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信心深い物理学者――20世紀 アメリカ
人は素晴らしい発明をした。
技法を尽くして選別された言の葉――詩。
耳をくすぐる調和した旋律――音楽。
カンバスで踊る色とりどりの絵の具――絵画。
それらはときに情熱的に、ときに繊細に、私たちの心を揺さぶる。
しかし私は知っている。
この世界にはもっと精密で精緻で凄烈なものが存在する。
それこそが、世界のいたるところに刻まれた膨大な数式――科学である。
素粒子、原子核、原子、分子、人間、地球、太陽系、銀河、銀河団、宇宙の大構造、宇宙、多次元宇宙、無。
私は、科学の最先端のその先に現出する、人知を超えた理に触れたのだ。
私は、神の御業という他に、それを表現する術を持たなかった。