8「自由」
『あまいのじゃ』
そう言われ倒れ込んでいる俺の頭をぺちぺちとされる。
数日前から、夢の中で出現する風華にバリバリにしごかれるのが日課となっていた。
「...さいですか、」
力無く倒れる俺を見てため息を吐き、頭上で腰を下ろし俺の頭を優しく持ち上げ自分の膝の上に置く。
正直照れくさいが抵抗する体力も残ってない、
『先日も言ったがの、はじめは難しく考えすぎじゃて』
そう言いながら風切りを発動させ、風華は色んな方向に飛ばし遊び出す。
「そうは言っても、久留美さんの時もめちゃ考えたしタイミングとか使い方は悪くないだろ、」
そう言うと風華はうーむと軽くのけぞり考え込む。
『基本に忠実として考えた場合はじめはものすごく使えとると思うんじゃが、遊びがたらぬよ遊びが』
遊びとか言われても、基本はいいだろ基本は。
そう思ったが顔に出てたのだろう、でこをポコポコとはたかれた。
『風切りはもっと自由なんじゃよ、必殺技とかそんなものじゃないのじゃ』
そう言いながら風華は指をひょいと振る。
すると、その軌道に沿って床を伝っていき遠くに斬撃が出る。
「何それ...、?」
『特に名前はないぞ?風切りの応用みたいなものじゃ...風走り、とでも言っておこうかのっと、そろそろ回復したじゃろ?再開するぞ?』
そう言い風華は立ち上がった。
俺も立ちあがり体を見回すが傷等は完全に治っており、万全であることを確認する。
「相変わらずすげぇなこれ」
『まぁ、夢じゃしな?これでいくらでもやり放題じゃよにしし』
「いや、だからって昨日見たく腕折られるのはきついんですがね、」
俺がジト目でそう言うと、風華は少し目を逸らしながら消えそうな声で続ける。
『あれは事故じゃ...それに、ここでは治るが現実では治らんて、妾が守ることも出来ぬ。はじめには早く戦いになれて欲しいんじゃよ、許してたもう、』
まぁ、言ってることは確かだし悪意なんて無いのだろう。
実際強くなっている自覚もあるしありがたいことこの上ないのだ。
『その変わり、ひと月、はじめは見違えるほど強くなっているはずじゃ!』
そう言われるとまた特訓を再開する。
そんな2日目、3日目の夢を
...
……
……...なんで今思い出してんだよ、
俺は今、霧切さんと戦っている途中。
思いふけってる場合じゃないんだ、今こんなこと...いや、今だから、今だから思い出したのか。
「...霧切さーん」
そうだな、自由に、楽にしていいんだよな...
そう思うとなんか楽しくなってきた。
風切りは設置、とどめることが出来て任意のまま出すことができる。
「...次で、俺は全部出します」
そう言い俺は姿勢を低くし居合のような構えをとった。
俺の体力も気力も正直カツカツ、乗ってくるかどうかは分からない、でも多分これを逃したら負ける。
「...上等だ、霧幻」
のってきた。
霧切さんの技で部屋1面きりで覆われ、色んなところから気配がする。
だけど関係ない、こんなの全部吹き飛ばせばいい、切り飛ばせばいいんだ。
自由に柔軟に、やりたいように型にハマらず。
「...は?」
俺は、くるりと回転しながら空間を切り、空中に風切りを留めた。
円形になったところで風切りを発動させ、斬撃により霧は晴れ、傍に感じていた霧切さんの幻も切り飛ばしていた。
「...おま...何した、?」
霧切さんの顔を見るととても驚いた表情をしており、それを見て思わず俺はニヤリと笑ってしまう。
もっとだ、もっと自由に...!!!
