11.世界名作劇場な新生活
王都はまだ汗ばむような陽気の日もあるが、フォールはすでに秋の気候だ。
窓から入る秋らしい爽やかな風に、私は目を細めた。
「マリーさん、お昼休み中すみませんが、ちょっと診てもらえませんか」
控室の窓から、ひょいと顔をのぞかせたイケメンに、私はにっこり笑って言った。
「ええ、かまいませんよ。すぐ行きますね」
「マリア、大丈夫かね? わしも一緒に診るか?」
私以外の唯一の魔術師、サール様が皺に埋もれた目をショボショボさせながら申し出てくれたが、私は首を振った。
「いえ、平気ですよ。今日は特に戦闘もなかったようですし、たぶん森の魔獣狩で出た負傷者でしょう。それくらいなら、私一人で問題ありません」
フォール地方は、私が子どもの頃に過ごしたままの、超がつく田舎ではあったが、一つだけ変化があった。
若者が増えたのである!
森の魔獣が増えたことと、国境付近の小競り合いが活発化したことにより、軍が森にほど近い国境沿いに砦を新設し、騎士団を派遣してくれたのだ。
おかげで現在、フォール地方は、若く屈強な騎士様がそこら中を闊歩する、非常に活気あふれる状態にあった。
フォール地方で癒しの魔術師として働くといっても、せいぜいが子どもの腹下しとか、お年寄りの関節炎とかの対応だろうなーと思っていたのだが、こちらで働きはじめてから数週間、患者のほとんどは騎士だった。
砦には、宮廷から派遣された専門の魔術師がいるのだが、どうも騎士達と折り合いが悪いらしく、ちょっとした怪我などの場合、ほとんどの騎士はこの民間の治療院にやって来るのだ。
忙しくて大変といえば大変なのだが、とても充実した毎日だ。
それに、
「マリーさん、こっちこっち」
にこにこと手を振る、騎士らしく逞しい体をしたイケメンに、私も思わず笑顔になった。
彼に会うたび、知らず知らずに笑みがこぼれる。
私がここで働きはじめてから、何かと親切にしてくれるこのイケメン騎士、ラッシュに出会った時は、雷に打たれたような衝撃を受けた。
柔らかそうな茶色の髪に、優しそうな緑の瞳をしたこのイケメン、なんと本名が『パトラッシュ』と言うのである!
もう一度言う、パトラッシュ!という名前なんである!
いやー……、最初聞いた時、思わず二度見してしまいましたよ。
パトラッシュって、あんた……。
そういえばその茶色の髪、ちょっとあの毛並みを思い起こさせるような……。
腹筋を崩壊させずに「パトラッシュさん」と呼ぶには非常に苦労したのだが、彼は大変気さくで「ラッシュでいいよ」と言ってくれた。優しいイケメンである。
さすがパトラッシュ。犬でも人間でも優しいのね、プププ。
そして彼を見るたび、思い出す人物がいる。
ラッシュとは対極の性格をしている、あの死神と悪魔が合体したような彼。
パトラッシュとラスカル……。
一度、名乗り合ってほしいような、腹筋を守るためにもそうならないでほしいような、複雑な気分だ。




