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本領発揮

失踪しかけてたヤバイ!

まだ読んでくださる人はいるのだろうか。

本当に申し訳ないです

バーに行けば、未だに『失踪人ミエナ・ホーネティア』と『褒賞』の単語がやり取りされている。

すぐ埋もれるだろうと思っていた人相書きも、報奨金の高さゆえにセンターを堂々陣取っていた。

ことに最近、失踪人なんてのはかなーり多くいて、ここに貼られる人相書きなんて三日保てば良い方なのだが。

私の人相書きよりも古参なのは、ノア・ロエティテと言う男性だ。

かなり古く、劣化が激しい。長期貼られている理由はやはり高額の報奨金で擦り切れつつある道化師のメイクを施した仏頂面が、私の最強ヒーラー時代(くろれきし)の横に並んでいる様はどこか滑稽だ。

「さてと、帰りますかね」

これが貼られていると言う事は、まだ真相には近付いていないと言う事だ。

そうだ、これで良い。少しずつ皆の中から私の記憶が色あせていけば、それで。…私は掲示板に背を向けて帰路についた。


「…で?ナニコレ」

帰れば目に入るのは、壁から天井から家具にまで貼られ、ついでに部屋一面に錯乱した大量の、墨で文字が書かれた半紙。

…さっきまでのちょいシリアスな空気を返してほしいよ。

一気に気が抜けた

ミミズのはった様な辛うじて文字と分かる模様をどうにか解読すると、半紙一枚一枚には総じて同じ【果たし状】と言う単語が書いてあった。

「散らかりすぎでしょ…習字道具持った子供でも来たの?」

「いや待って待って待って」

ちゃっちゃとゴミ袋に半紙の束を突っ込もうとした私に、ノンが慌てて静止を入れる。

「コレ、なんか単語がちょいちょい不穏なんだよぉ」

なるほど、それで数枚同時に眺めて解読を試みてるというわけか。

いや文字覚えたての年齢一桁の孫に手紙貰った祖父母じゃ無いんだから。

内心突っ込みつつも眺めてみればなるほど確かに、誘拐だの身代金だのなんだの、子供が習字に選びそうな文字とは程遠い単語が見受けられる。

もし居たとしてもどんな変わり者だ。

「脅迫文…なのかな?」

頑張ってみれば、日時と場所が指定されていることが分かる。

金額は高額ではあるが私たちにも用意できる程度のもので、親元がわからないからと適当かつ当てずっぽうに手紙を出したらしい。

なんとも後先考えていない誘拐犯だなと考えると共に、コレに応じる以外選択肢がないことを悟る。

誰か命と他の何かを天秤に乗せることが出来てたまるか。

私の思考を読んだのか、満足げに口端を吊り上げてノンが出かける準備を始める。

「うんうん、良い子にはご褒美♡」

「いやノリ軽…てか私指輪ってキャラじゃないんだけど」

ポンと放られた、銀の輪に緑の石がはまったシンプルなデザインの指輪を指に嵌めつつ私も双剣の調子を確かめる。

いつもとなんら変わりない武装に、ノンは金が入った袋を抱えて出発した。


「…なんというか、良い趣味した誘拐犯だね」

指定された場所とは、遥か昔に利用者が絶えた廃闘技場だった。

実用性など度外視したやたらと凝った装飾故に中々解体作業が進められず、今の今まで残っている芸術性の高かった遺物である。

この中で取り引きするということで廊下を進んでみれば、朽ちてできた瓦礫が道の両端に避けられていて比較的歩きやすい。

急ピッチの作業で進められたというより、最初に避けて以降定期的に人が通っているような痕跡で、頭の中に嫌な考えがよぎる。

「ねえノン、嫌な予感がするんだけど私」

「同じく〜」

案の定というか何というか、中央部に繋がっている選手席に足を踏み入れた瞬間に、頭上から拍手と歓声が降り注いだ。

見上げれば、廃闘技場であるはずの観客席が一席残らず人で埋め尽くされており、その中の何席かに『優勝商品』と書かれた札を首にさげ怯えきった様子の子供が拘束されて座らされていた。

