操術師レネ(2)
短め!前置きみたいな感じ!ここから戦闘シーン頑張っていきます!
絵に描いたような豪邸、その一室で、一応人間3人による珍妙な光景が展開されていた。
「ノン!いらっしゃいませ♡」
「ああ、うん、お邪魔するよぉ〜」
目の前でノンに対して熱烈な歓迎、こと抱擁をしている女性を2メートルほど離れて眺める。
側から見れば、涎垂らしながら超絶美人なロリっ子ロリータに抱きつき奇声をあげながら頬擦りするクールビューティ(見る影なし)女性、それを虚無顔で終わるのを待っている上記したロリータ、そしてそれを2メートル離れて見ている仮面変質者である。
まごう事なき珍妙な光景だろう。
そして誰かがこの光景を見たら、ノンが被害者、残り2人は加害者or不審者に見えるだろう。誠に心外だが弁明できる気がしない。
もう少し距離を詰めてもいいのでは、と思うかもしれないが、これ以上近づくと女性が此方に対して殺気を放ち始めるので、この距離を保っている。
「ノン♡お会いしたかったですわ♡」
「うんそっか、じゃあレネ、これ返すねぇ」
何が『うんそっか』なのか。
ノンがそう言いつつレネに渡した極小の物体が何なのか、視力が良すぎるが故に見えてしまった。
ついでに、幼少期蓄えていた知識故にそれが何かも理解できてしまった。
「…発信機、盗聴器、盗撮器具」
どれもオーパーツの類である。
確か特定の金属とか何とかを色々組み合わせまくって作るとか。
因みに作り方は今現在も完全には解明されていない。
故に、よくある『拡声器』とか『放送機器』とかは、魔法を複数織り込むことで類似した効果を出しているものが多いのだが、多分…
「これ全部マジモンでしょ?壊そうと思ったけど流石に踏みとどまったよぉ」
「お気遣いありがとうございます♡でもこれは所有しているものの一部ですから、壊しても良かったのですよ?」
ウッソだろお前。オーパーツレベルのあれやそれやをどんだけ持ってるんだ。
「弁償請求されるのヤだからねぇ。国宝級じゃん、一応さぁ?」
「大丈夫ですわよ。ノンには請求しませんから」
そして此方に注がれる視線。
アッ、コレ、ノンが壊してたら私に請求来てたやつですね、危ないなぁ!?
「ところでなんだけどぉ、お茶会はしないのぉ?」
全力で軌道修正したノンに、内心でサムズアップする。
そう、本来そのために来たのだ。私が口を開くわけにもいかなかったので、ありがたい。
「ええ、ええ!お茶会ですわね!準備は終わってますわ!どうぞ此方へ!」
レネはパッと表情を輝かせて、るんたったと聞こえてきそうな軽い足取りでノンを中庭に導いていく。
一応2メートルを保ったまま後ろをついていくと、中庭にめちゃくちゃ綺麗にセットアップされたお茶会会場があった。
薔薇などの生垣で囲まれた小さな広場にテーブルと椅子が置かれており、ティーポットや3段のティースタンドその他が完備されている。
悔しいことに、趣味が良い。
薔薇を筆頭に、花や木も丁寧に手入れしてあり隙がない。
執事などはおらず、ノンの椅子は自ら引いて見事にエスコートして見せた。
そのままの流れで、顔面偏差値が尋常ではないほど高いメンツでのお茶会が始まった。
しかし異議あり。なぜ私もお茶会の席に座っているのか。
「仕事の話もございますから。流石にそこまで私情は挟みませんわ」
思考を先読みされている。ついでにしっかり大人対応された。
「で、レネ。この屋敷に呼んだってことは、今私たちが追ってるのはかなりの異端と見て良いわけね?」
「ええ。さすが理解が早くて助かりますわ」
仕草はあくまでも優雅に、しかし口調は厳しい状態で二人の会話が進んでいく。
多分この会話に私が混ざる必要がある時は呼ばれるだろう。せめて粗相のないように、昔取った杵柄を総動員して紅茶と菓子をいただく。ただし、仮面の中身は見られないように。
「…あら、所作は美しいのですね」
心なしか私に対する主催者の態度が軟化した気がする。
正直ありがたい。ずっと私に敵意むき出しでは進む話も進まない。
「本題に移りましょう。二人が相手どろうとしているのは死体操術師…私たちがネクロマンサーと呼んでいる職業です」
す、とノンの目が細められる。剣呑な雰囲気を纏い始めた相方の圧に僅かに気圧されつつ、それを表には出さずに紅茶を口に含んだ。
「ネクロマンサー……ね。それはレネとはどう違うの?」
その言葉に、レネは少しだけ言葉を詰まらせた。レネの職業は操術師。死体操術師とかなり近い職業だろう、ノンの疑問も分かるので、私も態度で回答を促した。
「端的に言えば、操れるものの数ですわね」
角砂糖をティーカップに落としながら、レネは言葉を詰まらせた割にあっさりと答えを開示して見せる。
「基本的に、私たち操術師が操れるのは一つの個体に対して一つの器官だけですわ。だから生き物を操るときには脳をジャックして体すべてを操ります」
ちょっと待てお嬢さん、貴女今あっさり怖いこと言わなかった?
