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屑鉄の騎士と赤錆姫  作者: パール
忍者とお嬢様とデスバトルマッチとその周り
9/9

騎士∽悪魔

すみません……。ここしばらくテスト続きで更新ができそうにありません。今回も半ば半分なので後ほど付け足します。

不定期更新にしばらく切り替わります。

 「しかも、レルミントンの上下二連元折式……。悪くない。近くに弾も落ちてる、えっと。……スラッグ弾!?」


 「え、何かすごいんですか、先輩」


 「あぁ、普通の散弾より飛距離が出る。銃身に負担がかかるし、この銃はライフリングもないからあまり飛ばないかもしれないけど、奴らは僕らが反撃してこないのをいいことに距離を詰めてるから少し近寄れれば当てられる」


 「……先輩のポンコツエイムじゃ不安しかないんですが」


 そうか、里恵は僕がそこそこの遠距離からショットガンを使っているところを見たことがないんだった。……それに、僕にはまだ言えないこともある。

 僕は、本当は……。


 「大丈夫。これなら、使える」


 だけど今言えるのはこれだけだ。里恵には説明不足で申し訳ないと思うけど、もう少し、もう少しだけ待って欲しい。


 「そんな真剣な顔で言わなくても、先輩のそれの腕前はシングルエントリーで何回も見ています。だから、私も納得しています。ただちょっと言って見たかっただけです」


 「ありがとう」


 「さて、メインウェポンも見つかったことですし。どうしますか先輩。まだ奴らに動きは見えませんが、こちらから攻めない限り状況の打破は難しいでしょう。次のセーフティゾーンの縮小位置の発表まで残り五分です。あまりありません。もし移動が必要な場合その前に片づけないときっと間に合いません」


 ポケットに突っ込んであったデバイスを取り出してみる。画面の右上には赤文字で「警告」の文字が点滅していた。里恵のいう通り、あまり時間が残されていない。


 「こちらは坂の下側、かつ小屋という分かりやすいとこに隠れている。返ってこちらは奴らの場所も分からない。圧倒的に不利だろう。だけど、里恵は確か手りゅう弾を持っていたよね」


 「え?あ、これですか?」


 里恵はベルトに取り付けてあった迷彩色の手りゅう弾を片手でひょいと持ち上げて見せる。


 「ですが、これを使ったとしても相手のいるところまで投げられませんし、それに敵の場所も分からないのに何に使うんですか?」


 「この小屋を爆破しよう」


 「……はい?」


 里恵は何を言ってるんだと言わんばかりの細い目でこちらを見つめてくる。……確かに、いきなり小屋を爆破しようなんて頭がおかしいと思うかもしれないけど。


 「この小屋、壁が脆いんだ。銃弾を防ぐには充分かもしれないけど、この手りゅう弾の威力があれば簡単に崩れる。そうして立ち上った煙に紛れながら森へ再び駆け込もう。その間に敵の位置を把握するんだ。敵もまさか小屋を爆破するなんて思わないだろうから、きっと何発かは焦って撃ってくれるかもしれない。その発砲時の閃光を見るんだ」


 「そんな都合の良いようにいきますかね……。そもそも、この小屋が今は壁となって私たちを守っているんです。爆破してしまったらもう隠れるところがありませんよ」


 「敵にやられる前に森の木の陰に隠れるんだ。そもそもこんな初期に相手がアサルトライフルを持っているのが想定外なんだよ。普通の方法じゃ敵わない。あと、もし、森へ逃げ込む前に敵が見えたら教えてくれ。僕が突撃して仕留める。敵の混乱をつけるその時がチャンスだ。森に逃げ込んだとしても持久戦になったら消耗戦になるだけだし、できるだけ早く決着をつける。消耗戦ほど不毛な戦いもないからね」