「お尋ね者の顔ばっか見える…悪党どもの娯楽ってことね〜理解」

「命がけの決闘という名の一方的リンチを見世物に、か…本当良い趣味ですことで」

2人揃って悪態をつきながら相手選手席を見てみれば、悪人面の完全武装が少なく見積もって五十人は居る。

これを二人で相手すると考える。普通に考えてまず無理だ。

でも出来る出来ない関係なくやらなくてはならないなら話は別だ。

『ladies and gentlemen!只今から面白い見せ物が始まります!』

「ジェントルマンなんて何処に居るんだか」

放送機器を通して大音量で放たれた流暢な決まり台詞に対し皮肉を呟く。

『皆様が書かれた適当な番号により選ばれた戦士は…この2人ですっ!』

あの手紙の送り先は本当に適当に決めていたらしい。細部が色々ガバガバな企画のようだ。

『挑戦者2人には参加料を支払って頂きます!そしてどちらかのチーム全員が戦えなくなるまで戦って頂き、勝った方が優勝商品を獲得できます!』

つまり金はどの道取られるが、子供を返してもらえるかはわからないということか。

子供の安全を確保するには、何がなんでも勝たなくてはいけないらしい。

「チッ…下衆が」

「ノン、素」

最近ノンの面の皮にヒビが入りやすくなっている気がする。

掲示板に【急募・能面師】の貼り紙でも出すべきだろうか。

『さあー、最初に戦うのはー!?』

急かすようにアナウンスが進行を再開する。

合理的判断、ノンは隠し球だ。この外見であんな馬鹿でかいハンマーを振り回す剛力だと誰が分かろうか。

…なら出るべきは私。極限まで粘って相手を消耗させる。

「ノン」

「なぁに〜?」

何故か既に全て分かっていると言わんばかりにノンは既に観戦態勢に入っている。

白いテーブルクロスや猫足のテーブルの上で、可愛らしく着飾ったスコーンやらケーキを口にしながら優雅に紅茶を啜る様は現状とミスマッチすぎる…っておい待てどこから出てきたその超本格的アフタヌーンティーセット。

