3「相棒」
「少し待っててくれ」
上に連絡すると言いい、柊ノ木さんは部屋から退室し、数分ほど何も無い部屋で俺は放置されていた。
「ほい」
戻ってきたや否や手提げバックを雑に投げ渡され、もっと優しく渡せないのかと批判の視線を向けるがスルーされる。
ジッパーをおろし中を確認すると、柊ノ木さんが着用しているものと似たようなデザインの服が詰められており、今からそれに着替えろと指示を受けた。
俺が着替えている間柊ノ木さんは扉の外で待っており、扉越しではあるが、今いる場所の説明と、この建物のシステムや構造などを説明をしてくれた。
どうやらここは大きな地下施設で、この部屋は隔離室だったらしい。
隔離室のほかに、トレーニング室、武器室、ミーティング室2部屋、治療室、記録室、隊長室と地下だけでこんなにも部屋があるらしく、思った以上に影人って大きな組織なんだなと感心する。
地上は寮のような建物になっており、ここら一帯の影人達の居住区になっているそうだ。
そうこうしていると着替えが終わり、自分の姿に視線を落とす。
「着替えてみたが…」
柊ノ木さんと似たデザインの黒の制服に、赤黒いインナーといった装いをしており、格好いいのはいいのだが、赤は派手ではと思う。
軽くジャンプしてみると、見た目から動きにくそうと印象があったのだが、思った以上に軽く関節部もスムーズに動かせてびっくりした。
「動きやすいだろ?」
いつの間にか扉が開いており、柊ノ木さんはニヤニヤとしながら扉にもたれかかっていた。
「...びっくりしてますよ」
めちゃくちゃ恥ずかしかったが、感想は素直に言うと柊ノ木さんは満足そうに頷き、親指を立てて後ろを指した。
「次は武器だな、選びに行くぞ着いてこい」
もう武器を貰えるのか、?
さすがに早くないかと思い、先に行こうとする柊ノ木さんを呼び止めてしまう。
「えと、もう武器ですか?」
こちとらまだ戦いとか分からない、武器なんて握ったこともないドシロートなのだが。
「そこら辺歩きながら説明するから着いてこい」
そう言われ、俺は柊ノ木さんの3歩ほど後ろについて歩いて行った。
「俺らの武器は穢人の魔石を使って作ってんだよ、言わなくてもわかると思うがそりゃ危険性も高いわけだ」
そう言いながら腰に着けた刀をとんとんと叩く。
「便利なんだがな、暴走とか武器に飲まれるなんてこと多くてな、制限とか色々かけてどうにかって状態なんだが...」
柊ノ木さんは、そこで言葉を止め、ニヤリとしながらこちらを向き続ける。
「こりゃ持論なんだかな、要は馴染ませりゃいい」
「馴染む??」
「そう、あんま気分は良くねぇがな?穢人の力を自分に擦り合わせるイメージだよ。早めに持っとくことに越したことはなねぇだろ」
そう言いながら高らかに笑う。
そういうものなのかと理解し、ふと疑問が湧き上がり柊ノ木さんに声をかける。
「...てかトントン拍子で進んでますけど、ほんとにいいんですか?」
「あ?俺がいいって言ったんだからいいんだよ、それに隠してるのは怪しいがお前は本来被害者側だからな。疑うとか良くねぇだろ」
なんだよ良い人かよ、、と感心したつかの間、
それに、と柊ノ木さんは口を開く。
「それに、お前がどんなにだろうと俺はつえぇからな?問題ない」
そう言い笑いながら刀に手を置く。
紫葵さん含めこちら側の人達は自信満々の人が多いのだろうか。
「...凄い自信ですね」
そういうと柊ノ木さんは高笑いし、ちらりとこちらを向きながら話しかける。
「それだけの実績もあるからな、まぁ、こういう俺の態度は上のもんは嫌いらしいが...それに、さっきも言ったがお前が悪いやつじゃないくらい話してたらわかる。大丈夫だろ」
「...勘ですか?」
「勘だな...っと、着いた着いた」
そう言って足を止め、目の前には武器室と書かれた部屋の扉があった。
扉を開け中に入ると沢山の武器が綺麗に並べられており、少しテンションが上がってしまう。
「...すごい数ですね、」
辺りを見渡し、圧巻している俺をニヤニヤしながら眺め、柊ノ木さんは部屋の奥にある扉へと向っていた。
「数は多いが大体は練習用とかだよ、ほら、こっち来い」
柊ノ木に呼ばれ、どの武器がいいのだろうと見ていたがそれを中断し、柊ノ木さんの方へ向かった。
「...これだけたくさんの種類があったら悩みますね、、この中から選べばいいんですか?」
そう聞くと、柊ノ木さんは首を横に振りながら扉を指さす。
「いや、この中に入ればいい。そしたら勝手に武器が決まるからな」
その言葉に驚き、目を丸くする。
勝手にってことは、武器はランダムってことか...
