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天職に転職しました

二話から本領発揮です(言い訳)

初心者ですが温かい目で呼んでください。

この世には、ジョブごとに名家というものが存在する。

シーフ、武闘家、ヒーラー、ソードダンサーetc…それぞれの名家は、そのジョブに対して天才的な才能を持った人材を多数輩出する、選ばれし家…なーんてのは、遠い遠い、それこそ歴史書で見るような過去の話。

ここ数百年、先祖達の血が薄れた名家から抜きんでた才能の人材なんて出ていない。

先祖たちから得られる恩恵なんぞ、そのジョブ“らしい”顔くらい。

故に、ヒーラーの名家、ホーネティア家の家人達は天才育成に躍起になっていた。

赤ん坊が産まれれば、口にさせるものは全て魔法能力強化の作用があるとされる食物のみ。子守唄は術式詠唱。玩具は杖。絵本は魔術書。隠れんぼ等の遊びに代わって魔法実習。

そんな徹底された、異常な、英才教育の域を超えた教育を施した。

…え?何故知ってるのかって?…私がその赤ん坊だからだよ。

寝てる間も、食事してる間も、更には排泄時もずっと術式詠唱を聞かされる日々…もはや環境音。

そんな常軌を逸した教育の異常さを知ったのは九歳の頃。

外出禁止命令が出され世間と画されていた私が、家人に隠れて初めて友達を作った時に、その友達との話の食い違いで発覚した。

今まで黒と教えられてきたものが本当は白だった、とでも言うような事実に、私が九年間培ってきた常識と普通は海岸の砂城がごとくあっさりと崩れ落ちた。

24時間365日ずーっと魔法漬けの日々を送っていれば必然なことだけど、私が十歳の時、私は国一番のヒーラーになっていた。

皆が揃って私を褒め称え、天才だともてはやしている時、当時十歳の私は無邪気な笑顔で愛用の杖を握り締めながらこう思っていた。

(私が天才ダァ?ヴァーーーッカ!!

ンなわけないだろがてめーらの目は節穴かぁ?…あ、節穴ですよね☆

24時間365日×10年ずっと魔術漬けになってりゃ誰でもこうなるわ!!

テメーらが百年かけてやる事を十年に圧縮してやっただけだっつーの!)

…ハイ。異常なまでに高等な教育を受け続け、そこらの大人より頭が良かった十歳児は、猫被りが得意な毒舌腹黒な子供に育っていました。

そこからはトントン拍子。

最強ヒーラーの名を冠されてからは、次から次へと途切れる事なく仕事が舞い込み、それをこなしていくうちに実戦でもしっかり動ける様になり、更に仕事が増え、難易度に比例して報酬の0も増え…気づけば弱冠十一歳で家人全員を養う大黒柱になっていた。

家人の理想とするオジョーサマを演じつつ、彼らを養い、崇拝に近い形で大切にされる…そんな奇妙かつ湖にはった氷のような脆い関係は、とある一つの巨岩の投下によってあまりにもあっさりと、しかも粉々に割れることとなる。妹の誕生だ。

妹は、私と全く同じ英才教育を施されて育った。

幼い私はそれを珍妙かつ複雑な気持ちで眺めていたのを今でも覚えている。

育ちかたも、容姿も、何もかも私と同じと思われた妹には、私と決定的な差があった。

一つ。たった一つだけ。でもそれが致命的だった…私にとっては。

妹が初めて回復魔法を使った時、私は自分の目、耳、感覚…とにかく自分の全てを疑った。

未だ喃語混じりで話す妹が放った回復魔法の回復量は、私の回復量を凌駕していたのである。

私と妹の唯一の差、それは才能。

妹は、本物の天才だった。

————そして、今。


「アホらし」

ボソリと口から本音が漏れる。

妹の才能が露見してからは、今まで私に向けられていた【最強】の称号や甘やかし、過保護なども全て妹にシフトした。

外見可愛い(同じ顔だけど性格の差が顔に出た)、超素直、天然ドジ、そんな妹は家人達の庇護欲を無意識のうちにバリバリに掻き立てたらしく、ハサミその他刃物は一切触らせず、手が荒れるようなこともさせずに、蝶よ花よと育てられている。

