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銃力と  作者: 沓月
13/22

ep13 庭に連れ出す勇気のある人間は

 それから数日後、スマホの着信音で意識を覚ます。チリンチリンと煩わしい電子音が快眠の邪魔をする。布団の中から出たくなくて、枕元のスマホを掴んで放り投げようと振りかぶるが、指が触れて反応した画面が光る。表示された1600を超える数字を見て夢から覚める。仕方なく起き上がって手に握ったスマホを耳に当てると、元気のいい挨拶が聞こえてくる。


「おはようございます!」

「ふはぁぁ。まだ夕方なんだが」

「そうですね! この世界の夜明けには“まだ”早いですもんね!」

「訂正する。もう夕方だ。で、何か用か?」

「先日はマダックスおめでとうございます」

「9回100球以内完封勝利とかした覚えはないんだが」

「9人82発完封勝利だったじゃないですか! それと、厳密に言うと100球未満です」

「殺したのは8人だ。お前それ、最後の白髪の男も数に入れてないか?」

「そんなのここにおいては大したことじゃありません」

「レコードは厳密であれよ……」


 電話をかけてくる友人なんていないし、通話の相手など決まっていた。情報屋はやけに上機嫌なようだった。


「面白い報告と興味深い報告の二つがありますが、どちらから聞かれますか?」

「良い報告と悪い報告だったら俺は先に悪い報告から聞くんだが、それではどっちも同じことじゃないのか。英語でインタレストだろ。違いがわからん」

「では独断と偏見で、面白い報告から。昼前からBBの調査隊が先日の倉庫の調査をしていました。不審な点はなかったと報告しておきます。しかし、あなたが残していったトラップのせいで、作業が大変そうでした。次々とコンテナを崩壊させていく様子は、とても滑稽でしたよ」

「趣味が悪いな」

「元を辿ればあなたのせいですのに。あ、そう、あなたのせいで思い出しました。私もちと言った先日の経費なのですが、凄い額でした。これ、“カシ”ですからね」


 貸しと瑕疵のどちらのニュアンスなのか、音声では判断がつかなかった。

 ご機嫌な情報屋は一呼吸挟んでから、次の話題を話し始める。


「続いて、興味深い報告です。あなたに会いたがっている人がいるようです」

「それはあれか? ホームラン打ったら手術受けるっていう約束をする病気の子供か?」

「野球ネタ被せとはこれは一本取られました。エースでスラッガーの二刀流なんて最高じゃないですか! 皆の憧れですよ」

「憧れは理解から最も遠い感情だっていうけど、それはそれとして勝手に理想を投影される方も苦しいよなあとは思う」

「投げるのは影じゃなくてボールと声援にしろってことですね」


 渾身のギャグをロストが拾わなかったせいで、情報屋は窮屈そうだった。あまり意地悪をするのも可哀そうなので、ロストは会話の軌道を修正した。


「で、そいつは誰なんだ?」

「こちらも調査を進めていますが、身元は掴めていません。しかし、あなたの存在を認知している人間はほとんどいません。こちらの情報統制は抜かりないですし、そもそもあなたに出会って生きている人間が少ないですから、知っていても申告敬遠ひとりあるきの噂程度です。あなた指名のメールをこちら宛に寄こしてきたということは、当然こちらとあなたとの繋がりを知ったうえでのことですし、相当な実力者かもしれません」

「また罠ではないのか?」

「可能性は否定できませんが、違うように思います」

「根拠は?」

「文面的に……としか言えません」

「おいおい、野球選手の次は警察官にジョブチェンジか?」

「刑事の勘、いやこれはお……、そう、まさしく刑事の“カン”です」

「まあ、感覚ってやつは大事だからな。詳細は?」

「こちらに一任するそうです。ご丁寧にも、争う意思がないこと、会うときは1人で来ることを明記していますが、いかがしますか?」

「なんか胡散臭すぎて逆に行ってみたくもなるな」

「こちらの追跡をかわしてくるような人物です。正体も目的も不明ですが、相手の情報を得るためにも一度お会いしてみてはいかがでしょうか。こんなことを言うのは不適切かもしれませんが、こちらとしても相手の情報が欲しいです。こちらもBBケーサツに捕まらないように全力でバックアップしますので」

「わかった。アポをつけておいてくれ。自称刑事ケーサツBBケーサツに捕まることなんてないと信じているよ」


 そう言って電話を切ると、ロストはもう一度布団の上に倒れた。

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