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6.経緯は変わっても結果は変わらない

「よくあのお兄様に許してもらえたわねえ」

天気のよい昼下がりのカフェで、優しい友人にいたわられながら味わうスイーツは格別である。


「ううん、許してもらえてないの。今日もお夕食後に吊るし上げ……じゃない、お説教されそうだし」

私はチョコレートケーキをつつきながら言った。

あー、うまい。

都を離れたらこのケーキを食べられなくなるのが、唯一の心残りだ。


「でも、お兄様のお気持ちもわかるわ。フォール地方は遠いもの」

リリアはふう、とため息をついた。

美しい紫色の瞳に愁いの影が差し、美少女度がさらにアップしている。

サラリと揺れる銀髪も美しい。眼福です。


「大切に守ってきた妹が、そんな遠くに行ってしまうなんて。お兄様もさぞお寂しいことでしょう」

リリアの現実からかけ離れた同情に、私は乾いた笑いを浮かべた。

「守ってきたっていうか……、うん、まあでも、お兄様は頑張ってこられたと思うけど。学院を卒業するなり、爵位を継ぐ羽目になって苦労しただろうし」


私は昔を思い出した。

両親が亡くなった時、お兄様はまだ16歳だった。飛び級したので学院は卒業していたが、こちらの世界でも成人前だ。

私は12歳でちょうど学院に入ったばかり、ミルにいたっては6歳だ。


デズモンド家は由緒ある家柄だが、代々当主が偏屈というか変わり者が多く、権力者におもねるということをしなかった。

常に空気を読まない忠言をすることから、権力中枢からはつまはじきにされたが、一部のへそまがり王族からはたいそう重用されたらしい。


そうした事情から、デズモンド家は貴族間で常に中立を保ち、親交のある家は皆無に近かった。

そのため、両親が亡くなった時も、急遽当主となったラス兄様を助けてくれるような人物は、誰もいなかったのだ。


苦労しただろうな、というのは私でもわかる。

まあ、お兄様なら若さを侮られてマウントとられても、あっさり返り討ちにしただろうとは思うけど。


「……でも、これでいいのよ。いつまでも一緒にはいられないもの」

主に私の命の危機的な意味でも!


「フォール地方は遠いわ」

リリアが悲しそうにうなだれた。

「どうしても行ってしまうの? 私はてっきり、マリアも王妃様にお仕えするものとばかり思って、楽しみにしていたのに」

うん、まあ、そんな話もあった。


たぶん、お兄様が裏で手を回してくれていたんだろうな。

じゃないと、特に売りのない私が、王妃付きの侍女になんて推薦されるわけがない。


だからお兄様は、私がフォール地方へ行くと聞いて、あんなに驚いたのだ。


その時のことを思い出し、私はずーんと落ち込んだ。

あの時のラス兄様、なんか「裏切られた!」って顔してた。

そんなつもりじゃなかったんだけど、黙ってたのはやっぱりマズかったかな。


でもでも、小説の中ではラス兄様、私の首を刎ねたんだよ!?

それは小説の中の出来事であって、現実とは違う、なんて言い切れない。


だって実際、あり得ないと思っていた出来事が起きたのだ。


6年前、両親が亡くなった事件のことだ。

小説の中では、私の学院入学のお祝いのため、私のドレスを選びに街に下りた両親が、馬車に轢かれて亡くなったと書かれていた。


だから私は、ドレスはおろか、手袋から靴にいたるまで、一切両親にはねだらなかった。

私のために街へ行って、それで両親が死んでしまうのを阻止しようとしたのだ。


だから両親は、街には行かなかった。

その代わり、ある日、両親はそろって宮廷に謁見に上がった。そしてその帰りに、何者かに襲われ、命を落としたのだ。


仮にも貴族が、王城からの帰りに殺害されたのだ。単なる夜盗の仕業のはずはない。

王都内の襲撃ということもあり、何人もの目撃情報があったにも関わらず、結局事件は迷宮入りとなった。

実際に手を下した犯人が捕縛直後に自害したため、その裏で手を引いていた黒幕は、わからずじまいだったのだ。


原因を排除しても、結果は変わらない。


6年前、私はその事実を痛感したのだ。


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