ep24 鼎談3
「まず、この世界はどういう世界かご存じですよね?」
「『エクスカリバー』が具現化した世界って言われているよね」
「これくらいはあなたでも知っているような常識ですね。約100年前にリリースされた伝説のゲーム『Excalibur』に酷似していると言われています。ゲームの概要としましては、所謂MMOFPSで、戦場で銃を撃ち合うゲームでした。RPGのような要素も兼ねており、街の散策から、NPCとのサブクエスト、ミニゲームや賭博場など、人ぞれぞれの楽しみ方ができるのを売りにしていました。
今からちょうど20年前、ある日を境に、人々は誰もが最大300のLPとそれを消費して銃を購入する力を手に入れました。まるでゲームのステータス画面をいじるように、通販サイトを眺めるように、脳内でそれらを確認、使用できるようになったのです。そう、急に、突然にです。まるで魔法のように。そのLP関連のシステムが『Excalibur』のと酷似していたというわけです」
「それは当然知ってるわ。常識だし」
「そのおかげでそれまでの秩序が崩壊、世界は荒れに荒れ、あちこちで銃撃戦が繰り広げられるようになりました。その結果、ボウトと呼ばれる無法者たちやPMCが跳梁跋扈する秩序のない戦国時代が到来したわけです」
「そのチュートリアルは飛ばせなかったのかな」
「本題はここからです。ここからは私の推測混じりになりますが。
ショウさんは、おそらく、LPが定期的に減っていくんじゃないでしょうか?」
「⁉」
ユウは背筋を起こして、ショウに目をやった。ショウは相変わらず黙ったままだった。しかし、沈黙が答えといったところだろうか、ネイの推測は間違っているようではなかった。
「そんな人聞いたことない」
「私も初めてですよ」
「じゃあ、もう寿命があとわずかてこと? もし300で1日1減るとしても、あと1年もないじゃない!」
「どーなんですか?」
ネイは本人の口から言質を取ろうとする。ショウは右手で頭を抱える。ユウからは後ろ頭しか見えないが、予想の答え合わせにネイの目はきっとキラキラと輝いているのだろう。そんな視線に押されてか、渋々首を縦に振った。
「まあそんな感じだ。すげーな。なぜわかった?」
「いえいえ。ちょいと考えてみれば、推測できなくはないです。襲撃のペースをみるに、減るのは1日1であってると思うのですが、今はLPはいくら残ってるんですか?」
「個人情報だぞ。いくらなんでも口を滑らせていい状況ではないだろ」
「ハッカーに個人情報保護なんて、物分かりの良い22の女、海底の鳥ですよ」
「どうせお前ならそれもわかってるんだろう?」
「まあ、250くらいでしょか。300を超えないのであれば、殺しすぎて溢れても損ですし」
「すまん、今日、1発スナイパー貰ってんだ」
「久々の被弾報告ですね。大丈夫ですか? ということは、残り50パーセントといったところでしょうか? というか、ショウさんならスナイパーくらい避けられたのではないですか?」
「そうかもしれないけど、そっちのほうが都合が良かったんだよ」
「また謙遜ですか。もうちょっと誇ってくれてもいいんですよ。じゃないと私が恥ずかしくなってくるじゃないですか。で、引き換えに得たのがこの女ですか」
「ちょっと待ってよ。私2回くらいをディスられてなかった?」
隙間に毒づきを挟んでくるネイに対して、年長者としてもいちいち腹を立てるわけにはいかない。それに今は言い返すための頭が回らないので、正面から正々堂々挑んでいくこともできない。この勝負はまたの機会にお預けとして、ちょうどショウが会話に絡んできたので、今度はショウに疑問を向ける。
「いつからそうなの? それと左腕はどうなっているの?」
「一度に2つ質問をするなよ。まあ、俺も理屈は知らんが、2つともある日を境にそうなったことは覚えてる。左手はこんな感じ」
ショウは右手で左の二の腕を持ち上げる。覇気のない左腕になんて言葉をかけたらいいかすぐに出てこない。確認も兼ねてか、ネイが解説を挟む。
「ゲーム風に言えば、これらはある種の『呪い』や『毒』などの状態異常みたいなものでしょう。それなら、呪った相手を倒すか、解呪や解毒できる人を探せば治せるかもしれません。他にもチートでどうこうっていう手段もありますが、それはそれで開発に時間がかかりますし、何よりショウさん自体が拒否するので無駄です」
「天才のあなたでも作ることはできないの?」
「煽ってます? 稀代の天才の私にもその辺のノウハウはありませんが、不可能とは言いません。あと、天才なんて安っぽい言い方しないでください。せめて、『稀代の』くらいはつけてください」
「はあ。で、治癒は使えないの?」
「あれは、皆に備わっている能力ですが、銃を取り寄せる能力然り、銃関連限定の魔法みたいなモノです。銃以外は出てこないし、銃以外の傷も治癒できません。常識のはずですが?」
「確認しただけよ。それじゃあ、本当にショウ(このひと)は左手が使えないまま、人を殺し続けないと生きていけないってこと? そんなの……なんか……あんまりだよ」
「それの何が悪いんだ?」
優しくはなく、かといって冷たくもなく、そして悪びれて開き直っているわけでもない、そんな雰囲気を纏った質問が急に向けられる。
同情―これはダメだ。共感や慰めが求められているわけでは決してない。もちろんそれがなかったわけではないが、ここでは口に出してはいけない。きっと純粋な興味なんだ。綺麗事は泥を塗ることになる。誘導尋問チックな言い方をされたが、それに引っ張られてはいけない。ユウは、綺麗事にならないほうの本音を口にした。
「ハンデを抱えながら、減っていくLPに神経をすり減らされながら、人を殺さないと生きていけない負荷は、私は想像したくもないなあって」
「おっと。『人が悲しむから人を殺してはダメ』とか甘いことぬかすかと思いました」
ネイが口をとがらせながら煽ってはきたものの、剣道でいうところの1本は取れたらしかった。
「生きるためだししょうがないって思えれば楽なんだけどな」
「思わないの?」
「しょうがないで片づけるには人の命はデカい。治癒ができるようになったといっても、命がひとつなのは変わってないからな」
「まともでびっくりした」
「まともなわけあるか。言うなれば、気分で殺す愉快犯さ」
「害意のない人間は殺さないって言ってたじゃん」
「でもそれが殺す理由にはならないだろう」
「死んだら喋れないのに、殺す理由ってそんなに大事なこと?」
「ただ、目的のために手段を選ばないってわけでもなく、ネジが外れてとち狂ってるわけでもない、中途半端は格好よくはないだろう?」
「そんなことないですよ。私はショウさんを肯定します。このまま全肯定botも辞さないです」
「これで幻滅してくれたら助かったんだけど……」
メンヘラみたいなことを口走るショウに、思わずネイが口を挟む。まるでダメンズ好きな苦労するタイプの女のテンプレみたいだ。
しかしながらここにきて、ショウが本音に近い部分を吐露した理由がユウにはわかった。きっと、中途半端な自分を他人に見せたくないのが半分で、残りの半分はユウたちを自分から遠ざけたいのだろう。人との関わりに慣れていないことに加え、状況が特殊ゆえに巻き込みたくないのだろう。一言で言って、不器用だ。
あのとき、ユウはこの船に乗ると決めたのだ。それを理解させることが必要だ。




