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影人  作者: レト
8/20

7「幻」


トレーニングルームに向かう僅かな距離、1歩、また1歩と歩を進める度緊張が増していく。


「...さて...どうしたものか、」


霧切さんの能力はこの2週間で何度も目にしてはいるが、直接的な攻撃力はないものの絡め手、撹乱という意味では紛れもなく最強格の能力だと思う。


「よぉ...やっと来たか」


だだっ広いトレーニングルーム2人きり、張りつめた空気が場を覆い尽くしていた。


「すみません待たせましたか?」


俺の問いに霧切さんは下を向いたまま答えない。

ほんの数秒、そのはずなのだがとても長く感じた沈黙の中、霧切さんはゆっくりと顔を上げ口を開く。


「お前は俺が手ぇ抜くなんて心配してるっぽいけどよぉ...こちとら有望な新人を潰すなんてことしたくねぇんだわ、安心しろ、はなから手を抜く気なんざさらさらねぇよ」


背中から槍を引き抜き、低く、低く構える。


「ありがとうございます」


一言だけ感謝を伝え、俺も腰から剣を抜き剣先を前に突き出した。


『これより、ランク戦闘ルールでの模擬戦闘を開始いたします』


アナウンスの声が聞こえ、2人同時に口を開き、戦闘態勢に入る。


「「20%セット」」


ピリつきが大きくなる。

自然と鼓動が早くなり、五感全てが鋭くなる。


「「...解放」」


「風華っ!!!!!!」

幻無(げんむ)...!」



--



「しずしずはどっちが勝つと思う、?」


モニターの画面越しでも伝わるピリついた空気感にあてられ、黙っているところに瑠美が声をかけてきた。

さすがに沈黙が耐えれなかったのだろう。


「...正直黒田君はきついと思うわ、1発当てるというルールで、直也の能力は有利すぎるもの」


「...だよねぇ、」


そう言いながら項垂れる瑠美、まぁ、私と瑠美は任務で経験を積ませたい派だから黒田くんに勝機が薄い現状にうなだれる気持ちもわかる。

正直本気の直也に勝てる可能性は0...だけど初日で瑠美に一発を入れた彼は何かしてくれるかもと期待が止まらないのも事実だ。


「...確か霧切さんの能力って幻?を見せるものでしたよね?」


重々しい空気を破り、会話を振ったのはお茶と茶菓子を手に持った鈴谷さんだった。

私と瑠美の前にお茶と茶菓子を置き、隣の椅子にちょこんと座りモニターに目をやる。


「私、いまだになーくんのワザよく分からないんだやねぇ...」


そう言いながらえへへと笑ううちのリーダー...

まぁ、瑠美は感覚で全て済ませている節があるから仕方ないか。


「そうですね、20%でしたら、直也ができることは2つ、これをどう攻略するかが鍵になると思います」


そういいモニターに視線を向ける。

私の視線を追うように2人の視線もまたモニターへと向けられるのであった。



--



先に駆け出したのは霧切さんだった。

俺の風切りの能力を知っているはずだろ!?

なんで迷わず攻撃を仕掛けるんだよ!

俺の風切りは攻撃を食らった方が有利に動きやすくなる、そのため霧切さんの性格上慎重に様子を見つつ来ると思ったのだが...

そんなことを考えているうちに距離は一気に詰められ、横腹目掛けて槍の先端が迫る。

本来なら少し剣の腹に当て風切りを貯めたいところだが霧切さんの持つ能力がそれを許してくれない。

俺は少し大袈裟気味に右にステップからの、地面に剣を振り風切りを仕掛けた振りをした。

これで近づきにくく...


「あめぇよ...」


は!?

突き出した槍を急停止。

こちらに薙ぎはらい、それをバックステップでよけがその勢いのまま突きを繰り出し、俺は横に転がりながらどうにか逃れた。

すぐさま立ち上がり、構え直しながら溜めていた息を吐く。


「...お前が考えて戦うのは知っている。そんな雑に風切り張る訳ねぇだろ舐めてんのか?」


俺の罠をぶった切り声を荒らげる。

こちとらそんな余裕無いし頭パンクしそうだってのに、


「...そっちこそ、使わないんですか?舐めてんのはどっちだよ...」


分かってる、俺の攻撃をくらえば溜まるという性質上下手な攻撃をせずここぞで1発というのを狙っているのだろう。

そして、それを俺自身わかっているから攻撃を受けることが出来ない。

...彼の、霧切直也の能力は俺と相性が悪すぎるのだ。


「お望み通り使ってやるよ...」


くる...

その声と同時に霧切さんがどんどん薄くなり、そう思ったら増えたり消えたり、

何だこの技...


「...クッソが...」


幻人(ホロォクカヨ)


霧切直也の全力、それは俺の思っていた以上にとてつもないものだった。



--



「使ったわね」


モニター越しでも直也の姿をはっきりと捉えることが出来ない、ここにいる3人、直也を見失ったのだ。


「...なーくん、大人気なぃ」


「いやでもほら、霧切さんも黒田さんのことを思ってですし、」


瑠美が引いているのを鈴谷さんはフォローしていた。

けど確かに、模擬戦では使わなかった技。

黒田君にとっては最悪である。


「あのぉ...」


恐る恐ると鈴谷さんが私に声をかける。

おそらく直也の能力のことだろうと口を開き説明を始める。


「直也が今使えるのは、武器と自分の幻を見せる能力なんです」


「武器と自分?」


そう言いながらコテンと首を傾げる鈴谷さんに頷き、説明を続ける。


「今使ってるのは幻人、自分の幻を消したり出したりして相手を撹乱する技です。先程の攻撃を黒田君が受けずに避けたのも、攻撃が幻なのか本物なのか分からなかったからです」