まあそんな妹の教育費や家人の生活費はどこから出てるのかって?シンキングターイム!え?もう分かるって?そう!…当然私なんだよなぁ。

最強の称号を剥奪されたと言っても、他のヒーラーなど足元にも及ばない実力は変わらない。

ついでに私からその名を受け継いだ【最強】たる妹は戦場どころか家からもまともに出ないのだ。

よって、仕事には困らなかった。

更には唯一先祖から貰った恩恵である天使じみた容姿も味方をし、レンタル彼女の様な【安全な森をデートするだけ】という楽な仕事も来る。

まあそんなこんな比較的快適ではあるのだが……高嶺の花から少し落ちてきた私を勝手に値踏みして自分のチームに引き入れようとする輩が急増し、辟易していた。

今回の依頼もそれだ。やたらと自分のチームの良さを語り誘導してくる。

「ミエナ・ホーネティア、今なんと?」

「いいえ?何も申しておりませんわ」

猫被りは未だ健在だ。

自分の素を晒すのは面倒臭いし、その価値もないだろう。

ついでに、この性格は評判が良かったり争い事を避けられたりとなかなかに都合が良い。

「そうですか。あ、そろそろドラゴンの巣ですよ。

私達はドラゴンスレイヤーの異名をもってうんたらかんたら————」

また始まった。早く来てドラゴン。

私がこの人の口を物理的に縫い合わせる前に。

私の願いが通じてか、ズシン、ズシンと重々しい足音が響く。

「チッ、此処からが良いところなのに!」

(ナーイス!ドラゴン超ナイス!!)

木々をなぎ倒しながら、頑丈そうな鱗と鋭い爪を持ったドラゴンが現れる。

ナイスタイミングで登場してくれたドラゴンに心の中で土下座する勢いで平身低頭、サムズアップをしまくってから(この間約三秒)私は即座に前線から離脱。

相棒の杖を地に突き立てて術式詠唱を始める。

さあ見せてもらおうか、ドラゴンスレイヤーの実力とやらを。

…とか思ってたんだけど、目の前で惨劇が繰り広げられて苦笑いしかできなくなった。

自称・ドラゴンスレイヤー達の攻撃は掠るばかりで一向にまともなダメージが入らない。

逆にドラゴンに切り裂かれたりヴェルダンに焼かれたりと良い感じに料理されている始末だった。

ああ、それはいくら踏んでもうどんみたいなコシなんか出ないよ。

端から回復しているので全滅はしていないがジリ貧だった

(…やらかした。此処まで弱いとは…杖以外武器持ってきてないし、私回復魔法以外全然鍛えてないから焼け石に水…終わったな、コレ)

アタッカーが機能しないチームのヒーラーなど意味はない。

いくら神々しい礼服(実際高い)に身を包もうが、私にできるのは回復のみ。神の加護のように強化魔法が使えるわけがない。

「…どーせやられるなら、やってやる」

「…ミエナ・ホーネティア?まさか!私たちの為にこの土壇場で超強化魔法を習とk

「やれるだけやってやらぁ!!」

ビリィッ!(礼服を引きちぎる音)

「ウッソでしょ!?」

サヨナラごめんね高級礼服。

正直意味のない装飾多すぎて動きにくいんだわお前。

私にあるのはこの杖のみ。

自殺とほぼ同義の特攻だが、ただ食われるくらいなら喉に魚の小骨が引っかかった程度の怪我でもいいから負わせてみせる。

そしてあわよくばそのまま化膿しろ。

助走をつけて走り、そのまま跳ぶ。

思い切り杖を振り上げて叩き下ろそうとした瞬間、世界がスローモーションになった。

それとほぼ同時に、まるで自分が自分でないような、説明のしようがない感覚に襲われる。

それと同時に攻撃していた。

なんとなく、としか言いようがない。

ドラゴンの首筋に向かって跳んでいた私は、杖の先端を逆鱗と皮膚の間に差し込み、手子の原理で無理やり引き剥がしてから、思い切り赤い肌が露出したそこに杖を突き込んだ。

杖が刺さる。異常なまでに深々と、殆ど持つ所が無くなるほど。

間違いなくドラゴンは怒り狂って私を食い殺すだろう。

そしてそのまま死ぬ事を覚悟したが、何故か攻撃は一向に来なかった。

「…え?」

恐る恐る上を見上げると、あろうことか、ほぼ無傷だったドラゴンは私の一撃で完全に沈黙していた。

そこからはもうどう帰ったのか分からない。

ただただ朦朧としていた。

ドラゴンを倒す直前に訪れた、夢見心地な感覚が尾を引いたのだろう。

取り敢えずドラゴンは私ではなく自称・ドラゴンスレイヤー達が倒したことになっていて、私は礼服を引きちぎった事をしこたま怒られて…ただその間も、私の頭の中では思考が渦を巻いていた。

(私は今まで操り人形だった。いや単なる金づるかもね。でもそれは、ヒーラーでしか生きられないと思っていたから。

彼らは【私】に関心はないし、私も彼らに愛情も思い入れもないけど、ヒーラーである限り、ホーネティアからは絶対に逃れられないから。

でも、もし、万が一。

…私に攻撃系のジョブの才能があるとしたら?)