「色々突っ込みたいけど…取り敢えず行ってくる」

「うん。ご武運を」

戦闘スペースに足を踏み出せば、向こうからも何食わぬ顔で三人武装した相手が出てくる。最初から一対一で戦う気は毛頭ないらしい。

『挑戦者の強さを考えてハンデを付与し、三対一の戦いとなります!』

口先では私が強いからと言っているが、多分実力関係なしで何時もそうなのだろう。

その証拠に、観客席からもまたかと言わんばかりの下卑た笑いが溢れている。

「…上等」

開始の銅鑼が鳴るのと同時に双剣を抜き躍りかかる。

初手走り寄りながら双剣投擲、それにより相手が怯んだ隙を見て足払いを仕掛ける。

足払いをしながら、計算通り手元に落ちてきた双剣を回収。

三人とも綺麗にかかったのを目視しつつ崩れた体勢に追い討ちをかけるように、ひとりの頭に全力で剣の持ち手による打撃を叩き込む。

そいつが脳震盪を起こしたのを確認しつつ、未だ立ち上がれていない残り二人の喉元に剣を突きつける。

「降参か否か、返答を」

一連の動作に二十秒もかかっていない。実力の差を見せつけた形だ。目論見通り仮面越しに満面の笑みを向けてやると、相手はアッサリと投降した。

「…まず三人」

間髪入れずに今度は五人、同時に襲いかかってくる。こちらは殺す気はないが、向こうはそうでもないらしい。

「ミーナ〜、手加減無用だよぉ」

「分かった」

選手席からのんびりと間延びした声でそう言ったノンの言葉に甘え、発狂を解禁することにする。

ただ、殺す気はない。私は双剣をノンの方に投げ渡した。

「優しいねぇ」

比較的重量があるそれを両方ともティーカップを持っていない方の片手で受け止め、代わりと言わんばかりに木剣を二つこちらに投げてよこす。

「これなら致命傷にはならないでしょ」

確かに、もしこれで攻撃して当たりどころが悪かったとしても大丈夫そうだ。救護班らしきものは『向こうサイドには』しっかり用意してある。

好意に甘えることにして、私は次々投下されてくる相手戦力にのみ集中し始めた。


「ふふ」

ついつい笑みが溢れる。

紅茶を飲みつつコロシアム中央に目を向ければ、相棒が一人で十人を同時に相手にしていた。

最初設定したルールや建前は何処へやら、選手控え席の奥から水でも湧くかのように武装した男どもが次々出てくる。

最初はミーナが相手を気絶させて倒す度律儀に回収されて撃破数がカウントされていたのだが、かなり前からそれは止まってしまっている。

紅茶を注ぎ足すついでに片手でカウントしていたが、その数186人。よく一人でここまで倒しているものだ。

まあそれだけの数を調達した向こうも相当凄いけれど。

もはや一人十五秒もてば良い方、そう断言できるほどの速さで試合が展開されている。

勿論ミーナも無傷ではない。

スタミナの消耗、長時間の戦闘で多少荒削りになった動きは極偶に反撃を許し、打撃斬撃をくらっている。

「…なあ、茶髪のお嬢ちゃん」

「な〜に〜?敵側大将のオジサマ♡」

選手控え席同士での会話、話しかけてきたのは敵側の大将格、無精髭に刈り上げといういかにも《らしい》男だつた。

「聞きたいんだが、今戦ってる仮面の奴はパラディンか何かか?」

「ううん?狂戦士」

それだけ答えてショートケーキを皿にとる。そのままフォークで頂こうとしたとき、留めるように絶叫が響いた。

「嘘だろ!?じゃあなんで倒れないんだよ!」

危なくケーキを落としかけた。

オーバーリアクションとも言えるようなその反応にいちいち返してやる必要性を感じられず、ケーキを落としかけだ時点で多分無意味だろうが聞こえなかったフリを決め込むことにした。

