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4章-2


 お夕飯も近い頃、レイファさんとディルくんがやってきて、レイファさんが治癒魔法をかけてくれた。痛みが和らぐ。


「顔は入念にかけておいたわ。ほら、やっぱりメイちゃん、可愛いからトラブルに巻き込まれちゃうのよ」

「まあ、頬の腫れがひいてるわ。よかったわね、メイ」


 アルフェさまも満足のいく治癒っぷりだ。あたしは治癒魔法を使わずに、あとは自然治癒に任せたほうがいいだろう。どうせ擦り傷、切り傷、打ち身くらいだし。


「でもさあ。あの研究員、幻を見たってことなのかなあ」


 ディルくんが鋭いところを突いてきた。部屋には1年生五人しかいないから、まあ、なにかあっても大丈夫とは思ってるけど。


「それは、まあ、俺も考えてたことだけどよ。全部が全部メイがやったってことはありえねえんじゃないか。それじゃあ、万能すぎるだろ」


 ルキスが言う。アルフェさまは少し考えてから言った。


「どちらにしても、メイは逆恨みされているかと思いますの。皆様、しばらくの間、守ってくださらないかしら」

「メイちゃんを守るなら、頑張るわ」

「うん、ああいうやつに狙われると怖いしな!」


 レイファさんとディルくんは即答してくれた。ルキスはにやにやと笑ってる。


「珍しいな、アルフェ。お前が、他のやつを頼るなんて」

「他ならぬメイのことですから。ルキスは結構ですわよ。メイを疑っているのでしょう?」

「まあ、疑ってはいるが、興が冷めたっていうのが本音だな。それにアルフェに借りを作るほうが楽しそうだ」

「……性格の悪い」


 アルフェさまはつん、とルキスから視線をそむけた。ルキスはにやにやまだ笑ってる。


「ほら、メイ、起きるぞ。晩飯はきっと美味いぞ。久しぶりに五人で食べるか」

「あ、みんなで食べるのは美味しそう」


 あたしはよいしょ、と上体を起こした。う、やっぱりあちこち痛いなあ。


「そう言えば、夕食を一緒に食べるのは久しぶりだな」

「ええ、これからどうやってメイちゃんを守るか、考えるのにもいいかもしれませんね」


 ディルくんとレイファさんも賛同してくれたので、お夕飯は五人一緒に食べることになった。


 あたしたちは食堂へ移動する。食堂まで、長い真っ直ぐな廊下を歩く。ここはまだ学園の敷地内で、渡り廊下を越えると寮になり、食堂がある。歩くと打ち身のせいか、あちこち痛い。


