表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/100

2.無理なものは無理なのです

お兄様がこんなに怒っているのは、私が淑女にあるまじき進路を希望しているからだ。

貴族の子女は、12歳になると皆すべからく国立魔術学院に入学し、6年後に卒業する。


卒業後、男子はそれぞれ能力や縁故、政治的配慮により、騎士や文官、領地経営などの道に進む。

女子はだいたい、二択だ。宮廷に出仕するか、嫁にいくか。


……でも、どっちも私には無理だ。


もともと引っ込み思案な性格だったところに、前世異世界の記憶が災いして、私はよく言えばおっとり、悪く言えばどんくさく育った。

権謀術数張り巡らされ、足の引っ張り合いが通常運転な宮廷で働くなんて、絶対に無理だ。

かと言って、貴族の嫁として夫の顔を立て、婚家および実家両方を引きたてるよう、社交術を駆使して貴族間をうまく立ち回るなんてことも不可能だ。


―――というようなことを、ラス兄様に訴えてみた。


すると、珍しくお兄様が言葉に詰まった。

「ね? そう思うでしょ? 私にできると思う?」

「それは……」


ラス兄様の困ったような表情に、私は胸を張った。

フッ。勝った!


「なにを偉そうな顔をしている」

お兄様に不機嫌そうに睨まれた。


「おまえが出仕できぬのも、他家に嫁げぬのも、まあ……仕方がないかもしれん。だが、だからと言ってなぜ家を出て、フォール地方のような田舎に行かねばならんのだ」

「いや、逆に聞きたいんですけど、出仕もせず嫁にもいかず、家を出ることも駄目なんて、それじゃ私にどうしろって言うんですか?」

「家にいればよい」

お兄様は、当たり前のような顔でしれっと言った。


「いやいや、無理でしょ」

「無理ではない」


真面目な顔で無理を言うお兄様に、私は珍しく正論を説いた。

「学院を卒業したのに、何もせず遊んで暮らせるほど、我が家は裕福ではございません」

デズモンド家は、由緒だけはあるが富とは縁のない家柄だ。


「……たしかに我が家は裕福ではないが、おまえ一人くらい」

「それに、そのような娘はデズモンド家の恥でございます」

「誰がそのようなことを」

「お兄様がおっしゃいました」

「………………」


ウソじゃないもんね。

ラス兄様、ほんとに言ったもんね。

「実家の金を湯水のごとく使い、遊んで暮らすことを良しとする令嬢など、その家の恥だ。そのような令嬢を妻と呼ぶ気はない」って。

侯爵家からきた縁談を、そう言ってぶった切ったのはお兄様ご本人!

ふはは、己の発言には責任を持ちましょうね、お兄様!


「……だが、なぜフォール地方なのだ」

お兄様が食い下がった。

「あのような、都から馬車で一週間もかかるような田舎」

「一応、我が家の領地ですよラス兄様」


デズモンド伯爵家の、広さだけはある(半分は森)が、人口が少ない(人より猪のほうが多い)領地、フォール地方。

冬は凍死者もでる寒冷地だが、その分、夏は過ごしやすい。

たま~に貴族の老夫婦が、避暑地として遊びに来ることもある観光地(と行政官は言い張っている)だ。


いろいろ注釈はつくが、私はフォール地方が好きだ。

子ども時代を過ごしたせいか、フォール地方に帰るとほっとするのだ。


「お兄様、私に王都は合いません」

「合う、合わぬの問題ではない」


お兄様がじろっと私を睨みつけた。

睨まれたのは私なのに、なぜか部屋の隅で家庭教師が「ひい」とか細い悲鳴を上げた。

気持ちはわかる。


私も、いつもならこの辺りで「申し訳ございませんすべて私が悪うございました!」と全面降伏するのだが、今回ばかりはそうはいかない。

私の今後の人生がかかっているのだ。


「お兄様が何とおっしゃろうと、私、卒業後はフォール地方へまいります!」


高らかに私が宣言すると、お兄様の周囲に暗黒のブリザードが吹き荒れ、家庭教師が哀れっぽい声を上げた。


お兄様、家庭教師を氷漬けにするのはおやめ下さい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