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早すぎる邂逅

豪華絢爛、そんな言葉が一番似合うであろうお茶会会場。

本来ならば、キャッキャウフフと紅茶だの茶菓子だのが美味しい、的な話題が展開されるべきであろう場所で発されているのは、堅苦しさマックスの単語ばかりだった。

「で、レネ。ひとつ真っ先に聞いときたいんだけどぉ」

「何でしょうノン」

「ネクロに共通した特徴とか、あるぅ?」

 レネが停止した。かなり考え込んでいる。これは共通点を思い出そうとしている、というよりは『なぜそんな質問をされたのか』を考えているのだろう。

最悪怒られるのを覚悟しつつ、私は補足という名の横槍をぶん投げる。

「犬とか猫とかのネクロなら術者と見分けがつくと思うけど、人間のネクロなら、術者と見分けがつかない可能性があるから、ダトオモイマスガ……」

 最後が片言になったのはレネに凄い眼力で睨まれたからだ。

なるほど、まだ公私混同が抜けきってはいないらしい。ノンとの会話を邪魔されたくなかったのね。

すかさずノンが追加で情報を発し、レネの注意を自分に引き付ける。

さすがに旧知の仲っぽいだけはあり、レネの扱いに慣れている。

「操術の時もそうだけど~、操作系と戦うときは術師をつぶすのが一般的でしょ~?ネクロと術者が見分けられなくて泥沼化とかを避けたいんだよねぇ」

 特にネクロマンサーが相手なら、多分術式対象のネクロを破壊しても無力化にはならないだろう。再利用される未来しか見えない。

「基本簡単ですわ。ネクロを生前の姿にどれだけ戻せるかは術者の腕前次第。全体を戻せる事はほとんどなく、腕が欠けていたり骨だけだったりしますから」

「……待ってレネ、多分相手ソレには該当しないと思うよぉ」

 レネの開示した情報に対し、ノンが即座にそれを否定した。

奇遇だねノン、私もそう思ったよ。

だってあの墓場での光景……相当暗かったが、自分の眼と記憶を信じるなら、相手のネクロは完全に生前の姿そのままだ。

「冗談ですわよね?」

「ところがどっこいなんだよねぇ」

 ああ、何だろう私も頭痛がしてきた。この事象をさっきの法則性にあてはめたら、相手は相当な手練れということになるじゃないか。

「だーかーらー、それ以外で見分け方頂戴?」

 レネが再び沈黙する。今度は思案でもなんでもなく、純粋な絶句という形で。

「方法、自体、は…あり、ます、けれど……ありえますの?」

 驚きのあまり途切れ途切れになりつつあった言葉をどうにか繋げて、一応の回答と疑問を同時に提示する。

「ありえるよぉ。見たもん」

 そしてノンは心を整理させることもなく、容赦無い事実の突き付け方をした。

レネ、再びの絶句。クールビューティーがいつもとは違う台無し状態になっている。

でも美人って、白目剥いてもまだ美人なんだな。勉強になった。

「…ありますわ。まず声が出ない。そして魔法を使いませんわ」

「それはどうしてです?」

「単純な話です。それに割けるほどの魔力がない。声を出すためには横隔膜や舌、唇に表情筋…本来動かす必要のない色々な筋肉を動かす必要があるのですから。魔法も同じ。わざわざネクロに魔力を注いで詠唱や発動まで行わせるくらいなら、自分が発動した方が10倍以上多く撃てますもの」

 その情報を簡略化しつつ頭に叩き込む。

怖いのは両者が魔法を使わず、沈黙を決め込んだ場合だろう。

外見で判断不可能、さらに今提示された方法すら対策されてしまっては……

「こーらっ☆」

「いひゃい」

 ノンによって思いっきり引っ張られた頬と、それによって中断された思考。

普通に痛い。うにょうにょ動かさないでほしい、仮面の隙間から肉を(すく)うとは器用なことを。

「あんまり難しく考えないの~。最悪全部潰せばいいんだから」

 いや怖いわ。

可愛い顔で言うべきじゃないでしょうその言葉。

それにノンの『潰す』は、比喩でも何でもなく潰すからタチが悪い。

「……とりあえず、色々買い揃えるか」

 レネから欲しい情報は、多分私もノンも共通だ。

情報のやり取りはノンに任せて、お互い必要になるであろう物資を確保しに行く。

お金に関しては別に困ってない。礼服を売ったお金も半分以上残っているし、『マニアック・ラヴァード』は……うん、狩った時の苦労…主に精神的な苦労に見合う高額だった。

「剣を研ぎ直して、防具もちょっと直さないとまずいか……回復薬は」

 指折り確認していた時、自分の指にはまった指輪が目に入る。

回復魔法(ヒール)』が使用可能になる指輪、しかも回数制限なし。

多分売れば相当な値段になるだろうそれを、ポンっと渡してきたノンの金銭感覚は大丈夫なのだろうかと少し心配になる。

多分この指輪は今回活躍しないだろうな、と考えていた私の思考を、とある音が搔っ攫って言った。

「こんにちは、ホーネティア嬢」

 音、正確には女性の声。明らかに私に向けて発された言葉。

挨拶自体は別にいい、だが今の声は、私のことを何と称した。

『ホーネティア嬢』、ヒーラー名家の名字で私を呼んだ。

反射で振り向いた私にの目に飛び込んできたのは、フードで陰っていても分かるほどにこやかな、美しい女性の微笑。

「お買い物ですか?ミエナ・ホーネティア」

 微笑みを顔に浮かべたまま、もう一度私を呼ぶ。しかも今度はフルネームだ。こいつ、意図的に私の注意を引きに来ている。

「……私はミーナだ。ミエナでもなければ、ホーネティアとのかかわりもない」

「ではそういう事にしておきましょうか」

 くすくすと楽しそうに笑うその女性に、沸々と不信感だけが募っていく。

「私に何か御用ですか?」

 そう述べた私に対し、目の前の女性は目を細めたまま楽しげに続けた。

「私に御用があるのはそちらでしょう?」

「……どういう意味です?」

聞き返した私に対し、女性は歯を見せて笑った。

「私ですよ、あなたが探しているネクロディア家の人間は」

同時に、私の視界は暗転した。

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