13「成長」
『やっときたのじゃな!』
てくてくと駆け寄り、満面の笑みを浮かべ俺に声をかけるのは風華。
つまりここは夢の中である。
「…体痛くない」
そう言いながら自分の体を確認する。
肩をぐるりと回してみたり、軽く飛んでみたりするが痛みは全くなく、それを見た風華は不思議そうに、何してるんだこの人はと呆れていた。
『そりゃ夢の中なんじゃから…万全に決まっとるじゃろうて』
いやそうは言いますがね、こちとら夢の中とか現実とか壊裏とかもう沢山ありすぎてぐちゃぐちゃなんですよ。
『取り敢えず、いつものじゃの』
そう言い風華は、ゆっくりと両手を前に上げ手のひらをこちらに向けかまえる。
本人いわく、変に構えるより自然体のまま力を入れないこの体制の方が戦いやすいらしい。
俺は風華の動作を確認し、小さい少女から放たれる圧を全身で感じながらアーツを軽く握り低く構える。
「……40%…セット」
その声と同時に体全体が軽くなるが、それと同時に身体中の筋肉に刺されるような感覚を覚える。
『うむ、60だと数秒程じゃが...40だと少しは動けそうじゃの』
ムフフと笑いながらゆっくりと地面から足を離す、そう、宙に浮いている……あれおかしいだろほんと...
風華の技は基本どれもくると思った時にはもう遅い、俺は風華視線、呼吸など得られる全ての情報からから目を離さずその瞬間をまつ。
『そう見つめるでない、照れるでは無いか』
瞬間、小さかったはずの手のひらが大きくなる。
それが、目の前まで風華が急接近したと理解すのは、反射で風華の手を避けた後だった。
血の気が引き、無理やり頭をフル回転させ通常では感じることの無い思考の感覚に吐き気をもよおす。
『お、避けたか避けたのじゃな!偉いぞはじめ!…じゃが、』
風華の手を横に避け、相手の脇下に潜りご横腹に足を当て、蹴り出すことで距離を取る。
着地すると同時に、風切りを飛ばそうとしたのだが、風華がじゃがと口を開き、その瞬間、俺の左腕は消し飛んでいた。
「……っっっ!?!?!?」
熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!!!!!
「うぉぉぁぁぁぁあああ!!!」
迫り来る痛み、思考全てを投げ捨て風切りを発動。
風華に飛んでゆく風切りの後を追うように俺は急接近し追撃を試みる。
『距離をとるのはいいが反応が遅いのぉ…一体何度言えば思考と反射を両立出来るのじゃ?罰として左腕じゃこのたわけめ。まぁ、腕を失っても追撃を続けるのは花丸さすが妾のはじめじゃ』
そうケタケタと笑いながら風華は俺の風切りを同じ威力の風切りで相殺し、俺のフェイントを織り交ぜた全ての攻撃を読み切り、僅かな隙をつき俺のみぞおちに重い蹴りを入れる。
不意の攻撃に対応することは出来ず、俺は蹴り飛ばされ遠くへと飛ばされ、何度も地面にバウンドし無惨に転げおちる。
『切るように見せかけて蹴り、蹴るの見せさせて切る。左右とフェイントも素晴らしいが何より素晴らしいのは最初の最初に設置して温めておいた天井からの風切りじゃ!』
何度味わったか分からない、口の中は血の味で満たされ、内蔵は焼けるように熱く、無理やり空気は吐き出され息ができない。
それでも立たなければ、追撃が来るのだ、倒れて休んでる場合じゃないのだ。
片腕がなんだよ、!!立て!!立てよ、!!!!立つんだよ!!!
何とか立とうとするが、左腕がないせいか上手くバランスが取れず、立てないまま何度もその場には倒れてしまう。
『もう終わりか?』
何とか立とうと四つん這いのまま項垂れていると上から声をかけられる。
俺が立とうと足掻いてる中、風華は既に頭上まで接近しており、俺は今日もまた完膚なきまでに叩きのめされ力の差を嫌でも判らされる。
なんで立てない...
なんでっ!!!!
