4「其の力」
目が覚める。
時計に目をやると、布団に入ってから2時間と30分程経っていた。
「…あと、1時間半くらいか、、」
ゆっくりと体を起こし、机へと視線を向ける。
布団から降り、机に置かれた短剣を指でなぞり能力のことを思い出す。
「…なんともまぁ、使いにくよなこれ」
そう言いながら、短剣を鞘からだし刀身を眺める。
黒の刀身に深緑色のラインが入っており、デザインはめっちゃくちゃ好きだ。
「…試しに行ってみるか、たしかトレーニングルーム?だったか、」
柊ノ木さんの説明を思い出し、机に置いておいた建物内地図に目を向ける。
風華から説明は聞いたものの、まだ試して無くお預け状態だったためすぐにでも試してみたいという気持ちが大きかった。
「いや、まてよ、そもそも俺使えるのか?」
当たり前の疑問が今更頭をよぎるが、まぁ、行ってから考えるかという結果に落ち着き、身だしなみを整えトレーニングルームへと向かった。
…あんとき聞いときゃ良かったなぁ、
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トレーニングルームにつき扉を開き、中を確認する。
中は大きなモニターとテーブルに椅子、自販機などが設置しており、奥で受付があった。
受付では、ショートカットで花柄のヘアピンを付けた小柄の女の人が何か書き物をしていた。
こちらに気づき顔を上げるが、目が合うと同時に誰だこいつはと首を曲げでいた。
ですよねぇ、、
歩を勧め受付の前に立ち、声をかける。
「…えと、初めまして。黒田一って言います。今日から影人に入隊したらしいんですが、、柊ノ木さんから何か聞いていますか?」
俺がそう言うと、彼女は少し考え込み何枚か書類を漁りパソコンを見る。
俺の書類を見つけたのか、表情がぱっと明るくなり、勢いよく立ち上がり自己紹介を始めた。
「あー!聞いてます聞いてます!黒田さん?って言うんですね?初めまして、私はこの施設の管理人の1人、鈴谷と申します!以後お見知り置きを!」
そう言いながらお辞儀をされ、こちらもお辞儀をかえす。
本題に入ろうとトレーニングルームの使用が自分はできるのか聞いてみる。
「ほうほう、使用はもちろん出来ますよ!ただ、隊員証がまだ製作途中なのでこちらの使用者用紙に名前だけではなく隊員ナンバーを手書きしてもらう必要があります!」
そう言いながら慌ただしく紙を取り出す。
はつらつとして真面目そうな方だが、あまり器用な方ではないのかもしれない、効果音が全部幼児系のアニメの音がつきそうな動きをしている。
「よかった、だったら今から少しだけ使用したいのですが、可能ですか?」
俺がそう言うと鈴谷さんは少し難しそうな顔をし、何故だろうと俺は首を傾げる。
「えと、使うこと自体は問題ないのですが…黒田さんはシャドウアーツについて講義は受けてますか?」
俺は首を横に振り、それを見て鈴谷さんは続ける。
「シャドウアーツには使い方や制限、ルールがあるのですが、抗議を受けてないのであれば、筋トレだったり、武器を使う以外のことがメインになると思うんですが、それで大丈夫ですか?」
そこまで聞き確かに柊ノ木さんが制限がどうこう言ってたなと思い出す。
これは、大人しく16時までゆっくりしておくかと思い断ろうとした瞬間、後ろの扉が強引に開かれる。
「すーずやーん!空いてるー?」
開かれた扉の音に俺と鈴谷さんは驚き、視線を後ろに向ける。
そこには、元気よく手を振りながら声を上げるツインテールの女性。
その後ろに扉は優しく開けろと叫ぶメガネの男性と、頭を抱えるロングヘアの女性が立っていた。
この人らの声、どこかで聞いたような、、
「あれー?その人は誰?」
鈴谷さんからこちらに目線が向き、とたとたと俺の前まで駆け足で近寄ってきて、ほぼゼロ距離で止まった。
いや…ちけぇよ、
この距離だと俺が恥ずかしい、1歩ほど後ろに下がるが彼女はそれを見て「おうっ」っといい1歩詰めてくる。
いや、、なんでだよ、てかおうってなんだオットセイかよ、
「おいこら!バカ!!てめぇ聞いてんのか!?」
そう叫びながらメガネ男子は近づき、ツインテ女の首根っこを掴み持ち上げる。
「ちょっとなーくん離してよォ…私はこの人と話してるの!」
そう言いながらぴょこぴょことツインテを動かしこちらを指さしてくる。
……え、、ツインテって動くもんなの、?
