17「小動物」
「...つい...た、.....」
どうしよぉ...
現在、私は扉越しに早見さんを捉えていた...
...捉えてはいるが、やはり敵を目前にすると足はすくみ、死にはしないとわかっていても痛みという恐怖に身体は固まり、足を止める。
かつて経験のない強敵との戦い。
武者震い...そんな去勢が張れればどんなに良かっただろう...
そう思いながら、私は急がなければならないのに数分近く扉の前で震え、たたずんでしまっていた。
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「...」
なんだろう、上手く言えないんだけどさ...絶対誰かいるよね!?
そう思い、私は扉に向かって銃を構える。
しかし、待てど暮らせど戸が開かれる様子が全くない。
「えぇ...なんなのよぉ、」
私、早見 沙織はとても困惑していた。
現在はランク戦の途中で、ランク戦とはお互い死力を尽くし削り合い、高め合うものなのだが……敵の気配が扉の向こうからするものの、一向に攻めてこないのだ。
奇襲をするのかな?と思い1度無視して夏帆の援護をしてみたがこちらに攻撃は飛んでこず、私はさらに困惑した。
さすがにこのままだと埒があかないし、私自身気が散って集中できず、援護どころでは無い。
こちらから声をかけ、呼ぶことにしようと私は自分から口を開いた。
「そこにいるのは分かってますよ、隠れてないで出てきてください」
そう言うと、扉の向こうでガタガタと音が聞こえ、静かになったと同時に扉がゆっくりと開かれた。
開かれた先には、ぷるぷると足を震わせ、今にも泣きそうに潤んだ瞳でこちらを見つめる少女が立っていた。
「いや小動物かよ!!」
思わず突っ込むとさらにびくりと震えあがり、震えた手のままこちらに杖を構えてきた。
どうしよう...
いや、こんな小動物と戦っても私が勝つでしょこれ!?
...こんな可愛らしい子を、産まれたての子鹿のようなこの子を一方的にいたぶるのは正直めちゃくちゃ心が痛い。
「...引いてくれないかしら?」
私がそういい銃先を彼女に向けると、彼女はびくりとして、あわあわし首を横に振り出した。
もー!!なんなのよ!!
撃ちにくすぎない!?首フリフリしないでよ!!何か言ってよ!!!
私が悪者みたいじゃない、!!!
「...ひけ...ない...です、」
心の中で葛藤していると、消えそうな声で彼女は引くことは出来ないと答えた。
「...その気持ちは尊重したいのだけれど...その、ごめんなさい、悪気はないんだけどあなためちゃめちゃ撃ちにくいわ...」
私が困った顔でそういうと、彼女は杖で何度か自分の頭を小突き、小さく呟いた。
「...60%...セット...解..放〝 砲来光〟...」
瞬間、彼女のまわりに円形のエネルギーが現れバリアのようなものが形成される。
それはスパークのような何かが表面を常に伝っており、震える彼女とは対照的に今か今かと荒ぶりを見せていた。
「...っ!やるしかないのね、もー!なんで私ばっかりこういう損な役周りなのよ、!!60%セット!!解放〝 瞬衝〟!!」
私の能力は、主に味方にスピードアップを付与するというもので、火力面の能力は乏しくせいぜい遠距離射撃か散弾銃のように飛ばす攻撃手段しかない。
だから基本は逃げて2人が敵を倒し、こちらに来るまでの時間稼ぎしかないのだが...
...私は見誤った。
「...っ!?!?」
まずは一撃と、バックステップしながら敵に射撃したのだが...
私の弾丸は、敵の莫大な数のエネルギー弾に飲み込まれ、そのまま私の目前まで迫った。
「.....ごめん...なさい、」
...謝らないでよ、
私が悪いんだもの、あなたを舐めてしまっていた。
だから、自分でもやれると勘違いをし、今大量のエネルギーに襲われ体に激痛が走っている。
...ごめんね、咲...
...
……わたしは残りの仲間に全てを託し、意識を落とした。
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「小森、やれたのか?」
鹿島さんを倒し、すぐに屋上に向かいドアを開けると既に決着はついていた。
小森は始まる前から、相手チームとはいえ傷つけたくないなと言っていたため、相対した敵を倒すのは無理だろうと思ってたが、少し見誤ってたのかもしれない。
俺は己の考えと、小森の評価の認識を改める。
「...はじ...っ!?...はじめ、!て!腕が...!」
俺の声を聞き安心したのか、肩の力を抜き振り返るが、俺の現状を見た瞬間目を見開き、取り乱しながらこちらに駆けてくる。
「あー、強かったよ鹿島さん。やられちった」
「...」
口元を抑え、腕をじっと見つめる。
傷口から血は出ていないが、煙のようなモヤがずっと出ている。
恐らくこれが魔力と呼ばれるものなのだろう。
これが少しづつではあるが、先程から常時出ているため、俺の魔力はそのうち尽きるだろう。
俺には時間が無い。
取り敢えず小森の無事を確認したため、俺は燐のところに向かうことにする。
「取り敢えずここで待っててくれ、俺は行くからもし三林さんが外に出たらまかせていいか?」
「...なに...いってるの...どこ...いくき、?」
俺の指示に、小森の開いた目に少し怒りが混ざる。
言いたいことはわかる、その怪我で一体どこに行くと言ったのかと聞いているのだろう。
...いや、分かるんだが...今こうしてる間も燐が頑張ってくれてるから、行かなきゃなんだが...
「...どこも何も、燐のところ行かないとだろ、?燐じゃやられはしなくても三林さんには勝てない、援護しないと...そういう作戦だったろ?」
俺がそう言うと、小森は目に涙を浮かべ俺の右腕を指さしてくる。
「...リタ...イア...して、」
リタイア、つまり途中棄権しろと小森は訴えてきた。
「それは出来ない」
俺が迷うことなくそう答えると、小走りで扉の前に立ち俺を行かせまいと手を広げ、また力強く普段では絶対にしない声を大きく訴えてくる。
「棄権...するの...!」
「のけ小森...燐のところにいかなきゃ、間に合わなくなる」
「...だめ!!」
「小森!!!」
俺が叫ぶと、びくりとするが動こうとはしない。
「...ここ...痛み...は、ある...はじめ...腕..ない...痛み、立ってるの...おか...しい!...なにしてるの!!!」
埒が明かないなと俺は、自分の右肩を自分の剣で突き刺した。
その瞬間小森は左手に飛びつき、短剣を手から離させようとするが俺はさらに続ける。
「時間が無いんだ、強引に行くぞ小森。そこをのけ、のかない限り俺は自傷を繰り返す」
俺がそう言うと、小森の目からは大量の涙が零れ、床に崩れ落ちた。
「すまん...やっぱり小森はもう出ててくれ」
小森の頭に手を置き、俺のせいではあるがこの状態で戦闘は無理だろうと判断し、途中棄権を指示した。
それに対し小森は何か言いたげだったがその言葉は飲み込み、そして頷いた。
それを確認すると、俺は屋上から飛び降り体育館へと向かった。
体育館からは轟音が響いており、戦闘の激しさがその音から伝わる。
あと少しで到着というところで戦闘の音はやみ、これはまずいと走る足に力が入り俺はさらに加速、開かれた扉の先にいるふたりを確認する。
今にも振り下ろされそうな三林さんの刃を間一髪で弾くことに成功し、いつぞや食らった久留美さんの見よう見まね、無理な体制からのみぞおち蹴りを三林さんに当て後方へと蹴り飛ばす。
何とか間に合った...
荒れた息を整え、燐に目線は向けず俺は口を開く。
「わるい...遅くなったわ...」




