

「謙虚なのね」

「あの日にみたいにただ叫ぶだけじゃ困るからな」


 照れ隠しだろうか、最後の言葉は皮肉めいて聞こえた。


「あ、思い出したことがあるんだけど、いい? あの日の『あのとき』って何だったの?」

「あの日あの時あの場所でって、いつのどこだよ」

「旅館で会ったときだよ」

「突然すぎるだろ」

「あのとき、『あのときと似てる』って言わなかった? 『あのとき』ってどういうこと?」

「あのときがゲシュタルト崩壊して訳がわからん」

「私も聞きたいです!」


 ネイの後押しもあって、ショウは重い口を開いた。


「まず初めに言いたいのが、記憶が曖昧ってこと。覚えてないことも多いからご容赦を。前に、鈴橋に会ったことがあるって言ったの覚えてるか? 顔を合わせたわけじゃないんだが、俺は鈴橋を見た。俺には兄貴と師匠がいた。その2人が鈴橋と会うらしくて、覗き見してたんだ。そしたら、襲撃されて、その先は記憶がない。気付いたら家に戻っていた。そのとき最後に見た光景が、料亭の襲撃の部屋あのときと似ていた。まるで空間が抜け落ちたように見える、そんな感覚」

「お兄さんたちは?」

「たぶん死んだんじゃないか。それきり会えてないし」

「なんかごめん」

「それが鈴橋は生きているとする証拠なんだけどな。兄貴たちは相当強かった。でも死んだ。俺は何故か生き残った。呼び出したのは鈴橋なのに、死ぬなんて間抜けすぎるだろう?」

「ハメられたってこと?」

「真偽はわからん。でも、兄貴たちが罠が見破れなかったとも思えない。予想外の展開は、好転すればいいけど、手に負えない程の最悪の展開にもなりえるから。この真偽を確かめるってのが当面の目的ってやつでいいのかな」

「なんかものすごくスッキリしたー」

「どこがですか?」

「旅館で最初に会ったときからずっと引っかかってたから。私も鈴橋会長が生きてるか正直信じきれてなかったんだよね」

「鈴橋を追うってのは誰でも思いつきますが、大抵の人間はすぐに諦めますからね。情報が無さすぎますから。確証もなしに追い続けられるのはある意味異常者です」


 異常者なのはお互い様でブーメランとはツッコまなかった。ネイちゃんはツッコミ待ちしてることが多い気がする。わざとだろうか。

 ここで、ショウが珍しく自分から口火を切った。


「てかさ、あれって料亭じゃないのか?」


 ユウもネイも目を丸くして、口が開く。


「亀路都って旅館じゃないの?」

「だって飯屋じゃん」

「でも、泊まるとこあるよ」

「それは別館じゃん。あの店自体は料亭だろ」

「複合施設なら旅館って言い方でしょ」

「やっぱ料亭だろ」

「いや旅館ね」


 頓珍漢な睨み合いとやり取りが続く。しびれを切らしたネイが仲裁に入った。


「ああ、もう、料亭だの旅館だのどっちでもいいじゃないですか。なんなんですか」

「なんか気になってさ」

「意地張ってたら引けなくなっちゃった」

「ああ、もう、しょうもない意地の張り合いの仲裁をさせられる方の身にもなってください。ああ、めんどくせえ。もう、『定款』を決めましょう。まず一つ、私たちは独立した一個人であり、自己の危険と計算においてその良心に従う、その二、私の存在と命令は絶対、です。わかりましたか?」

「おい待て。おかしいだろ。定款なら絶対的記載事項が足りてないぞ」

「ツッコむところ絶対そこじゃない……」


 3人ともこれ以上の応酬を諦めた。収集がつかなくなる前に撤退したのだ。


 こうして、紆余曲折あって行きついた3人は共同生活をスタートさせたのだった。


 次の日から、ユウはショウから手ほどきを受けることになり、本格的に一般人から逸れていく(テイクオフする)のだった。

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