てかなんだよこの状況、
ついていけず困惑し、鈴谷さんに助けを求め目線を向けるが、彼女も困ったような笑みを浮かべていた。
これ収集つかないだろと思っていたら時、大きく手を叩く音が部屋に響き、騒いでいた2人はの声もピタリとやむ。
手を叩いたもう1人のロングヘア女性に皆の視線は集まり、彼女はゆっくりと口を開いた。
「…直也も、瑠美も落ち着いて。彼が困惑しているでしょう」
そう言うと2人は少しシュンとし、女性はこちらに向かって歩いてきた。
「…うちのがごめんなさいね?私は川崎雫って言うわ。」
「初めまして、今日から影人に入隊することになりました。黒田一です」
俺がお辞儀をし顔を上げると、彼女は少し考えるようにこちらを見つめ、口を開いた。
「…あなた…もしかして今日の朝方の?」
そう言われ、道理で聞き覚えのある声だったんだなと思い出し、頷く。
朝俺を救助?してくれたのはこの3人だったんだな。
「…あんまり覚えてないけど、ありがとうございました」
そう言いまた頭を下げると、川崎さんは優しく微笑み首を横にふった。
「お礼なんていいわ、それに緊急時とはいえかなり強引な方法だったのは確かなのよ、ごめんなさいね?」
「いえいえ、事情は聞いたんで」
そこからは、なぜここにいるのかなどを話すと、トントンと話しが進み、試したいなら私たちが教えてあげようと3人からシャドウアーツのレクチャーを受けることになった。
正直ありがたいことこの上ない。
こちらこそお願いしますといい、奥にある準備室でポッケに入れてあるスマホなどをロッカーに入れ広い空間に4人で向かった。
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「とりあえず、改めて自己紹介をするわ、私は川崎雫よろしくね?」
そう言いながら、ゆっくりと頭を下げた。
川崎さんは紫葵さんほどでは無いが長めの黒髪をしており、長めのスカートに背中に弓を背負っていた。
基本表情は動かず無機質なように見えるが、雰囲気はどこか柔らかく、大人のお姉さんという印象を受けた。
「俺は霧切直也」
ぶっきらぼうに名乗ったメガネの男は、綺麗に制服を着用しており、背中に槍を背負っていた。
高めの身長でつんつんとした髪の毛同様、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
「えー?なーくんそれだけ!?面白くないなぁ、あ!私は私はね!久留見瑠美だよ!!るみるみって呼んでね!」
そう言いながら、頭1つ小さいツインテールの女の子がぴょんぴょんと飛び跳ね名乗る。
こちらは武器という武器は装備しているように見えず、短いスカートに前を空けた状態で制服を羽織っており、手には黒の手袋がつけられていた。
「川崎さんに、霧切さん、久留見さんですね、よろしくお願いします。黒田一です。」
再度頭を下げ、自己紹介をする。
るみるみって言ってよーなどと聞こえてくるが恐らく幻聴だろう。
額を抑え、川崎さんが説明するため口を開く。
「早速だけど、シャドウアーツには大きくわけて5つ種類があるの。武装型、放射型、支援型、強化型。そしてこの4つのどれにも当てはまらない特殊型。5つにはそれぞれ特徴があって、武装型は武器を変形させて戦う攻撃に重点を置いた型。放射型はエネルギーを出して遠距離攻撃だったり、後方支援するのに長けた型。支援型はバフやデバフを与えたり回復などするわ。強化型は肉体を全体的に強化してバランスが1番良い型ね。特殊は人それぞれだから何とも言えないわ」
そう言いながら川崎さんは背中にかけていた弓を手に取り、ゆっくりと壁に向かって構える。
「私は放射型で、矢に魔力を纏わせて攻撃するわ。見てて」
そういうと、少し深呼吸をした彼女は矢に水色のオーラを溜め、ゆっくりと口を開いた。
「…10%セット、解放。軽くでいいわ、纏いなさい『 水月』」
そう言い矢を放つと、矢は水の槍となり、分裂し壁に勢いよく衝突し分散した。
「こんな感じよ、あなたの武器がどれに当てはまるかはこの後調べるのだけど、ここまではいい?」
