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1章-2


 滅亡の魔女、とか言われてたけど、あたしが滅ぼしたものって言ったら、住んでいた家の裏庭にはびこっていた雑草くらいなものだ。だから、未だになんで殺されたのか、「あたし」はわかってない。


 座学では教えてもらった。魔女は魔力の母とも言える存在だったが、精霊王を人間界から追い出し、人間を滅ぼそうとした。だから、精霊騎士が乗り込んで、魔女を殺したのだと。魔女を殺したため、魔力は人間界から減少していったのだと。


 でも、精霊王は追い出されたわけじゃない。自分から人間界を去ったのだ。あたしの大事な茶飲み友達の一人だったのに、「人間の醜さに呆れ果てた」と言い残して。


 だから、あたしは寂しくペガサスとお茶を飲んでいたのだ。そのお茶の時間に、精霊騎士たちは乗り込んできた。


「滅亡の魔女! 覚悟しろ!」


 はじめはなんのことかさっぱりわからなかった。だけど、複数の精霊騎士が家に乗り込んできて、まず友達のペガサスを斬りはじめたから、あたしは慌てた。

 ペガサスをかばって魔法を使ったら、「やはり、人間を滅ぼすつもりなんだな」と皆に罵倒された。


 違う、違う、何を言ってるの。


 ペガサスが逃げてと言う。でも、目の前で友達が殺されるのを黙って見ていられるはずがなかった。すぐに戦いになるも、多勢に無勢であたしたちは殺されてしまう。


 精霊騎士たちが勝どきの声を上げるのを聞きながら、私とペガサスは手を取り合った。


 もし――もし、生まれ変わりというものがあったら。

 そのときは、また一緒にお茶をしよう。何にも邪魔をされず、笑って暮らそう。


 その約束が、あたしの魔女としての最後の思い出。



 ……次に気づいたのはベッドの中だった。


 カーテンが引かれていて、夜らしいことはわかった。


 ベッドの横に椅子が置かれていて、そこでアルフェさまが項垂れるようにして眠っている。心配をかけてしまった、と思ったらとても申し訳なくなった。


 アルフェさまを起こさないように、上半身だけ起き上がる。服は寝間着に着替えていた。きっとアルフェさまかレイファさんがやってくれたんだろう。侍女失格だ。


 部屋をぐるりと見渡す。あたし、アルフェさまの部屋で、アルフェさまのベッドで寝ている。調度品があたしの部屋のそれよりも豪華だし、なにせ毎日お世話をしにお邪魔をしているからよくわかる。