ワクワクした気持ちから一転、少しだけ落胆してしまう。
「なんでって顔してんな、今から説明するが、武器ってのは誰でも持てるってもんじゃねぇんだよ」
影人でも武器が持てないことがあるのか?的なことを考えていると、柊ノ木さんは刀を触り口を開く。
「要は魔石は人を選ぶんだ。だからどれこれ自分が選ぶってのは出来ねぇってことだな」
なるほど...合う合わないがあるのか。
「お前は心配してるかもしれねぇが安心しろ。向こうが選んだって事はそれが一番合ってんだよ。お前も納得いくとは思うし、今までのヤツらもなんだかんだこれで良かったって言ってるしな」
そう言われ扉に目を向ける。
この扉の先で俺は魔石に選ばれるのか、、、
「扉に入ったら目の前に光が見える。それに触れば武器が顕現するからな。」
「...はい...行ってきます」
そういうと柊ノ木さんはニヤッと笑みを浮かべ頷いた。
ゆっくりと扉を開けると、目の前には真っ暗な空間が拡がっていた。
「...よし、」
先の見えない空間に息を飲むが、覚悟を決め1歩踏み出す。
体全体に暗闇が覆うと扉は勝手に閉じ、音もなく消えた。
俺は、何も無い空間でただ1人ぽつんと立っていた。
「...光、、ないんだが」
聞いていた光とやらが見当たらず、少し当たりを見渡して見るが、真っ暗な世界が続くのみでそれらしきものは無い。
どうしたものかと頭を悩ませるが、いくら悩んでも光は出てこないし、立ち尽くしてても仕方ないか…
「...取り敢えず、歩くか?」
そう思い歩こうとすると、腕に着けていた腕輪がほんと少し光った気がした。
「...ん?」
腕を上げ腕輪に視線を向ける。
先程光った気がしたのだか、特に変わった様子はなかった。
「…気のせいか、」
そういい手を下げた瞬間、腕から白い光が溢れ出し、今にも消えそうな炎が揺らぎながら目の前に現れた。
「…これ、か?」
腕から炎が出るとか言ってたか?と思い、とりあえず掴んでみるかと手を伸ばすが、炎は避けるようにゆっくりと進み、少しづつ離れていった。
「...着いて、、行くしかないよな」
他に行くあてもないよなと思い、その炎を追いかけて歩くことにした。
5分ほど歩いただろうか、炎は急に動きを止め、その場でゆっくりと散らばっていき、その欠片たちな前方を照らしながら消えていった。
自然とその先に視線をむけると、そこには僅かに影の濃い部分があり、シミのようなそれは段々と人のような形へと変わっていった。
『...誰だ、』
音のない空間に、高い声が響く。
真っ暗の影が、僅かに明るくなり、目の前の人影が鮮明に見えだした。
『...うぬは...なんぞ?』
そこには、胡座をかきながら、品定めするような視線を向ける少女がいた。
あまりの衝撃に言葉を失っていると、少女は舌打ちをし、不機嫌そうに声を上げる。
『...聞こえなかったのか?...うぬはなんぞ、?』
「...黒田一です。」
取り敢えず名乗ってみたものの、これがあっているかは分からない。
いや絶対あっていな気がする!?だって目の前の少女また舌打ちしたもん!!??
『...もう良い...はじめ…とやら、ひとつ聞きたい。心して答えよ...』
そういうと少女はゆっくりと立ち上がり何度か手首をこちらに振る。
こちらに来いということなのかと思い、歩き出そうとした瞬間、目の前と両サイドに斬撃が立ち上がった。
「...は?」
困惑している俺を他所に、少女のまわりにはぐるぐると斬撃が飛び回り、その体はぷるぷると小刻みに震えていた。
『...貴様、妾をこのようなところに閉じ込めておいて...どの面下げて現れたのじゃ!!!』
叫ぶと同時に怒気を放ち、こちらにいくつもの斬撃が飛んでくる。
は!?なんの事だよ!?