 「え、ちょ、それって先輩が危険じゃないですか。相手は長距離の射撃もできるんですよ?自分から近づいてくる敵なんて格好の的じゃないですか」


 「きっと相手は僕らが出てくる一瞬の隙をついて狙うために伏せた状態で待ち構えているはずだ。それに伏せているほうが僕らが見分けづらいから、立ったまま待っていることのほうが珍しいだろう。アサルトライフルの欠点は超近距離では狙いがつけにくいこと。それと伏せている姿勢からの立ち直りが遅いこと。……もちろん、ショットガンでもそうだけど、僕は色々な角度で射撃できるように練習してある。どれだけ距離を詰められても相手を打ち抜ける。だから相手が立ち治る前にとどめを刺す」


 「……確かに、今のところそれよりいい方法は思い浮かびません。それでいきましょう!」


 里恵も最初こそはすこし渋った顔をしていたものの、僕についてきてくれるらしい。右手にグーを作り前に突き出した。

 僕もそれに合わせるようにこぶしを軽くぶつける。お互い、うなずきあった後は早かった。


 「それじゃ里恵、小屋の爆破に巻き込まれないように一度外に出よう。奴らの大体の方向は分かるだろう?その射線を隠すように小屋の後ろ側に回ろう……。あ、その前に、このベクタールは里恵が持っていたほうがいい。僕には”これ”があるから」


 「らじゃです。もし先輩に当たらない範囲で援護できると思ったら遠慮なく撃ちます」


 「そうしてくれるとありがたいね」


 「……それじゃあいくよ。スリー、トゥー、ワン……ゴー!ゴー!」


 シュピィイン!

 

 早速一撃目がこちらに向かって飛んでくる。だが、奴らは僕らが森に走ると考えていたらしく、読みが外れたその弾丸は後方2m程の地面にめり込んだ。

 

 「せ、先輩。なんとか大丈夫でしたね。それじゃあ、小屋を一思いにどっかーんとやりますか」


 「煙は肺に悪いから、何でもいいけど布で鼻と口を覆っておいて。あと、爆破前は耳をふさいで口を開けること。衝撃波で鼓膜が破れるかもしれないから」


 「わかってますよ。先輩は心配性ですね」


 そう言いながら里恵は胸元からガーゼを取り出し手首に巻いてあったパラコードで口元に縛り付けた。

 ……上着でも使うのかと思ったのだが、ずいぶんと大胆なことをするなぁ。それにこんな短時間で器用なことをする。

 僕は先ほどの硝煙弾でちぎれかけている袖を引きちぎり、それを口に抑えた。できれば里恵のようにマスク型にしたほうが良いのだろうが準備が面倒だったのでこれで妥協する。


 「それじゃあ、いくよ」


 「ふぁい」


 マスクで声がくぐもっているが、返事は貰ったため、里恵から受け取った手りゅう弾のピンを抜く。ピンを投げ捨て、手元に残った本体を小屋の小窓めがけて投げつける。


 「おぉ」


 僕も本来はノーコンではない。手りゅう弾は小窓に吸い込まれるように入ると、カランコロンと音を立てた。

 そして、数秒後。


 ドガァァアアアアアアンン!!!!!!!!


 予想以上の爆音と閃光が辺りを覆いつくす。それと同時に真っ白な煙が立ち上ると、僕らの目を痛めつけた。だが、今がチャンスだ。里恵に向かって軽くアイサインを送ると、同時に森に向かって走り抜けた。


 パァァン!!


 「!!」


 相手はこちらの計画に乗ってくれたようだ。煙の中からわずかながらにちらちらと突発的な光が見える。

 ……これならいける。里恵の背中を押したあと、僕は一人森の中心へ向かう道からややそれて全速力で駆ける。


 手元の相棒へ弾を込めながら光に向かって滑らかな曲線を描くように突き進む。


 ジャキ。


 相棒の首を折戻すと同時、視界が一気に開けた。そして、


 ヒュパァァン!!!