 きっとアルフェさまがあたしを部屋に運び入れたのだろうと思ったら、申し訳なさに涙が出そうになった。


 とは言え、まず自分のことを確認させていただこう。腹部を確認してみたけど、傷跡もない。綺麗だった。生まれ変わったようなつるんとした肌をしていた。

 完全治癒を使ったんだろう、と急に古代語魔法に詳しくなってしまったあたしは思い至った。治癒は魔力をとても使う。だから、魔力切れで気を失ったんだろう。


 でも、体から湧き上がる魔力は、今までと桁違いだ。アルフェさまの魔力よりも、今のあたしの魔力のほうが強いのがわかる。


 「滅亡の魔女」。

 それは古代語魔法の源である魔力の母とも言われている魔女のこと。


 その魔女が、あんな殺され方をしたなんて、座学では教えてもらっていない。

 あたしが、知っている――ううん、経験したことなんだと思う。

 生まれ変わりだと直感したのは、そのあたりが理由だ。


 死ぬ間際に、前世を思い出して、すごい力に目覚めちゃったなんて話、まあ、おとぎ話では聞いたことがなくもない。

 でもなあ。色々疑問に思うこともあるんだよね。


 あたしはベッドから起き上がると、アルフェさまの顔を覗き込んだ。目元に涙の跡がある。本当に心配をかけてしまった。


「よいしょ」


 あたしにあった小さな魔力、それは右腕を巨大化すること。人を殴ることくらいにしか使えない、大変利用価値のない古代語魔法だ。

 でも、アルフェさまを運ぶのには便利だ。


「あたしの姫さまのために」


 いつものように右腕を巨大化しようとする。ところが、今のあたしの魔力は今までの魔力とは桁違いだった。

 右腕は部屋いっぱいになるくらい大きくなって壁を破壊しそうになる。


「わー、待って待って!」


 あたしが慌てて右腕を引き戻すのと、驚いてアルフェさまが目を覚ますのは同時だった。


「メイ? 気づいていたの?」

「アルフェさま、起こしてしまってごめんなさい!」

「そんなことより、怪我はないの? 大丈夫なの?」


 アルフェさまは私にすがりつかんばかりに、私の体をぺたぺたと触る。あたしは小さな胸を張った。


「とっても元気です。大丈夫です」

「嘘よ、だって……」


 アルフェさまは私を見て、黙り込んだ。


 うん、たしかに何も知らなければ嘘だと思うだろうなあ。事実、あたし自身も死んだと思ったもんなあ。

 でもアルフェさまに「あたし、実は『滅亡の魔女』の生まれ変わりだったんですー、えへへ」なんて言えるはずない。


 なにせ、「滅亡の魔女」だ。

 どうしてかわからないけど、「滅亡の魔女」だ。その響きが怖い。禍々しいものをかんじさせた。


 アルフェさまに何か迷惑がかかるようなことがあってはいけない。侍女失格だ。


「でも、元気なんです。アルフェさま、風邪ひいちゃいますよ」


 あたしは話を強引に変えて、アルフェさまの手を引いた。


「ちゃんとベッドでおやすみになってください」

「でも……」

「無事だったんですからいいじゃないですか! ね? 寝ましょう? 今、ベッドメイキングし直しますから」


 あたしは慌てて、掛け布団をばさりと広げた。右腕を大きくするとこの作業も楽なんだけど、今はいつもの大きさに右腕を大きくできる自信がない。


 けれども、アルフェさまは私の手を握って、首を振った。


「メイが死なないってわかるまで、私は寝ないわ」

「アルフェさま……」

「私が寝てるうちにメイが死んでしまったら、私、絶対後悔するもの」


 あたしは感激した。なんて素敵なご主人さまなんだ、アルフェさまは!


「あたしは大丈夫です。もう危険な真似もしません」


 あたしは決意した。


 あたしが、たとえ「滅亡の魔女」の生まれ変わりだとしても、そのことでアルフェさまに心配をかけたりしない、と。

 だから、生まれ変わりの話も、とてもじゃないけどできない。


 アルフェさまに内緒事をするのは気が引けたけど、それで、アルフェさまに心配をかけさせないのだったら、それが正しい侍女の道だと思う。


「だから、アルフェさま、寝ましょう?」


 あたしの笑顔をアルフェさまはじっと見て、それから小さく頷いた。


 アルフェさまはまだ制服姿だったので、それを寝間着に着替えるのをお手伝いした。体は何不自由なく動いた。

 アルフェさまは心配そうな顔で私を見ていたけれども、ベッドに横たわる頃には、安心してくれていたみたいだ。


「約束よ、メイ。私が眠っている間にどこかへ消えたりしないでね」

「大丈夫です。ずっとアルフェさまの手を握ってます」


 あたしがアルフェさまの手を握ると、アルフェさまはほんのりと微笑んだ。目を瞑る。そしてすぐに寝息を立てられ始めた。


 よかった、と安心すると、今度は自分の身の上のことが心配になる。


 とにかく、いきなり殺しにきた精霊騎士は怖い。その事情も何もわからないままだ。もっと情報を集めないと、またいきなり殺されてしまうかもしれない。


 精霊王やペガサスはどうしているんだろう。

 ペガサスとはお茶を約束した仲だ。なんとかしてもう一度巡り合って、「あのときは大変だったよねー」的にお茶を飲みたい。


 どちらにしろ、調べないといけないことばかりだ。調べ物はあまり得意ではないので、あたしはため息をつく。


 それより、この魔力を使ってみたい。

 いや、ばれたら困るけど、だって万年最下位で、みんなから心配されることもなくなるんだもの。今なら宝石に魔力を入れることなんて、簡単にできちゃうよ?


 あたしは、自分の魔力の使い方を「理解」した。その大きさにはまだ戸惑うけど、それはこれから勉強していけばいいんだし!


「アルフェさま、一緒に勉強をしていけますね」


 あたしは眠っているアルフェさまに笑みかけた。アルフェさまはぐっすり眠られていて起きない。握っている手を軽く振って、これからに思いを馳せる。

 ばれたりしなければ、きっと楽しい学園生活が待ってる! 大丈夫! あたしの未来は明るいはずだ!


 安心で、あたしも眠くなってきた。カーテンの向こうは白み始めている。少しだけ、あたしも眠ることにした。

 アルフェさまの手が温かい。その温かさが、生きてることを感じさせて嬉しかった。


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