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銃力と  作者: 沓月
15/60

ep15 慮外の干渉

「緊急事態です。お客様方は落ち着いて、係員の指示に従ってください。繰り返します。緊急事態です。お客様方は落ち着いて、係員の指示に従ってください」


 ウォーンという警報と非常事態と避難指示を告げるアナウンスが繰り返される。

 静寂から一変して周囲が騒々しくなる。


 ユウも目の前の隻腕のボウトもキョロキョロ周りを見渡すが、屋上からでは外の人の流れくらいしか見えない。


 そんなさなか、物凄い騒音とともに、2台のヘリがこちらに向かってくる。

 2人の上空で停留すると、梯子を垂らし、そこから武装した兵士が次から次へと降りてくる。


 2人はその音圧と風圧に押され、その場に留まっているのが精一杯だった。

 2人が足元を取り繕うこともままならない間に、ユウの後ろ、ひとつしかない屋上の出入り口の前にずらりと兵士たちが並び、こちらに銃を向け終わる。


 半目で見ただけでも、2人ともその兵士たちの身なりには覚えがあった。


 間もなくして、ユウが先程出てきた屋上への扉から黒いスーツに身を包んだ男が数人の護衛とともに出てくる。


「誰だ」

 隻腕のボウトは、いかにも怪しい登場をした男に手にした銃を向け直して問うた。


「室長!」

 ユウは思わず声を上げた。


「九鳥、ごきげんよう。そして、そこのボウト君、初めまして。私はベルブリッジ社情報収集指令室室長の藤鹿という者だ。会えて嬉しいよ」

 藤鹿室長はいかにも社交辞令なお辞儀をしながら名乗った。


「手厚い歓迎をどうも」

 隻腕のロストは焦ったような素振りを一切見せない。2人の間に挟まったユウは、その会話の邪魔にならないように二人を結ぶ直線の上から少しずれる。


「どうして、室長がここに?」

 ユウは2人の会話が進む前に割って入った。自分が置いていかれたくなくて、後ずさりした足を一歩前に踏み出す。


「九鳥、BBのことを軽く見過ぎではないかな。これでもこの国一の軍事会社なんだ」

「何を、しに来たんですか?」

「部下を守るのも上司の仕事だろう」

 藤鹿室長はどうやら機嫌がよさそうだった。ユウは初めて見る藤鹿室長の様子に違和感を覚える。室長はどこからこのことを嗅ぎつけたのだろうか。ユウは最善の注意を払っていたはずだった。目の前の事実と考えられ得る信じたくない予想で、頭が熱くなってくる。


「おい、どこまでが今回の作戦か? お前もグルか?」


 隻腕のボウトは、手に持った銃を再度ユウに向けて質問してきた。落ち着かないのか、強風に揺られているのか、さっきからソワソワと左右移動を繰り返している。


 フンフンフンフンッ。こんなことになるなんて聞いていない。


 ユウは全力でブルブルと首を横に振った。向けられた銃の先端からは、いままでに経験したことのない殺気を感じた。それに圧倒されたユウはうまく声が出せなかった。


 そんなユウはまた蚊帳の外で、隻腕のボウトと藤鹿室長との会話が始まる。


「この女はBBの社員でお前の部下。今回の件はこの女の独断で、お前はそれを聞きつけてやってきたストーカー、ということでよろしいか」

「いやいや、ストーカーとは心外だなあ。上司として部下のことを気にかけているんだ」

「まあ、どっちでもいいや。俺への歓迎は目の前の奴らとあそこのビルにいる奴で全部か?」

「なんのことかい?」

「さっきから目線が泳いでるぜ。あのビルに狙撃手スナイパーでも配置してるんだろ。これだから指揮官は戦場に出てくるもんじゃない。まさか用意した作戦がこの2つだけじゃあるまい。今のうちに残りの隠し玉も明かしてくれると助かるんだけど」

「さて、なんのことかなあ。ところで今更なんだけど、君は何者なんだい?」

「何者って? 知らずに来たとかはないだろ?」

「いやいや、君の口から自己紹介が聞きたくてね」

「善良な一般市民だよ」

「ほう。では、善良な一般市民がこんなところで何を?」

「それは、そこの部下に聞けばいいだろう?」

「僕は君をボウト認定して、この場で殺すことだってできるんだ」

「ハッタリにしては下手が過ぎるぞ。情報が欲しいのに始末とはこれ如何に」

「少しは口が回るようだね。では、ここでひとつ世間話だ。君は先日、『亀路都』という店が襲撃されたのを知っているかね?」

「さあね」

「いやあ、あの日の襲撃は凄まじかったんだよ。なんせあの鈴橋会長が姿を現すという噂まであったくらいだ。まあ、所詮噂は噂さ。それでも戦闘は激化した。ただ、不思議なことにそれに関わった部隊は、敵味方関わらず軒並み失踪していてね」

「はて、それが何なんだ?」

「九鳥が最近はその襲撃のことを調査しているのは把握していたんだ。そしたら、誰かと会う約束を、それも相手はボウトとしていた。バレたら懲戒解雇ものさ。そんなリスクを冒してまで会おうとする相手だ、興味も湧くだろう?」

「お前、キモいとは思わないのか」

「犯罪者に言われたくはないね」

「お前らもさんざん殺してきたんだろう? いったい何が違うのさ?」

「正義と大義の有無さ」

「正義ってどこにあんの?」

「我々にはあるのさ。それゆえボウトは始末するに限る」


 夜風が吹き抜ける屋上に緊張が走った。そして、次の瞬間……。




「ズシャ」という気色悪い効果音がユウの脳内を駆け巡る。


 下を見れば、隻腕のボウトがうつ伏せでユウの足元に転がっている。赤い血がユウの靴の周囲を縁取っている。


 遅ればせながらキャーという叫び声をあげてユウは尻もちをついた。


 死んだのか、いや、そんなはずはない。消滅し始めてないし。でも、治癒ヒールしている様子がない。気絶? 大丈夫……?


 ユウが現実から一旦目を逸らすように見上げた視覚の先には、丁度良さげな高さのビルがあった。さっき話に出てきた狙撃手の仕業なのか、次は自分かと危機感が体を走る。しかし聴覚は、部隊がユウたちを取り囲むように展開してくる音を拾っている。


 ヤバい、捕まる……

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