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「今日ははじめの誕生日だからなー」
その日は俺の誕生日で、幼かった俺にとっては特別な日だった。
「急がないと、はじめの好きなハンバーグ作らないとだもんね」
「うん!!」
母親に撫でられ、嬉しそうに頷く俺。
なんてことない、どこにでもある家族の光景だ。
「鍵...鍵っと、あったあった」
「ねぇー!お父さん早く!」
「すまんすまん」
この幸せは当たり前で、明日も明後日もこれから先も続くんだと、いやそんなことすら考えてなかった。
この幸せ、そこに疑問なんて持たなかった。
だが...
「...お父さん、あれ何?」
現実ってもんは、そんな当たり前を容赦なく壊しに来る。
「ん?何を言っ...」
気がつくと、俺は真っ赤な世界の中に一人立っていた。
あたりは鉄臭く、とても鼻につく。
はっきりとしないまま、鳴り響くサイレントと誰かの声が耳に響いていた。
...
......
...あの時見たものはなんなのか。
思い出せない。オモイダサナイ。ナニモシラナイ。
そうやって俺は、ニヤリと笑いこちらを眺める何かに蓋をし、見て見ぬふりをする。