一度芽生えた思考の芽は止まらず、その成長は加速していく。

資金源としか思われていなかった私が、ホーネティアの束縛から抜け出せるかも知れない。

一個人になれるかもしれない。

その思いは私を突き動かし、その日の夜に私は外出禁止を無視して家出していた。

そのまま宿で一泊。冒険慣れしているので問題はなかった。

ベッドの中、今度はまた別の、されども同じようにこれも夢かと錯覚しそうになるフワフワと現実味のない感覚に包まれていながらも、幼少期の特権、他愛もない夢幻を屠り無理矢理培ってきた思考は合理的な判断を下す。

(あの家のことだ、きっと明日の昼ごろになれば指名手配よろしく私を探し出すだろう。

それまでに外見その他を極力変えて、ジョブ変更とか、出来ることも出来る限り多くしておかなければ)

翌日、起きてから身嗜みを整え、そこから自分で腰まである、売ったら高そうなハニーブロンドを容赦なく切った。

基本ショートで、首周りのの髪だけ、首に這わせるように肩までの長さを残す…ショートウルフという髪型。

動きにくいことこの上無い神々しい服や装飾品を売り払い、資金を確保。黒いハーフパンツ、黒ブーツ、白いブラウスに黒コート、そして顔面隠しの変声機付き仮面をスペア含め幾つか購入した。

これだけで殆ど私とは分からないだろう。

そのままジョブ変更に向かう。

神殿と呼ばれる場所で自分に適したジョブが選ばれる…これでヒーラーが選ばれたら諦めよう。無いと思うけど。

幾つか適性ジョブが選ばれるというので待っていたが、神々しい音と共に降りてきたジョブカードは一つ。

適性率百%…狂戦士バーサーカー!?

「ば、バーサーカー…?」

あるとは聞いていたけど、見るのは初めてだ。

説明を見てみる。

「体力、防御力が最低値、使用可能魔法は無し…その代わり、生物に対しての攻撃力が比類なし…クリティカル率が高く、他のジョブと違い、弱点以外を攻撃してもクリティカルが出ることがある…弱点を突くと、一撃必殺が出ることもある…だが、一時的狂気状態でなければこの効果は発揮されない、ね」

私の唯一と言ってもいい強み、回復魔法が使えないのは覚悟していた。

でも、まさか此処まで防御力と体力が低いとは思わなかった。

体力防御力特化のジョブに比べると3倍以上の差がある。

殆ど一からの挑戦。更には牙突と言うことか。

「…燃えるじゃないですか」

ヒーラーの私とは完全に違う私を見つけて見せる。


バーは仲間が欲しい者達が集う場所だ。私は一人では冒険できないジョブだから、防御系か回復系の人と一緒に冒険したい。

仮面をつけてバーに入ってから、自分のステータスを数値化したカードを専門端末にスキャンして、バーに居る全員のステータスが記載された紙を受け取ってからカウンターに座る。

私は結構難しいジョブなので、下手に声をかけずに、相手から声をかけられる事を待つ。

一時間ほど経過しただろうか。一向に話しかけられない。

まあ仕方ないかとぼんやりしていると、横の席に人が座った。

「マスター!シンデレラとジンビター頂戴☆」

いや乙女の代名詞、シンデレラはともかくジンビターは渋すぎる。なんだこの注文した物の落差。

「はいどーぞ!」

私の心中のツッコミなどいざ知らず、シャーッとこちらにシンデレラのグラスが滑らされる。

いやジンビターは自分が飲むんかい。

「駄目だよ、仮面なんかつけてちゃ!皆怖くて話しかけてこれないよ?」

甘々な声音でそう話しかけてきたのは身長145センチ前後、全体的に可愛らしいが絶世と言って差し支えない程の美少女だった。

フリル盛りだくさんロリータ服が違和感なく馴染んでいる。

下手なそこそこ美人が着たら服に着られて苛つきそうな服をバッチリ着こなしているその外見と度胸、自信に脱帽した。

「ねえねえ、ステータス見たけど、元ヒーラー?」

「…ええ、まあ」

やたらグイグイくるやん。

ジンビター(度数相当高め)をホットチョコかなにかのようにクイクイと飲んでいるので酔わないかと気が気ではない私の心境を悟ってか、ヘラっと笑って「ウワバミだから大丈夫だよぉ」と言ってきた。

