12.週末のお誘い
「え、週末ですか?」
私は、山盛りの洗濯籠を持って隣をあるく騎士、ラッシュを見上げた。
ラッシュはよくこうして、非番の時にあらわれては、重い洗濯籠を持ったり薬剤の入った箱を運んでくれたりと、力仕事をさりげなくこなしてくれる。
顔だけでなく性格までイケメンの騎士様だ。
「ええ。マリーさんはフォール地方に来たばかりで、あまりこっちに詳しくないって聞いたから。よかったら街を案内しようかと思って」
照れくさそうに笑うラッシュに、私は嬉しくなって微笑み返した。
騎士道を、ほんとに実践してる騎士がいたのね!
私の知ってる唯一の騎士は、なんていうか騎士というより死神に近いタイプだったから、こんな教科書通りの騎士道の振る舞いには、感動してしまう。
「ぜひ、お願いしたいです! ……あ、でも」
私ははたと我に返った。
週末は、必ず王都の実家に戻るよう、お兄様にキツく言い含められている。
帰らなければ、めちゃくちゃ怒られるに違いない。
だが、と私は考えた。
ラス兄様が私を心配してくれているのはわかる。
わかるがしかし、フォール地方に来てもう二か月近く経っているのだ。
こちらの治安は王都よりもいいし、仕事もちゃんとこなしている。
心配をかけるようなことは、何もしていない。
それにもうすぐ、冬が来る。
フォール地方は北方の国境付近に位置しているため、冬は長く厳しいものになるだろう。
その前に色々と買い物をしておきたいのだが、毎週末王都に戻っていると、その暇もない。
ラス兄様には、もらった転移陣で手紙を出しておけば……、大丈夫ではないかもしれないけど、怒られるかもしれないけど、たぶん、まあ、最終的には許してもらえる……んじゃないかな? たぶん。
「ええっと、じゃあ、よければ週末、街を案内してください!」
私は不安を振り払い、ラッシュを見上げてお願いしたのだった。