何度も何度も地面に頭を打ちつけ、立てと心の底から思うがその気持ちに反して体はどんどん地面へと沈んでいく。
『ほらほら、落ち着くのじゃ...取り敢えずこのくらいかの』
その声と同時に、打ち付けていた頭は止められ抵抗するまもなくふうかの膝の上へと置かれる。
風華が俺の頭を撫でる度、少しずつだか体が楽になっていき、傷は回復していく。
『素晴らしいぞはじめ!日に日に強くなっておる!どんどん強くなっていくお主を見ると妾も厳しくしたかいがあって良かったと思うのじゃ』
嬉しそうにわらい、そうやって褒めてはくれるが...俺はとても笑えない。
「……弱いな俺は」
そう俺が言うと、風華はぺちぺちと頭を叩きたわけたわけと言葉を続ける。
『何を言うか、そもそもなんの経験もない人間が数ヶ月でここまで成長するのが素晴らしいのじゃ』
そう力説し、叩くのを辞めまた優しく頭を撫でてくる。
「……反射と思考の両立が...」
『うむ、格上になればなるほど技の練度から発生までのスピードは桁が違うんじゃ...はじめの考えながら戦うスタイルは否定はしないんじゃが、それではどうしても届かない領域もあることを知っておいて欲しいかのぉ』
そう言われ、自分の不甲斐なさに苦虫を噛み潰したような顔のまま拳を握る力が強くなる。
それを見て風華はおちつけと何度かデコをはたく。
『...妾と同レベルの影師はそうおらんやろうて、辛いがいい特訓にはなるじゃろう。苦ではあるだろうががはじめは死んで欲しくは無いのじゃ』
「…お前もさぞ辛かろう」
俺がそう言うと少し悲しそうに笑い、そんなことは無いという。
『……さて、はじめが回復している途中ではあるが、新しい技を授けよう』
「…それは嬉しいんだが、少しいいか?」
『ん?』
俺はあの時の燐との会話を風華に説明する。
それは、手札を増やすべきなのか。
それとも今ある技を磨くべきか、どちらがいいのかということである。
『うむ、燐とやから言っていることも分かるが、妾としてははじめは気にする必要は無いと思うのじゃ。考える、この1点においてはじめは考えすぎてるくらい能力と向き合っている。それになによりはじめには妾がいる!だから任せろなのじゃ!』
そう言われ、自分の考えは杞憂だったのだとしり気持ちが楽になった。
その後、技を2つ教えてもらい、そして地獄の特訓、回復のループを何度も繰り返した。
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あれから1週間が経った。
それぞれの進捗で言うと、燐は45%に小森は40、俺は55の制御に成功していた。
「はじめって…おかしいよね」
トレーニングルームで3人それぞれの特訓をしていると、おもむろに燐がそう言い放つ。
「何言ってんだよ…」
俺が呆れそう返すが、小森は燐に賛成なのか何度も頷いていた。
「僕も予定より5%進んでて喜んでいいはずなのに…どこかの誰かさんのせいで素直に喜べないよ」
そう言い、持ち手の長いアックスの先で地面をゴンゴンと突き、ブーブーと言っている。
「……ほん…と…」
こちらもブーブーいってんな。
「ほら馬鹿なこと言ってないで、組手だろ今日も。2対1だ、遠慮なく来てくれ」
そう言いながら俺はかまえ、それに合わせて2人も構える。
2対1の対人組手は、4日目に俺が2人に提案をしたことで、話し合いの結果、訓練内容に組み入れることにした。
4日目の段階で俺は45、2人は30と35の制御をしており、体を動かしながらした方が馴染みやすいし、前衛が俺しかいないという点から多数戦を経験しておきたいというと、2人は少し渋ったが最終的には賛成をしてくれた。
初めこそ2体1という状況で2人には遠慮が見えたが、最近は本気で来ているのが伝わるため夢と現実、ふたつの環境で俺はとても刺激ある特訓ができていた。
「55%セット…解放〝風華〟」
「45%セット、解放〝地穿つ者〟」
「4…0%……セッ…ト……かい…ほ…う〝砲来光〟」
「風切り」
俺の攻撃を合図に、今日も特訓が始まった。