いやそういう問題じゃないだろ。

「やっぱり【フォーマジ】だったね」

「…フォーマジ?」

耳慣れない単語を反芻すると、「そ、フォーマジ」ともう一度繰り返される。

ついでに私がその単語を知らない事も分かったからだろう。

丁寧に解説を入れてくれた。

「元魔法系ジョブから非魔法系ジョブに乗り換えた人たちの…本来は見分ける為の名称から派生して、半差別的名称な感じかなぁ…フルで言うと【フォールマジシャンズ】。転落した魔術師って意味だよん」

バーに来たのは初めてだったので、この単語は初耳だ。

私は基本家で依頼を待ち、来たら受けるスタイルだったので、来る必要がなかったのだ。

フォーマジにも当てはまらなかったので、耳にする機会がなかったのだろう。

(それにしても、ジョブチェンジしただけで転落とは。どえらい言われようだな)

「魔法関連って競争率高いでしょ?素質の世界でもあるし…自分がウン十年頑張って出せるようになったモノを才能ある奴が秒でポンッと出すことなんてザラにあるし」

何でだろう心が痛い。

まるで今までの自分の話を聞かされているように感じる。

「だから心折れて、心機一転此処で頑張ろう〜って来る子多いんだよ。

それがあんまりにも多いからインフレ状態よりどりみどり。

そりゃ元々そのジョブ一本でやってた人からすればふざけるな〜だし、差別用語にしたくなる気持ちも分からないでもないかなぁ」

元々魔法はそんなにポンポン天才が生まれるようなものじゃないし、具体的にこうすれば確実に上手くなる…なんてのも無いから秀才なんてのも稀だ。(私は例外。圧倒的英才教育)

逃げたくなる気持ちも大いに分かる。

でもそのおかげでインフレ状態…怒るのも当然か。

「ま、話変わって…防御役、兼攻撃役はご入用ですか?」

「え?防御役…兼?まぁ、素直に言うと欲しいですけど…」

「じゃあWIN-WINだね☆」

近距離まで近づいた顔面凶器、その中でも妖しい魅力を放つ宝石のようなダークブラウンの目が、三日月に近い形にまで細められた。

値踏みをしているのか、他の何かを見透かそうとしているのか。

少なくとも、これだけは分かる。圧が凄い。

蛇に睨まれたカエルという言葉をそっくりそのまま数十秒体感したところで、袋をひっくり返しでもしたかのようにパッと表情が人懐こい元のものへと変わる。

「まぁ急だと困るだろうし、現場での相性ってあるでしょ?

だからぁ、まずお試しで一回、タッグ組んでやってみない?」

すい、とこちらに差し出された右手を見下ろす。

物は試し、やってみるか。

私はその右手をしっかりと掴んだ。


ゴブリン討伐、それがこのクエストの依頼内容。

目的地まで行って、そこに巣を作っているゴブリンを一掃せよ、と言うことだが、たどり着くまでも一苦労だ。

次から次へと出てくるモンスターを捌くのは楽とはとても言い難い。

後衛でかなりの広い視野と経験は培ってきたつもりだったが、前衛はその比では無かった。

前後左右更には上下。まさかここまで大変だとは。今までの経験など無意味に等しい。

ヒーラーの時に痺れを切らして前衛にあれこれ指示を飛ばしたりしていたが岡目八目というやつだったのか。

(…非常に恥ずかしい。そして過去に戻って無かったことにしたい。もしくは全力で謝りたい)