微笑みながらそう聞かれ、頷いた後自分の型について少し考える。
この5つの中だと、放射か特殊、どちらかになるのか。
「次は制限について説明するわね、制限を説明するにあたって、まず知って欲しいのは影人には階級が存在するってこと。階級ごとでシャドウアーツの能力に制限をかけているの」
そう言いながら彼女はポッケから隊員証を見せてきた。
そこには名前などの個人情報と顔写真、そして階級A級と書かれていた。
「影人には上から、特級、ABCDと5つの階級があるわ。それぞれ20-40-60-80-100と解放していい能力の制限がかけられているの」
それを聞き、ひとつ違うだけでも随分と大きな差があるんだなと、少し驚いてしまう。
それほどシャドウアーツの使い方は慎重にしなければいけないってことだろう。
「本当は良くないのだけれど、緊急時のみ制限を10だけ上げていいってなっているわ」
一通り説明を受け自分の中で噛み砕いていると、我慢の限界だったのか、久留見さんが声上げ駆け寄ってきた。
「難しい話終わり!!おいおいでいいんだよ!実践!実践しよ!!」
またもやゼロ距離で声を挙げられ呆気にとられる。
「馬鹿野郎!この!バカ瑠美!いきなり出来るわけねぇだろうが!」
霧切さんがそう言って静止するが、俺自身も試したくて来たところはある。
久留見さんが2人に苦言をこぼされているが、ここは乗ることにした。
「…いいですよやりましょう」
俺がそう言うと2人はギョッとして、久留見さんはと言うと、かつてないほど目が光り輝いていた。
「おぉ!!はじめっちノリがいいね!!やろやろ!!」
そう言ってグイグイと手を引かれ2人から少し離れ、久留見さんと向き合う。
そんな俺らを見て霧切さんは呆れ、川崎さんは諦めたように笑っていた。
そんな2人に申し訳なく思っていると久留見さんが口を開く。
「いい!はじめっち!シャドウアーツを使う時にはまずセット!って言うの!そしたら全身がブワァー!ってなって、その後に『 解放』って言うの!そしたらぐぐぐっぐわってできるから!!」
…うん、分からない。
助けを求め2人の方を見ると、霧切さんが頭を掻きながら口を開き雑に説明した。
「…瑠美がすまねぇ、そいつ感覚派なんだわ。要は、武器を持ってセットって言ったら魔力で肉体を強化、解放で魔法を使えるようになるって話だわ」
そう言われ先程の川崎さんの攻撃を思い出す。
なるほど、分かりやすいなと頷いていると、久留見さんは手をバチンと叩き体制を低く構えた。
「手加減はするから!全力できてねはじめっち!!20%セット!!!解放『 剛腕』!!!!」
解放と言った瞬間、手袋から渦ができ、渦が消えた瞬間大きなグローブがその手には装着されていた。
武器を変形させて戦う、、
「武装型か、」
俺がそうつぶやくと正解と川崎さんは満足そうに頷いた。
「正解よ黒田くん。見ての通り瑠美は超近距離型なの、怪我とかはしないように手加減するとは思うけど、気をつけてね」
そう言われ頷いて返す。
腰から剣をぬき、妙な緊張感が体を埋め尽くす。
「かっこいい短剣だね!!はじめっち!!」
久留美さんは低い体制のまま目を輝かせ、俺の武器を褒める。
「20%セット、」
そういうと、武器を持った腕から全身に、何が流れる感覚を覚える。
全身がとても軽く、力がみなぎるような感じだ。
高まる気持ちを抑え、剣を前に出し少し息をおいて静かに呟いた。
「…解放『 風華』」
深緑のラインから淡い光が漏れ出す。
初実戦、まともに動ける気はしないがやれるだけやろうと構える。
「…いつでもどうぞ、」
そう言うと、久留見さんは笑い、低い体制をさらに低くした。
「いっっっくよぉぉおおお!!!!!」
刹那、地面を蹴り上げ、轟音と共に久留見さんの拳がこちらに迫る。
普段なら見えないはずのスビードなのだか、強化されているおかげが、視界で追うことに成功。
拳が顔に当たる前に、刀身を拳に当て横に滑らせながら回避することに成功。
拳の流れに逆らわずくるりとまわり、バックステップで距離を少しとろうと……は???