迫り来る斬撃を転がりながら避け、このままではマズいと声を上げる。
「落ち着いてくれ!!何を言ってるのか分からない!!」
『分からない!?分からないだと!!!ほざけ!!』
瞬間、体が宙に浮く感覚を覚える。
理解するのに数秒かかった、、自分ははるか後方へと吹き飛ばされているのだ。
「...なっ!?」
でたらめだった、何度も地面とバウンドし強制的に肺の中の空気が外に吐き出される。
うつ伏せ状態で勢いは止まり、立ち上がろうとしたがとてもでは無いが力など入らなかった。
『...影師は皆殺しだ、』
先程の位置からかなり飛ばされたはずなのに、少女は一瞬で距離を詰め、無機質な目でこちらを見下ろしていた。
『...消えてしまえ、』
そう言いながら、少女は腕を上にあげ風を纏わせる。
本格的にまずい。
俺は、かすれながら何とか声を絞りだしながら否定をする。
「...か...げし...ってなん...だよ、」
振り下ろそうとした手が止まる。
『...何を言っている』
表情は変わらずだが、怒気少しばかり弱まった気がする。
質問に答えず、肩で息をしている俺に苛立った少女は足で乱暴に俺を仰向けの形にする。
『...答えろ!!貴様影師ではないのか!!』
答えようにも声は出ず、動いているかは分からないが首を何度も縦にふった。
少女も声を出せないことに気づいたのか、何度目か分からない舌打ちをし、勢い良く座り込む。
『...ゆっくりでいい、貴様がここにいる経緯など全部答えよ...』
そう言いながら首元に手を当てる。
まともに喋れるまで数分ほどかかったが、ここに来るまでの話を少女に話した。
「...これで全部だ。」
そう言うと、少女はブツブツと言いながらただ下を向いていた。
俺は待つことしか出来ず、少女の返答を待つ。
しばらくしてゆっくりと口を開いた。
『...嘘は付いていないようだな』
「...なんで確信してんだよ、」
そう言うと、ずっと首元に当てていた手を離し、こちらに向ける。
『記憶を見させてもらった。よかったの、嘘と分かれば即座に首をはねていたぞ?』
取り敢えず首を触り胴と繋がっていることに安堵し、息を漏らす。
...怖ぇよ、
『...勘違いでは無いのだか、、すまぬ、怒りに身を任せていた。話だけでも聞くべきだった』
そう言い、少女は頭を下げる。
大分回復したおかげで幾分か体に力は入るようになり、上半身をゆっくりと起こし、少女に頭をあげるように言う。
「...いいよ、謝らなくて。けど何があったのか教えてくれないか?」
『...そうだな、次は妾の番だ。まずそちの認識を正そう。お前の言う影人、とやらは私の言う影師と同一のものだ』
「...はい?」
呆ける俺を無視して話を続ける。
『妾に名前は無いが...そうだな、皆からは風華と呼ばれていた。』
そこからは、少女もとい風華の話が始まった。
風華は、平安時代の中期ほどに、とある村に捨てられ村人たちによって育てられた少女だった。
彼女は生まれつき風を操る不思議な力を使え、その力を村人たちのために使いながら日々を過ごしていた。
その頃はまだ、穢人と人間の世界は分けられていなかったらしく、至る所に穢人は現れ人々を脅かしており、それを倒す組織のことを影師と呼んでいたらしい。
風華の村はかなり山奥にあり、影師を雇うお金なんてある訳もなく、かと言って対抗するすべもほかの村人は持っていなかったため、実質風華1人が村全体を守って生活していたらしい。
村人達は風華に感謝し、また風華もそんな村人たちが大切だった。
だが、12の時に事件は起こる。
事の発端は、山奥の小さな村に台風が迫ってきたこと。
設備など、対策も満足にできておらず村は壊滅寸前、足の悪い老人は置いてみな避難しようとなったのだが、風華はどうしても納得がいかず単体で台風に挑み押しのけることに成功した。
村人達は、初めこそ喜んだものの天変地異すらひっくり返す風華の力を段々と恐ろしく思い、影師に相談をしたそうだ。
すると影師達は風華の力を我がものにしようと、我らの武器になれ、それが無理なら影師になれと言われたのだが、風華は村を離れるつもりは無いし、利用されるつもりもないと断固拒否。