 今度は相手の位置がはっきりと見えた。もう一人の居場所もなんとなくはわかる。その射線に入らないように蛇行を繰り返しながら一気に距離を詰める。


 「ひ……」


 どこからか息をひきつる音が聞こえる。声を上げたのは今まさに僕が狙っている敵のようだ。もう一人も、僕を撃とうとすると仲間に当たるからか、射撃が止まった。

 相手の距離を詰めながら相手の反対側へ回り込むように立体的に動く。とうとう僕と敵を挟んでいた最後の茂みを乗り越えると、予想通り伏せていた敵の姿が見えた。どうやら小屋周りを狙っていたらしい彼の射角からずれたのを確認すると、近くにあった木を蹴り上げ、バク転をする。

 姿勢を立て直そうと立ち上がりかけている敵の頭が空中からは良く見えた。


 「く、くるなぁあ!!!」


 敵は中腰のままこちらに銃口を向けるが、空中を飛んでいる僕に狙いは定まらず、遥か彼方へ弾丸が飛び去った。

 僕は空中でショットガンを構えると、一寸の違いなく、


 ズドォォォォン!!!!!!


 手の脳天に向かって叩き込んだ。


 血の噴水が立ち上ったのを確認すると、もう一人の居場所を探る、逆さになった世界では何もかもが丸見えだった。もう一人は既に僕に狙いを定めていたようで、かなりすれすれに弾丸が飛んできた。だが、まさか空中で発砲するとは思っていなかったらしく、飛んだ直後の軌道から逸れた僕には当たることは無かった。


 そのずれた軌道を利用して体をねじり、もう一人の方向に向かって狙いを定める。上下二連の銃はこのときすぐに二射目が撃てるのが大きなメリットだ。特に、ダブルエントリーでは敵は二人だけなので二発もあれば十分なのである。そのため二連のほうがポンプ式のものより扱いやすかったりする。


 ”二発とも外さなければいいだけなのだ”


 ズドォォォォンンン!!!!


 レルミントンが吠えるとほぼ同時、敵の頭は痕形なく吹き飛んだ。12ゲージの弾をまともに食らえば誰でもそうなるだろう。


 だが、二発目以降の姿勢制御については考えてはいなかったため、僕は体の左側を強打しながら地面へ戻る。


 「せ、先輩!?ば、え?」


 「いてて……、あはは、少しミスっちゃった」


 遠くのほうから里恵が駆けてくる。どうやら僕が初撃を放ったあたりで異変に気づいたらしく、すぐに僕の近くへやってきた。

 里恵は目を点にしながら唸っている。


 「先輩、どこがミスですか。完ぺきな強襲だったじゃないですか。あんな芸当、どれだけ練習しようともできる芸当ではありませんよ。いつも画面越しで見てるとはいえ、今回のは特にすごかったですよ……。一体、どうやってこんなことできるんですか……」