少しだけ離れたつもりが、ほんらいいるべき位置から5、6m程すぎた距離に驚いてしまう。
呆気にとられていると、久留見さんがニヤニヤと語りかけてくる。
「すごいでしょ!肉体強化!これで20%だからね!!てか今のよけるんだ!!!!」
腕をぶんぶんとさせまた低く構える。
久留見さんの凄いでしょと言う言葉に心から同意だ、釣り上がる口角を堪え、興奮するが冷静を徹底する。
俺の能力はそれだけ使い道が重要なのだ。
「驚いてますよ、、何がともあれ、まずは〝1〟ですよ」
そうして、模擬戦の火蓋が切られた。
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「避けやがった…」
私の横で驚愕の色を見せているチームメイトの意見に、私も同意だった。
「おい、、雫、あいつ」
「分かってるから」
声をかけてくる直也を静止する。
今、目の前で模擬戦をしている2人。
A級トップレベルの瑠美に対し、手加減してるとはいえ初見で避けた初心者。
目の前で起きた状況を飲み込めないのは私も同じだ。
「いや、有り得ねぇだろ、手加減してるとはいえ瑠美はスピード特化の超攻撃型だそ!?」
「よく見てたんでしょ、直線的な攻撃だし、制限が同じなら今のは私でも避けれるわ」
「いやそれでどうこうなるもんじゃないだろ、、実践0のペーパーだぞ?、」
そう、確かに瑠美は早いが、制限を揃えてあの状態から一直線は避けれない攻撃では無い。
しかし、それも相手が初心者ではなかったらの話で、実際私も直也も避けるその瞬間までは手加減しろと言ったのに...やったな、などと思っていたが、それは予想とは真逆方向に突っ切ってしまった。
「とりあえず見ましょう。まだ終わってない」
そういうと、納得はしてなさそうではあるが直也は2人に目を向けた。
2人は何か話してたようだか、丁度終わったらしく同時に構えていた。
緊迫する空気の中、先にしかけたのは瑠美で、先程のような単調な攻撃ではなく、ジグザグに距離を詰め、飛び上がり黒田君の上から右拳を振り下ろす。
それを黒田君はバックステップで避けるが、瑠美は地面に突き刺さった右拳を軸にして、左腕を裏拳のようにぐるりと振り下ろし薙ぎ払うが、黒田君はそれすらも体制を低く横に移動することにより回避し、胴に向かって短剣を突き出す。
空中で体制を上手く取れず当たると思ったのだが、瑠美は空中無防備な状態から蹴りを横腹に叩き込み黒田君の攻撃を阻止。
苦い顔をし、少し奥に飛ばされ横腹を押さえている黒田君に瑠美は追撃、着地と同時に踏み込み右ストレートを思いっきり叩き込み空気が漏れる音と同時に向こうの壁へと殴り飛ばされた。
黒田君も裏拳を避けさらに追撃のところまではよく見ており圧巻の二文字だったが、さすがに初心者、攻撃耐性がなく一撃を食らうとよろめきかなりの隙を見せてしまった。
短いが密度の濃いやり取りに言葉を失っているがハッとする。
「...っ!バカ!瑠美!!黒田君は初心者なのよ!」
そう言われ真剣な顔から一転、瑠美の顔はやってしまったという顔になる。
そのやり取りを聞き、直也も正気に戻り苦い顔のまま黒田君に目を向ける。
「おいおいおい、、大丈夫かよ」
私と直也は彼のところに駆け寄る。
「待ってごめんなさい!!」
瑠美はあわあわとし何度も頭を下げ、私たちについてこようと足を踏み出した瞬間。
「...え、?」
風が空間を切り裂く音と、瑠美の呆けた声が聞こえ視線を向ける。
瑠美は足を止め、ぽかんとしていた。
そして、その理由に私は直ぐに気づいてしまう。
「おい何やってんだ2人とも!こいつ見るのが先だろうが!」
直也が呆ける私たちを見て声を上げるがそれどころでは無い。
「...はじめっち...なにしたの?」
呆けた顔から一転、驚愕の顔をして聞く瑠美に続き、私も思わず声が出てしまう。
「...剛腕が、、切れてる、」
一歩踏み出そうとした瑠美の武装の端は、なにか鋭利なもので切られた後があった。
「お前らなに言っ...!?」
直也も武装に気づいたらしく言葉を詰まらせる。
武装型は武器にほとんどの魔力を要する必要があるから爆発的な火力を誇る。
かなりのリソースを割くため同部分など、防御が手薄になるのは事実だか、その代わりほとんどの魔力を注ぎ込んでいるため武装部分はガチガチ、武器にも盾にも使える代物。
間違っても、破損したりかけたりなんてことはありえないのだ。
3人とも声がです、驚愕していると飛ばされ壁に衝突した初心者がよろよろと立ち上がり、ゆっくりと瑠美に向かって歩いていく。
ボロボロなのは自分なのに、不敵な笑みを浮かべゆっくりと口を開いた。
「...だからいったじゃないですか?1ですって」