スポンジと生クリームの相性抜群なハーモニーに舌鼓を打っていれば、答えを要求する目線がちくちくと横顔に突き刺さる。

「んーまあ、パラディンとか体力防御力そのものが高いわけじゃないねぇ。でも別に異常が起こってるわけでもないし、神による奇跡とかでもない」

勿体ぶるわけではないけれど、話を中断して紅茶を一口飲んで口の中の甘みと溶け合わせる。

一度口に入れた味は中々消えない。

特に、常日頃…毎日食べていたならば、急に全く別種類の味のものを食べたとしても、『いつもの味』を簡単に思い出せるだろう。

…それは、技術も然り。

「ひとつ、素敵な指輪をあげただけだよ」

それだけ呟き、視線をミーナへと戻す。

彼女の指にはめられた指輪が淡く発光し、彼女を包み込んでは消え、彼女が負傷すればまた発光しては消えて、という不安定な明滅を繰り返している。

お相手の総大将も、もう気づいただろう。

そう、渡したのは魔法装飾品マジック・アクセサリー、魔法付与の指輪だ。

「…なんの魔法だ?複数付与なのは確定だがな…防御系統であんなに強い魔法見たことがない」

向こうはトンチンカンなことを呟いているが、あれはそんなに高性能なものではない。回数制限がない代わりに付与される魔法は一つきりだ。

戦闘の輪の中央、殺しはしないが強烈な一撃で相手を気絶させ続けている相棒が負傷しては指輪が発光し、【傷が完全に治って】はまた戦っている。

その度に彼女が呟いている言葉にこっそりと重ねて自分も呟く。

「「回復魔法(ヒール)」」

「ば、化物!?化物ぉッ!!」

完全に戦意喪失した剣士がずりずりと尻餅をついた姿勢で後退る。

少しだけ、ミエナの口元が動いた。まるで傷ついたのを隠しきれなかったかのように。事実そうなのだろう、私の可愛い相棒に何を言ってくれているのか。

「まあ私も予想外だったけどねぇ」

正直なところ、私もここまでとは思ってはいなかった。

元ヒーラーと聞いていたので常人よりは使えるだろう、と焼け石に水程度の効果と決め打ちして渡したのだ。

あんなに凄まじい回復力を発揮するとは嬉しい誤算だった。

もう向こうの増援も切れたのか、唯一人ベンチに残っていたオジサマがようやく重い腰をあげる。

「さてと化物級に強い仮面の戦士さんよ。お相手しようか」

どこか間抜けた雰囲気が消し飛び、大剣を引き抜いて油断なく構える。

ミーナも木製の双剣を構えなおして正面から向き合った。

ミーナの姿が消える。ほぼ同時に激突音。連続して叩き込まれた打撃に耐えきれず上に跳ね上がった大剣を流れるように蹴り飛ばし、そのままガラ空きの胴体に容赦ない連撃が撃ち込まれた。

木剣であるはずの双剣は異常な攻撃力を有し、真剣のような赤い軌跡をオジサマの頬や胴体に残す。

「真剣じゃなくても切れるのかい…恐ろしい、なぁっ!!」

攻撃後の僅かな隙を突いて叩き込まれた掌底、それをもろに食らってミーナが後ずさる。

大剣はミーナの後ろに転がっている。ミーナが攻撃に転じる道を潰しつつ体術で圧倒するのは歴戦の戦士の為せる技だ。

ミーナの体が淡く発光する。何度目かの回復魔法で治ってゆく傷、しかしそれを上回る速度で攻撃が加えられていて、釘付け状態になっていた。

「厄介だな。ちと、眠ってもらおうか!」

「はぁいストップ。弱い者いじめしても楽しくないでしょ?オジサマ強いみたいだし…私と大将戦といこう」

ベンチから2人の間まで跳躍し、全力で振り下ろされた拳を片手で受ける。随分軽い拳だが、鍛えているのは明らかなそれに密かに微笑んで大剣を投げて渡す。

「手加減無用ってことかい。良いぜ茶髪のお嬢ちゃん。大将戦上等だ」

ミーナに退くようハンドサインを出せば殊の外素直に引き下がった。

極限疲労状態では勝ち目薄だと冷静に判断した結果だろう。でなければ自分がやると言って聞かないはずだ。

「一応先に言っとくね。私はミーナほど優しくないよ」

それだけ言って箒を構え、打ち込んだ。


目の前のこれはなんなのだ、と頭の中で同じ質問がぐるぐると回る。

しかし答えは出ないし、答えを出すべく熟考する暇もない。

ニコニコと満面の笑みを浮かべたままの少女の、華奢な腕に振るわれた筈の箒は強烈な打撃を大剣にたたき込み、緩和された筈の余韻で腕が痺れる。

強すぎる腕力膂力全てが上自分よりで、明らかに体躯と合っていない。

「なんだお前は…!?」

「可愛くか弱い女の子」

呻き声に混じった問いに対し返ってきたのは、納得とは程遠い一言で。

手一杯の此方と違い、向こうは熟考する余裕もあるようだった。

「…子供は連れ帰る、此処は告発する。ミーナの力の再開花含め、収穫は十分だね」

手数も相手の方が上、これはまずいと思った瞬間に視界一杯に映ったのは、肌色の塊。

「…っと気絶したかぁ。折角ミーナが殺さないよう努めてたんだから、鈍器でトドメはダメだよね」

視界も体も自分のものでないような感覚。どうやら気絶と勘違いされたらしく、相手はのんびりと終わった前提の独り言を呟いている。

聞こえる焦り声とここから逃げようとする大量の足音。それを聞きながら、今度は本当に気絶した。


「…なんか私無駄な頑張りした?」

「そんなことないよぉ」

「説得力ないんだけど」

目の前でガラガラと崩されていく廃闘技場を眺めながらぼやけば、ノンが即座に否定した。

発狂状態から帰ってみれば、ノンがほぼ全てを片付けていたというのに何をいうのだろうか。

まあ子供も無事、ノンも上機嫌。悪いことではないのだけれど。

「自覚ないんだねぇ」

「何が?」

「なんでもなーい」

どうやら、この相方を理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

わーい無双準備できたー!

読んでくださりありがとうございました!

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