「メイ、大丈夫ですか」


 アルフェさまが心配そうに私の隣を歩く。さすがにアルフェさまに心配はかけられない。


「大丈夫です、アルフェさま。こんな怪我、怪我のうちにも入りません。レイファさんに治癒もしてもらいましたし」

「それならよいのですが……」


 体を撫ぜてみた感じ、骨折なんかもしてなかったみたいだし、ネヒトさんも本気だして蹴飛ばしてはいなかったのかもしれない。

 そう思うと、ちょっとだけネヒトさんに悪いことをしたなあって考えちゃう。でも、バラすわけにはいかないし。ネヒトさんのために力を使うのはもっと嫌だ。


「メイはさ、あんまり人の役に立とうって張り切らなくていいと思うな」


 急にディルくんが言った。あたしはぱちくりとまばたきをする。


「どうせ、嫌なことさせられそうになったんだろ? それでも役に立とうって思ってこじれたんだろ? そういうときは嫌ですって言わなきゃ」

「ああ、それはそうね。メイちゃんは色々頑張っちゃうタイプに思えるわ」


 レイファさんも言うので、あたしは困ってしまった。


「頑張ってるわけじゃないけどなあ……」

「私が無理させてますでしょうか」


 アルフェさまが今度は考え込んでしまう。あたしは慌てて手を振った。


「アルフェさまとは関係ないですよ。あたしの性格の問題です」

「うん、アルフェとは関係ない。もっと俺、メイはやりたいことやっていいと思う」


 ディルくんがにっこりと笑った。ルキスが大笑いした。


「こいつがやりたいことやりだしたら、アルフェのことばかりになるぞ」

「あら、それでもいいじゃない」


 レイファさんもころころと笑う。

 あたしのやりたいこと――。


「じゃあ、あのね。ありがとうって言いたい」


 あたしが言うと、ディルくんは笑った。


「そういう意味じゃないけどさ。でも、どういたしまして!」


 結局、あたしは、夕食の間中、ディルくんの言ったことを考える羽目になったんだけど。

 寮のおばさんが、元気になるようにあたしに大盛りをよそってくれたから、あたしは夕食の間、とてもご機嫌だった。



 寝る前に、アルフェさまのお着替えを手伝いにお部屋にお邪魔する。

 制服から寝間着に着替えるお手伝いをして、綺麗な髪を櫛で梳いて、濡れタオルでお顔を丁寧にお拭きする。


「さあ、できましたよ、アルフェさま」

「怪我してるのにごめんなさいね、メイ」

「いえ、このくらい。あたしはアルフェさまの侍女ですから」


 アルフェさまがベッドに入ったのを確認して、あたしは布団を丁寧にかけてさしあげた。


「メイ」


 アルフェさまが心配そうに声をかけてくる。


「はい、なんでしょう、アルフェさま」

「私のせいで、やりたいことができないのですか?」


 アルフェさまはディルくんが言った一言をずっと悩んでいたようだ。あたしは首を振った。


「アルフェさまのせいなんかじゃありません。だって、今日のことなんかは、アルフェさまは関係ないじゃないですか」

「でも、メイはずっと何か秘密にしているわ。私のせい?」


 それを言われてしまうと、正直何も言えないんだけど。


 思い出すのは精霊騎士たちに殺される、ペガサス。馬型の魔物、羽馬。あたしの前世の友達。アルフェさまがそんな目に合うことだけは避けなくてはいけない。


「アルフェさまのせいじゃないです。あたしの立ち回り方が下手なだけで」


 あたしは苦笑いしてみせた。そうだ、あたしがうまく立ち回っていれば、もっと事は穏便に済んだかもしれないのだ。


 ルキスが前に言ってた。魔法の腕っていうのは咄嗟にどの魔法を使えばいいのか判断できることだって。けして魔力が大きいことが魔法の腕がいいことにはならないって。

 そういった意味で、アルフェさまは魔法の腕がいいんだって。


「たとえば、アルフェさまだったら……今回、ネヒトさんが言うとおり、魔物を召喚したりされたらどうしますか?」


 だから、あたしは聞いてみることにした。あたしのやり方は正しくなかったかもしれない。こういうときはアルフェさまを頼ったほうがいい。


「そうですね……まずは身を守りますわ。それから、その場をネヒトさんにおまかせして、魔法騎士を呼びに行くのがいいのかしら」


 ああ、そうか。アルフェさまにとっても魔物は殺さなくちゃいけないものなんだ。

 でも、あの場をネヒトさんにまかせたら……ネヒトさん、殺されてたかもなあ。猪型の魔物さん、あたしがいたから手を引いてくれたんだものね。


 ひょっとしたら、正解なんてわからない問題なのかもしれない。でも、あたし、魔物さんを助けることができた。命を無駄に奪うことを避けられた。

 それは、あたしを褒めてもいいんじゃないかな。


「ありがとうございます、アルフェさま。参考にします」

「あまり参考にはならないわ。私の意見は兎型くらいの魔物にしか有効でないもの。本当にネヒトさまの言うとおり猪型が出てきたのでは、命はないと思いますわ」


 ああ、やっぱりこういう冷静な分析ができるアルフェさまってすごいなあ。素敵だなあ。

 あたしは自分のご主人さまの優秀さに惚れ惚れとする。


「……何をにやにやしてますの、メイ」

「えへへ、アルフェさまはやっぱりすごいなあって!」

「おかしなメイ。さあ、メイも今日は早く横になって、休んでくださいな。疲れたでしょう」

「はーい。おやすみなさい、アルフェさま。よく眠ってくださいね」


 あたしは礼儀正しく一礼すると、アルフェさまの部屋を後にする。

 少しだけ、自分を褒めながら。


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