だがまあ、これで理解した。以前ノンが魅了魔法で操作魔法を破ったのは、脳の主導権を強奪したからか。
私がそう思っている間にも、レネは言葉を紡いでいく。今度はかなり長く。
「死体操術師が操るのはその名の通り死体のみ。ですが死体の脳は死んですぐ機能停止していますから、操れませんの。だから、必要な筋肉の一筋一筋を操ることになりますわ。それゆえに、私たちとネクロマンサーは区別されるのです。……戦闘に必要な筋肉の総数なんて、私たち操術師のキャパシティをはるかに超えていますもの」
息継ぎなしでレネが喋り切った言葉の意味を一瞬理解できず、私は黙ったまま動かない。
どうやらそれはノンも同じらしく、気味の悪い沈黙が場に流れた。
私もノンも、多少差はあれど魔法を使用する。ゆえに、今レネが言ったことの異常さを理解してしまっている。
「……常人に、できることじゃないと思うんだけどぉ」
「ええ。才能があるのは大前提。そこからどこまで、正気のままおかしくなれるか…そんな次元の話ですわ。故に、死体操作魔法は名家ネクロディア家秘伝の魔法。でもそれ以上の問題があります」
最後の一言に対し、だよね、と呟いてノンは再び聞きの体制に入った。
私も薄々理解し始めていた。矢文で帰ってきたあの手紙に、今話された内容は当然だが含まれていない。
あの盗聴器その他も、わざわざここに呼び出したことも、私たち以外に知られたくない情報があったのであれば納得がいく。
純粋にノンに会いたいだけかと思ったのだが、目の前の女性の目は仕事人のそれだった。
重苦しい、数秒の沈黙。
その沈黙を、レネは予想外の一言で破った。
「人間がネクロマンスされたという前例は、ありませんの」
「……は?」
私とノンの時間が、今度は完全に停止する。今、彼女は何と言った。
『人間がネクロマンスされたことはない』
ならば、私たちが墓場で見たものは何なのか。
「だからここにお呼びしたのですわ。もし本当に、人間がネクロマンスされていたとしたら…この事を流出させるわけにはいきません」
人間が、死体を操っているだけとはいえ蘇る。
そのことの重大さを、少なからず私は理解している。
ヒーラー時代、『死にかけの人間を助けた』時。
もしくは、『助けられなかった時』。
その時の人間の狂気とも言える異常さを、私はよく知っている。
「急に事の重大さが変わったんだけどぉ…レネ?」
ノンも考えたことは同じらしく、笑顔という形こそ保っているが顔が引きつっている。
「改めて、私からもその対象の撃破、もしくは捕縛を依頼しますわ。最大限の情報提供と協力を致しましょう」
目の前であっさりとその『重大なこと』をこちらに依頼して見せた女性を見て、仮面の下で表情筋が引きつる音がする。
「お前なあ……」
ノンも完全に地声になってしまっている。だが今は何も言うまい、なんせ私もほぼほぼ同じ状態に陥っている。
「操術師を束ねる者として、これに対処しないわけにはいきません」
「だが操術師の自分たちでは相性が悪すぎてどうしようもない、と?」
横槍を刺した私に注意するでもなく、レネは素直に頷いた。
「とんでもないことを言っている自覚はありますわ。だから報奨金は言い値でつけさせていただきます」
本日何回目かの『とんでもない言葉爆弾』が投下されました……。
先ほどからやり取りされているとてつもない言葉の数々に、もはや私は現実逃避の域に達そうとしている。
が、そんな私に反してノンは比較的あっけらかんとしている。
私もヒーラー時代、今の金銭感覚で見たら相当頭おかしい額を毎日のように見てきたはずなのだけれど。
これは私がおかしいのか、それとも残り二人の金銭感覚がバグっているのか。自信がなくなってきた。
「まぁ、乗り掛かった舟だし受けるけどぉ~」
ノンが軽い口調でそう言うと、今度は私のほうに視線が注がれる。
「私はノンの意思決定を尊重します」
要するに私も参加するという旨を伝えれば、レネの纏う雰囲気が一気に安堵に満ち溢れたものになった。
ちょっとした確認、もしくは討伐だったはずの依頼内容がかなり重大なものとなったが、相方はすでにいつもの調子に戻っている。
依頼承諾もあってか、私に対する態度が元に戻りつつあるレネの口から、再び言葉が漏れ出した。
「では、ネクロマンサーについてさらに詳しく説明していきますわ」
こうして、私たちのネクロマンサー討伐は始まった。
…更新遅くてごめんなさい!