第二十話, 「昨日と違ってガチの不法侵入じゃん!ってかうちの防犯レベル、ほんとガバガバだな?!」
宣言通り一日二話投稿です!
「それじゃ……お邪魔しました〜……」
何かに遠慮するような声を残して楓はベランダを通って自分の部屋へと戻って行った。
盛大なビンタの後、羞恥から戻ってきた楓ちゃんの弁明により、夜に耳かきをしてもらってそのまま寝落ちしてしまっただけ、という話をちゃんとしてもらえた。
それ以上のことは、全くもって、していなかったのだと。
楓の口から聞かされたこともあり、菜々も一先ず、おれと楓との間に間違いは起こらなかったと理解はしたようで。
けれども納得した様子では断じてないが……
部屋にはいまだ主導権を握られたままのおれと、主導権を握っている菜々の二人だけが残されている。
「有罪」
「もう勘弁してください……残りHP0なんです……」
「まだマイナスになってないんだったらもうちょい絞る?」
「いや鬼か!」
ツーンとした態度を一向に崩そうとしない辺り、今回の事件……事故はそこそこ根に持たれそうだ。
そりゃそうか。
仮にも告白した相手が、楓とはいえ他の女の子と寝てたら普通そんな反応になるよな。
つまり菜々はそれくらいおれのことを思ってくれてるわけで………って何だこの恥ずかしい思考は!
流石に自意識過剰すぎるわ!引くわ!
そうだ平常心……平常心……平常心……
いつも通りに、いつも通りに。
「あー……そういえばお前、どうやっておれの部屋に入ってきたんだ?」
「話題を変えるつもり?」
「いやっ……そんなつもりはないです……はい。単純に気になって……」
「…………………外の塀を上ってベランダから。引き戸の鍵は開いてたし」
「昨日と違ってガチの不法侵入じゃん!ってかうちの防犯レベル、ほんとガバガバだな?!」
「もう少し見直した方がいいんじゃない?」
「だからお前がそれを言うなって……ご近所に見つかったら通報される自覚ある?」
「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」
「てかそんなことせずに、普通に玄関から呼べばいいだろ」
「何度も呼び鈴押したんだけどねぇ………誰かさんがデレデレ鼻の下伸ばして熟睡しきってたからねぇ」
「ほんっとに、すみませんでした!!!!!」
あっさりと自ら墓穴を掘ってしまってはもうどうしようもない。
こういう時は全力の謝罪に限る。
地雷ってどこに潜んでるか分からないからほんと怖いな……
「奏人」
「………何?」
「ちょっとお腹空いてきた」
気まずい空気のまま、黙々と時間が過ぎていくのを感じていたら不意に菜々が口を開いてくれた。
部屋の時計に目をやると12時を回ろうとしていた。
「もうじき昼だな」
「……マ○ク行こ。ハンバーガー食べたい」
高校以降、何かしら互いに気まずくなった時は必ずいつも通り振る舞ってくれるあたり、おれには勿体無いくらいできた幼馴染だなと感心する半分、その気まずさの奥に踏み込めない寂しさが半分あって。
「そうだな。たまにはジャンクも…」
「奏人の奢りで」
目の前にいるこいつに、おれのそんな心の内を余さず伝えたくなるけれども、伝えられない葛藤があって。
だからおれもいつもの調子で返すしかなくなる。
「…ハンバーガーは?」
「新作二個」
「ポテト」
「L」
「ナゲット」
「食べたい」
「ジュース」
「コーラL一択で」
「………………サラダもつけとこうか」
ほんと、何でおれが菜々の健康管理までしてるんだろうな。
………ここでいつもみたく『太るぞ〜』、なんて言葉を口にしたら地獄の業火よりもひどい責め苦に満ちた結末を迎えそうなのできちんと口にチャック。
「……なんか余計なこと考えてる?」
「いえ何も」
「そ」
地獄の業火よりもひどい責め苦が待っているのだ。
「じゃあとりあえず服着替えるから下で待っててくれ」
「はいはい」
菜々がおれの部屋を出て行った(もちろんベランダからではなく部屋の扉から)のを確認し、春服に身を包む。
今日は4月10日。
スマホのカレンダーに目を落とすと、今日の一つ隣にイベントがあることを示す印が簡素につけられていた。
4月11日。
そこをタップすると二つのイベントが表示されている。
日の光が暖かいといえど、まだ薄着でいるには心許ない時期だ。
カーディガンを上に一枚羽織り、昨日ショッピングセンターで買って机の引き出しに入れておいた、プレゼント用にラッピングされたキーホルダーをおれはそっとポケットに忍ばせる。
「今日はいつもの数倍優しくするかな…」
手始めに、たとえ今日菜々が何をしてきたとしてもオタク的思考によるツッコミは封印しよう。そうしよう。
今話からの悶えは前回と別口を切り開いて行きたい…!
二人の恋路がどう移ろっていくのか期待していて欲しいです!




