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銃力と  作者: 沓月
12/14

ep12 光を操る悪魔3

 それからすぐ後。

 倉庫の天井に舞い上ったロストは、ピッっとスマホを起動して連絡をする。


「ネコ、周囲の様子は?」

「気付かれた様子はないです。そのまま指定したコースで逃走してください。あと、その呼び方やめ……」

「悪りぃ、またあと」




 ロストは倉庫の天井を駆け、勢いそのままに飛び降りる。奥の方に加速する。次の瞬間には、うつ伏せの男を馬乗りで取り押さえ、後頭部にピストルを突き付けていた。


「何者だ」

「きゃーっ」

 どこかで聞き覚えのある叫び方だった。叫び声にはあまり種類がないらしい。

 取り押さえたのは白髪交じりの中年の男だった。


「たっ、助けてくれ」

「何をしていた」

 ドスの効いた声でロストは尋ねる。


「お、俺は、ここで起こることを動画に撮れって言われたんだよ。羽振りのいいバイトだったんだ」

「誰に?」

「ラビットって名乗っていた」

「実際に会ったのか?」

「メールのやり取りだけだ」


 いくらでも偽名を使えたはずなのに、わざわざラビットという名を使っているのが気になる。ロストたちがラビットを認知しているように、ラビットもまたロストたちのことを知っていると言いたいのだろうか。


「撮った動画はどうした?」

「もう送ったよ。これで仕事は終わりなんだ。このタブレットも送られてきたやつだから。これは渡すから見逃してくれ」


 ここまで安い命乞いをするような人間は戦場にはいない。これにはロストも失笑が漏れた。

「わかった」といって、白髪男の手からタブレットを奪おうとする。


 そのときだった。

 男の持つタブレットが凄まじい光閃を放つ。


 思わずロストも目を覆い、すぐに白髪男の上から離れる。


 白髪男は奇声を上げ、真っ青になっていた。文章的比喩だけでなく物理的にも。


 それは、この世界ではよく見る光景だった。


 この世界では、心臓の停止もしくは脳の停止が死を意味しない。この世界の死は、LPが0になることによる肉体の消滅である。LPの減少は、銃による負傷とその回復、銃の購入、肉体の経年劣化(いわゆる老化)によって起きる。


 ロストはこの男にまだ一発も当てていない。それにもかかわらず、目の前の男は肉体の消滅が起きていた。

 すぐに白髪男は跡形もなく消滅し、そこにはタブレットだけが残されていた。


 ロストは再び情報屋に電話をかける。


「どういうことだ?」

「どういうこととはなんですか?」

「どうせどっかから見てたんだろ。原理の説明をしてくれ」

「そんなこちらがいつも高みの見物をしているみたいな」

「いつもドローンとか送ってたりするだろ」

「先に述べたように、そこら一帯はかなりパッシブな地域なので、電波を使った工作はリスクが高いのです。それが罠なら尚更です。さっきの電気供給の切断がせいぜい関の山です」

「状況の説明はいるか?」

「インカムが音は拾ってくれるので、大体の事情は判断ができます。信じがたいことですが、おそらく遠隔からLPを奪い取ったといったところでしょう」

「凄腕のハッカーとなると遠隔から人を殺せるものなのか」

「いえ、普通ならできません。しかし、BBがLPのエクスチェンジシステム的なモノの開発をしているという噂をあなたなら耳にしたことがあるのでは。LPを移動させることができるのであれば、一方的にLPを吸い取る技術があっても不思議ではないかと。まあ、相手は現状のBBよりも遥かに優れた技術の持ち主であることは間違いありません」

「そうか。物騒な世の中だな」

「普及すれば人類が一瞬で終了するでしょうね」

「近くにいる俺もマズいか?」

「わかりませんが、取り敢えずそのタブレットは危険と言わざるを得ません。触れないほうがいいです。今日はゴミ漁りはせずにすぐにそこから退避してください。本当はその中身を調べたいところですが、どうせデータは消えているでしょうし、GPSでも仕込まれていたらたまったものではないので」

「仕方ない。そうだな」


 倉庫には金になるものが残されている。それを回収せずに去るというのはロストにとってはただ働きの赤字だ。

 そんなロストを見透かしたかのように、情報屋は半音高い声で情報屋が話しかけてくる。


「こちらにひとつ提案があります。今回の経費はこちらが持ってあげてもいいです。ひとつ条件がありますが」

「嬉しそうだな。何だ?」

「今回の戦闘の内容を詳細に聞かせてください」

「なんだそれ。面倒くさいが背に腹は代えられない」

「そこをなんとか。一応おまけで倉庫の監視は続けときますから。ね、お願いします」


 倉庫に誰がやってくるのかは気になるところだ。もしかしたら犯人が現場に戻ってくるかもしれない。ラビット本人が現れる可能性だってある。相当期待は薄いが。


「お前、なんでそんなに嬉しそうに人が死んだ方法を聞きたがるんだよ」

「如何せんこちらは戦闘ではない部分が専門でして。命知らずではありますが、こうして戦闘を眺めているばかりだと実際にそこに立ってみたくもなります。しかし、そのような実力はありません。知的好奇心をどうにか満たしたいのですよ」

「変な奴だとは思っていたが、それ以上だな」

「帰る道中での独り言でよければ勝手に聞いてろ。じゃあその条件でよろしく」


 こうして、ロストは足早に倉庫を去る。


「で、今回はどのような戦法を取ったのですか?」

 低い声に似合わないと感じるくらい、情報屋の声は踊っていた。


「連絡をもらったその日の夜には視察に行ったよ。二日というのが、いかにも準備してあなたの戦法を見せてくださいってラビットに挑発されているみたいで気に入らなかったが、やることは変わらないからな。罠とはいえど、先手を取られきっているわけではない気がしたから、勝負に乗ってやろうと思った。

 吊るし照明には閃光弾を仕込んで撃てば起爆するようにした。最初に逃げ込んだコンテナのところには、外を通って別のコンテナの中へ移動できるように、壁に穴を開けておいた。そこにアサルトライフルあらかじめ準備しておいた。あと、これらの仕掛けが見つからないように細工して、照明の一部も破壊して暗くしておいた。初めて使ったけど、時限式の閃光弾が役に立ったよ」

「やっぱりあなたの戦い方はいつ見ても面白いです」

「俺たちの付き合いも短くはないし、いつもこんな感じだろ。それに、あんたが抱える他のクライアントはどうなのよ」


 この情報屋との付き合いもそろそろ2年になる。だが、ロストはほとんどこの情報屋のことを知らない。知っていることといえば、ネコという呼び名があることくらいだった。正直な話、今のところ優秀で情報漏洩もないので文句はなかった。そして、この不気味で低い声にもそろそろ慣れてきていた。




「あまり口外はできませんが、あなたのように戦闘のことまで関わっているクライアントは少ないものでして。情報を売るのが主な仕事ですから。こういう戦略的な話は普通仲間内でするものですかし。それに、あなたのようなソロプレイヤーは希少でして」

「俺に友達がいなくて悪かったなぁ」

「でもあなたお話好きですよね。やっぱり孤独で寂しくなるものなんですか」

「人間見た目だけでわかるとはいうものの、それだと味気ないからね。一言くらいは言葉を聞いてから判断することにしてるだけだ。どうせどっちかが死ぬんだし、そのくらいの手間はかけてもいいと思ってるだけ」

「そういうことにしておきます」

「うっせえ。あと、使わなかった仕掛けもあるからそれもあんたもちで請求するわ」

「それは聞いてないで……」


 ロストはそこで通話を切った。

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