鈴谷さんはうむうむと頷き、なにか思い立ったのかビクリと身体を震わせ青い顔でこちらを見てくる。


「...あの、黒田さんの能力って確か攻撃くらわないとでしたよね、」


「え...えぇそうよ、?」


「圧倒的に不利じゃないですか!?」


そう言ってモニターと私の顔を何度も行き来しオドオドとする。


「不利とかのレベルじゃないよすずやん...しかもなーくん組手で見たことないわざ使ってるし...」


鈴谷さんに答えたのは項垂れている瑠美だった。


「...このままだと、最悪黒田君の体力切れで負けってこともあるわ、」


そう言いながら私は、モニターの先の彼に意識を移した。



--



「...黒田...降参しろ」


どいつが、誰が喋っているのか分からない、消えたり出たりの中霧切さんの声が響く。


「お前だってわかってるはずだ、本気の俺に一撃を入れるなんて無謀だ」


分かってるそんなの言われなくたってわかってる。

自然と剣を握る手に力が入り、食いしばる力も強くなる。


「っ!?」


...考える余裕もねぇだろクソがっ、!!

突然横から槍が飛んでくる、反射的に剣で反撃するがそこに実態は無く、俺は横腹に痛みを感じ横に飛ばされていた。

前転で受身を取りすぐさま衝撃の方向に斬撃を飛ばすが意味をなさない。


幻ノ槍(ホロロ・コロ・ホセ)...お前の目に俺の槍は映らねぇよ」


霧切さんが正面から槍で突撃してくる。

それを避けたが衝撃は背中に受け、転がりながらも斬撃を飛ばすものの、それも手応えはなく歯噛みした。


「...いつまで続ける気だ黒田」


真後ろから語りかけられる。

目の前にも横にも斜めにも霧切直也はいて、そして真後ろにも...


「...無論ですよ..」


真後ろの気配、幻を切りつけ、ゆらゆらと立ち上がり口を開く。


「勝つまで」


「...チッ」


舌打ちと同時に幻は消え、目の前に本体らしきものが現れる。

とても不機嫌そうに、槍を地面に刺しこちらを睨んでいる。


「...いいんですか、?姿見せちゃって、」


「強情野郎が、フラフラのくせ何言ってんだ?...教えろ、何がお前をそこまで動かす、」


疲労のためか頭が回らずその問の真意が分からなかった俺は返答が出来ずにいた。

それを察したのか霧切さんは頭をかきまた口を開く。


「別に俺はお前を認めてねぇわけじゃねぇ、急がなくてもお前は今後必ず影人としてなくては行けない人材まで登るだろう...だから分からねぇ、馬鹿じゃねぇだろ、?なんで急ぐ必要がある」


なんで...なんでか、

今思えばそうだよな、好きな人のため、?でも会ったのはまだ2回、あれ、何回だ...まぁ、とりあえず一目惚れだよな...

まぁ、どうでもいいか、でもなんでだろうな...


「今...」


「...?」


体の疲労は半端ない、脳みそも幻祭りのせいでキャパオーバー、今にもパンクしそうだ。

いやもうしてるなこれ...

なのに心臓は、感情は、腕は足は、


「..俺...今生きてんだよ」


「...は、?」



--



「...は、?」


何言ってんだこいつ。

予想外の返答に思わず固まってしまった、


「...霧切さーん」


呆気にとられほうけていたが、目の前のやつが放ったプレシャーにいやでも体が反応した。


「...次で、俺は全部出します」


そう言い目の前の後輩は姿勢を低くし居合のような構えをとる。

俺が当たるはずもないがなにか来る、そう直感した俺はすぐにやりを構え、前を見すえる。

後輩が全部出すのに、俺が出し惜しみするのか、?

いやいや、笑えねぇだろそんなの...


「...上等だ、霧幻(ウラル)


霧幻は霧の幻を作りそこに紛れる隠密の技、さらに重ねて幻人...複数の俺自身の幻。

霧幻を解いて縦横無尽に幻の攻撃を飛ばしそこに俺も紛れる。

これが俺のできる最大の攻げ...


「...は?」


何が起きた...、

部屋に充満していた霧は晴れ、地面付近に発生させた幻も消えている。


「...おま...何した、?」


「...風切り...円環」


理解できない、追いつかない、分からない、

...

...

「かんけぇねぇ!!!」


今は分からなくていい、それよりもぶつける、今ここで全力で!!

俺は空中にいる幻の半分にやりを投げさせ、もう半分と一緒に黒田めがけて槍をつき下ろす。


「...そうですね、関係ないです、」


くるりと周り、大きく短剣を振りかぶった黒田のその顔には、にやりと不敵な笑みが浮かび上がっていた。


「風払い...!!」


その言葉と共に、俺らに向かって広範囲に風が吹き荒れた。

威力は大したことない、が幻を消すのには十分な威力。


「...黒田ぁぁぁぁあ!!!!」


たがな!!幻が消えても関係ない、既に目と鼻の先まで俺の槍は迫っている!!

俺の方がお前に早くたどり着く!!!


「...壁走り」


「...ぅ、」


たどり着く、、はずだった。

俺は腹部に痛みを感じ、その槍を黒田に当てることなく地面に崩れ落ちた。

...そこから俺の意識は無い。





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