すると影師達はやれ風華は妖の姫なのだなどと嘘をつき村人の協力を仰ぎ、暗闇へと封印したと言う。
『...いつの世も人間とは醜いものよ、今の世で言う魔女と言うのは、妾のようなものの事だろう』
そう言いながら、涙をこぼす。
それは紫葵さんを憂いてか、過去裏切られた過去を思い出してかは分からないが、俺は何も言わず頬につたう涙を拭いてあげる。
『 ふふふ…優しいのじゃなお主は』
急に笑いかけられ反射的に手を離してしまう。
恥ずかしさもあり、無理やり話を進めようと口を開く。
「あーっと、...ほんとかは分からないけど、人が魔石を選ぶんじゃなくて魔石が人を選ぶらしいんだ」
俺がそう言うと、風華は一瞬キョトンとしたがすぐに考え込む。
『...推測でしかないが、妾の人間嫌い、だれか出してくれという思いと、お主の魔女を助けたい。これらが色々絡み合って偶然お主が選ばれたのではないか?』
「それ噛み合ってるか、?」
俺が不思議そうに首をかしげると、風華は指をピンと立て説明を続ける。
『 こじつけとは思うが、人間嫌い=人間敵。魔女を助けたい=人間敵。助けて欲しい助けたい。こゆことじゃろうて』
そう言われたら共通している部分がないことも無いかと頷く。
『...主は影師になって日も浅く、動機も影師のそれとは程遠い』
そう言い、にししと笑いながら立ち上がり、
風華は手を伸ばしてきた。
『うぬ、妾は個人的にお主を気に入ったのじゃ、お主ならば力を貸してやらんこともない。この暗闇から救ってくれた恩もあるしの?』
手を取ろうとするが、躊躇ってしまう。
自分でいいものかと、この子の闇を背負えるのかと思ってしまう。
俺の考えを読み取ったのか、風華は無理やり手を掴んできた。
その瞬間、合わせた手から光が溢れ出る。
「うぉ!?」
手を離すと、間から深緑の線入った黒い短剣が光を放ちながら生成されていく。
『...まだ人間は憎いが、主のこの先を見たくなったのだ。躊躇うでない、存分に振るうがいい』
生成され宙に浮いた短剣を手に取り、何回か振ってみる。
そんな姿を見て嬉しそうに風華は笑い、口を開く。
『 短剣か、良いでは無いか。色彩も妾の好きな感じじゃぞ?どれ、、』
俺に近づき、短剣に触れ嬉しそうに笑う。
『よし、妾の使い方を教えてやろう』
...
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扉を開くと、扉の前には柊ノ木さんが立っていた。
「お、やっと戻ってきたか。どんだけかかってんだよお前、」
そう言いながら近づき、俺が手に持った短剣に目を向ける。
「おぉ、それがお前の武器が。ナイフとはまた中々面白いじゃねぇか」
「これって鞘とかってどうしたらいいですか?」
俺がそう聞くと、柊ノ木さんはこの中から適当に見つけたらいいぞという。
短剣の場所に行き、腰につけるタイプの鞘を手に取り装着してみた。
「...ピッタリか、これにします」
そう言って柊ノ木さんに向き直ると、なにか投げられそれをキャッチする。
手の中を見るとそれは鍵だった。
わけも分からず、なんの鍵なんだろうと柊ノ木さんの方を見ると、上を指さしていた。
「寮だよ、お前の部屋3階な?荷物とかある程度まとめたから見てこいや」
はい??
「...これまた急ですね、」
俺がそう言うと、柊ノ木さんはニヤッとしている。
「調べたって言ったろ?寮に移動するのに問題あるなら辞めるが、?」
そう言われないですよと返し、柊ノ木さんと上に向かう。
色々あって疲れたのだか、この後16時くらいにミーティング室の2番の部屋に来るように言われ柊ノ木さんと別れた。
地上に出たらマンションのような建物になっており、迷うことなく自室に到着する。
部屋に入ると、本当に俺のベットや服の入ったタンスなどが設置されており、ありがたいがさすがに笑ってしまう。
まだ4時間ほど時間がある、俺は仮眠することを心に決めベットに身を投げ意識を落とした。
『...やほ』
「...なんでいるんだよ、てか俺寝たんだけど、」
『妾に聞かれても、、』
「...夢に出てくんじゃねぇよ、、」