 「僕、他の銃を持つとだめなんだけど、これなら、ね?」


 「とは言っても、限度がありますよ。さっきの手りゅう弾の投げ方と言い、先輩、もしかして、元々狙いを定める能力って高かったりします?」


 「うーん、どうだろうね」


 「……いつか、教えてくださいよ」


 「必ず話さなきゃいけない日はくるよ」


 僕はレルミントンに付いた泥を軽く手で払う。そして薬室からバレル内に泥が入っていないことを確認すると、次弾を詰めて折り戻した。残弾は8発である。


 「……あ、セーフティゾーンの縮小を確認しないと」


 そういってデバイスを取り出した里恵に習い、僕も画面を確認する。


 「これは、少し厄介だね。一度街を通らないとゾーン内に行けない。しかも、ちょうど街を通るあたりで暗くなりそうだ。食糧と水も本格的に探さないと」


 「うーん。どうしますか?」


 「とりあえず、さっきの道路は街につながっている。付近に乗り物があればすぐに行けるんだけど」


 「でも、この辺にはなにもありませんよね」


 「しょうがない。森を通って街に行こう」


 「そうですね。それしかないですね。……街ですか。私のトラップが、役に立ちますね。今までほとんど先輩任せでしたから、今度こそ活躍しますよ!」


 「活躍もいいけど、何より死んじゃわないようにね。後でルイーズ様に心配されまくるよ?」



 「むむ、確かに、ルイーズ様にご心配をかけるわけにはいきませんからね。落ち着いて、ゆっくり、慎重にいきましょう」


 「この辺に下りたのは二組だけだ。多分しばらくは平和に移動できるよ」


 「あ、そうだ。里恵、彼らが持っていたアサルトライフル持っていくかい?」


 「いえ、大丈夫です。あれは反動が重いので、こっちのサブマシンガンのほうがまだまともに扱えますし。……ただ、ナイフを持っていますね。釣り用ですか、切れ味がいいので使いやすいです。これは貰っていきます。あとこっちの人は救急キットを持っていますね。私のファーストエイドキットよりは良いものが入っていそうです。……先輩、新しいのも見つかったことですし、火傷の治療しましょう?」


 「いや、もう時間もだいぶたっているし、いいかな」


 「そうやって放置するのが一番いけないんですよ。軟膏くらい塗りましょう?」


 「あ、ありがと?」


 里恵は僕の是非も問わずにべたべたと軟膏を塗り始めた。

 お互いコンクリートの塵や泥、血を浴びているためじゃりじゃりと変な音も聞こえるが、気持ち楽になったような気もする。


 「さて、それじゃ、行きましょうか」


 「そうだね」


 赤く染まりつつある森をゆっくりと抜けていく。徐々に周りの空気がひんやりと冷えてくるころ、街が見えてきた。道中、里恵が大きなクモを見つけて僕に投げつけてきたこと以外は何もなく、つかの間の安息だった。


 「思ったよりも大きいですね。この町」


 「元々この島はリゾートだったんだ。観光業を中心に街が発展していたから、上級民の中でもさらに富裕層向けに街ができている。豪華なのはそういうのも関係しているからだろうね」


 「へぇ。初めて聞きました」


 「里恵もこのフィールドで何回かやってるじゃないか。そんな初心者みたいな反応してどうしたの?」


 「いや、私、こっちのほうはあまり来ないので、知りませんでした。私南側が主戦場なんですよ」


 「なるほどね」


 「さて、先輩。どこから街に侵入しますか?ここから先は背の高い木もないので、街にスナイパーが居たら一発でアウトですよ」


 「うーん。もう少ししたら完全に暗くなると思うし、それまで待ってから入ろうか」


 「そうしましょう。お腹もすきましたけど、安全が一番です。……ですが、暗い中で見えないのは私たちも同じじゃないんですか?」


 「こっちからは街の明かりが見えるから迷うことは無いよ。向こうから森がどうなってるかは分からないだろうけど」


 「言われてみれば確かにそうですね」


 暗くなるまでの数時間。街から聞こえてくる銃声から、おおよそ何人程度集まっているかを考えてみる。

 ここまで距離があると、銃の種類までは分からないけど、少なくとも三組以上は居そうであった。何度か乱戦になっていたため、もしかしたらもう少し少ないかもしれないけど、やや多めに見積もっておいたほうが良いだろう。


 ぐぎゅう~


 そんなことを考えていると、隣から気の抜けた音が聞こえてきた。


 「す、すみません……!わ、悪気はないんです!なんか恥ずかしいです、聞かなかったことにしてください!」


 「お、おう?」


 ……辺りも大分暗くなってきた。確かに、里恵の言う通り完全に暗くなると足元が見えずに怪我をするかもしれない。そろそろ動き出しても良い頃合いだ。


 「……里恵、それじゃ、そろそろ行こうか」


 「ふぇ、私のせいですか?い、いえ。私はまだまだ全然我慢できるので、その、なんというか。まだいいです」


 「いや、街が見えても道が見えないと枝とか予期しない段差とかで怪我するかもしれないし、真っ暗になる前に移動したほうが良いかもしれないと思っただけだよ」


 「それなら、まあ、いいです」


 そう思ったきっかけは里恵のあれだけどね。


 僕と里恵はフェンスの切れ目を縫うようにビル群に侵入する。

 僕らはまだ、ここに待ち受ける試練を知らなかった。僕にとっても、里恵にとっても大きな壁が存在したことを。

 そして、白髪の少女と出会うことになろうことを。



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