「...風切り...円環」
「かんけぇねぇ!!!」
関係ないか...はは
「...そうですね、関係ないです、」
くるりと周り、大きく短剣を振りかぶり斬撃を2つ飛ばす。
ひとつは地面をそわせ、もうひとつは薄く広く広げ霧切達がいる空中へと放った。
「風払い...!!」
広く放った斬撃は幻たちを消し、霧切さん本体をあらわにした。
「...黒田ぁぁぁぁあ!!!!」
叫び声を上げこちらに槍が迫る。
目と鼻の先であと数秒もないうちに俺に突き刺さるだろう。
だけどもう遅い、関係ない。
「...風走り」
おれは、先程床を沿って天井まで伝い、霧切さんの真上で留めた風切りを発動させた。
『上出来じゃ』
...あぁ、
気のせいかもしれない、たが、風華から褒められた気がして気が緩み、俺も地面へと力無く倒れ、意識を失ってしまった。
---
まさかこれを現実で使う時が来るとはな...
「...目を覚ますと、見知らぬ天井でした...はは」
俺が自虐気味にそう笑っているとカーテンが開かれ川崎さんが出てきた。
「冗談を言う元気もあるみたいだし、意外と大丈夫そうね?」
「まぁ、鍛えた甲斐あってか初日みたいなことにはなってないですね」
俺はゆっくりと体を起こし、あの後どうなったのかを聞いた。
あの後2人共倒れ治療室に運ばれたらしい。
怪我などは酷くないが、気力面でかなり消耗しているらしく霧切さんは先程起きたが糖分が足りねぇと言いながらどこかに向かったそうだ。
「直也は幻一体一体に意識向けてるから、頭がかなり疲れるらしいのよ」
「なるほど、」
そういうことかと頷くと、川崎さんがコーヒーを手渡してきた。
「...えと、」
急だったからどうしたものかと戸惑っていると、川崎さんは優しく微笑み続ける。
「取り敢えず、おめでとう黒田君。いまさっき柊ノ木さんにも話して正式に任務に向かう許可が降りたわ」
「...ほんと、ですか」
「あら?あまり嬉しそうじゃないわね」
俺の反応がいまいちだったのか、川崎さんは首をかしげ不思議そうに聞いてくる。
いや、嬉しくはあるのだがなんだか実感がわかないというかなんというか。
「嬉しいですよ、ただほんと実感がなくて」
思いのまま彼女に伝えると、成程と頷きながら自分の分のコーヒーに口をつけた。
「取り敢えず今後の動きを説明したいのだけど今大丈夫かしら?」
そう聞かれ頷き、受け取ったコーヒーを空け口を付ける。
...ブラック...にげぇ...
「...ごめんなさい、ブラック苦手だった、?」
顔に出ていたのか川崎さんが少し申し訳なさそうに声をかけてくる。
「...大丈夫です、続けてください。」
ちまちまと飲みながら川崎さんから説明を受ける。
今後の予定としては、早速明日から任務に向かうとのことだが、当初の予定よりも早めチームを組んでそのチームで向かってもらうとの事だ。
「...俺川崎さんたち以外の影人なんて知らないんですが、」
俺がそう訴えると、川崎さんは少し困った顔で続ける。
どうにも反対派だったはずの霧切さんが、柊ノ木さんに押しまくって予定を先倒したらしい。
「それはまた、」
「瑠美も凄いけど、直也も時々暴走するのよね、」
遠くを見ながら笑っている川崎さんを見ていると少し胸が痛くなく。
「...話を戻すわね?チームのことだけどそれは問題ないわもうこちらで用意してるのよ」
「用意、?」
「黒田君は影人のチームは基本3人、それは覚えているわよね?」
そう聞かれ、訓練中のことを思い出しながら頷く。
「今ちょうど2人しかいないチームがあって、そこに入ってもらいたいのよ。2人とも入ってきて?」
そう川崎さん言うと、失礼しますという声とともに治療室の扉が開き、男女と女子二人がこちらまで歩いてきた。
少しキリが悪いけど長くなりそうだがらここで切ります、!