私は、慣れない前衛、回復魔法に全振りしていたせいで初期レベルと同程度のステータスという状態に、どう足掻いても四苦八苦する他なかった。

「えーいやっ!」

対して下手をすると私より弱く見える相方は可愛らしい掛け声と共に、武器であるらしい魔女っ子を連想させるファンシーな箒を振り回して文字通り敵を一掃している。

ファンシーが裸足で逃げ出していくような光景だ。

…足手まといになる前にコツを掴まなくては。

「フゥー…」

一度剣を下ろし、ゆっくりと息を吐いて自分が握る剣のレンジを再確認する。

バーサーカーは発狂した時に最も高い火力がでる…というのは確認したが、生物に対しての高火力は常時適応されているのだ。

そうちょくちょく発狂せずとも、コツさえ掴んで仕舞えば並みの敵には普通に渡り合える。

一撃必殺無しでどこまでいけるかの検証も兼ねて…私はゴブリンに躍りかかった。

ゴブリンの弱点など考えたことも無かったが、意識するとなんとなく分かる…耳だ。

ゴブリンが漏れなく耳に何かしらガードのようなモノを付けているのはそのせいなのだろう。

ガードのない部分に滑り込ませるように剣を振るう。すると、一撃必殺がないはずなのに、あっさりとゴブリンが倒れた。

効果の一撃必殺ではなく、単純に火力で殴り切れたらしい。

コツは掴んだ。二刀流を活かせばこの数でも余裕で勝てる。

投擲物や弓矢で狙われ始めたので、ゴムボールのように跳ね回り回避と攻撃を並行する。

ものの数秒で一帯を掃除し終わった時、ずっと私を見ていたらしい美少女のチョコレートブラウンのツインテールが面白そうに揺れていた。

「オーバーキル〜☆」

クスクスと楽しげに笑いながら何かしら呟いたようだが、うまく聞き取れず聞き返す。

「なんでもないよ♡」

まあなんでもないと言っているので気にしないことにする。

「さて!モンスターがまた寄ってくる前に!チャチャっと巣まで行っちゃおっかぁ」

ヒラヒラと裾をひらめかせながら、ツアーガイドのようなノリで先頭切って歩き出したので、私は慌ててそれを追った。

因みにツアーガイドごっこはしたもののうんちくなどは一切出てこなかったので、それはこのごっこ遊びなら立場的には客であるはずの私が担当した。

徒歩で歩くこと十数分、目的地、ゴブリンの巣に到着する。

念の為にまずは様子見。

ちょうど良い大きさの岩に張り付いて相手のおおよその数や装備を確認する。

ゴブリンは人間とそう大差ない知能を持っているから、数的不利なこのメンバーに対して連携を取られると厄介だ。

「そんなに気にしなくても良いと思うよぉ?」

岩に生えた苔のようにビッタリと張り付いて様子を見ていた私に軽くこう一言発してからとった行動。それは。

堂々歩いて正面突破with鼻歌ナンテコッタイ

オブラートに三重くらい包んで言っても舐め腐ったこの行動に、ゴブリンたちは総じて遺憾の意…いえすみません訂正します。バリバリ怒りを体全体で律儀に表してくれました。

めいめい好きな武器を持って渾身の突進をかますゴブリン。

「きゃッ怖〜い」

やる気あんのかお前。

さすがに助太刀しないとこの人数差はヤバい——慌てて双剣を抜き追いつこうと走る体勢をとった瞬間、件の箒があり得ない量の風を巻き起こし、ゴブリンを全て吹っ飛ばしていた。

「…へ?」

「私に触ろうだなんて五光年早い」

光年は距離の単位だよ、とツッコもうかと思ったけどやめておこう。

遅れながら私も参戦。もうこの状況で慎重なんか微塵も残ってない。

箒と双剣で行われるゴブリン討伐はもはや作業と化していた。

この武器の組み合わせなら、剣で斬ったのを箒ではいて寄せて掃除…と字面を見れば考えそうなものだが、この箒、なにぶんファンシーの皮を被った単なる鈍器である。

箒でゴブリンを千切っては投げ千切っては投げ…どちらかと言うと吹き飛ばし、時に殴り倒し、私はもっぱら仕留め損ねの一層担当だった。

いや逆だろ!と思った人、安心して下さい。誰よりも私がそう思ってます。

リーチの差でゴリ押され、本来の能力を微塵も発揮できないまま吹っ飛ばされ続けるゴブリン達がいっそ哀れだ。

だからだろうか。

同程度のリーチの私に襲い掛かる前、下心と不意打ちの意思はないことを示すべく武器を下に置き、全力で平伏して感謝の意をこれでもかと示してから武器を拾い直し、私が不利にならないよう一定距離離れてから吠える事で前置きした上で戦いを挑んでくるのだ。

懇切丁寧に決闘のような形式で一体ずつ挑んでくるゴブリン達を見て、私はボソリと思ったことを呟いた。

「…Japanese SAMURAI?」

人間より彼らのほうが仁にあついのではないだろうか。

そのまま十数分片方は一方的な殲滅、片方は種族を超えた正々堂々な戦闘が続き、今回のクエストのボスである長ゴブリンすら流れで倒しクエスト完了した瞬間、ズシンと地鳴りがおきた。

「はぇ?」

「あ、やっば」

ズシン、ズシンとだんだん大きくなる地鳴り。違う、これ地鳴りじゃない。

…足音だ。

「ここらの主…忘れてた」

猛々しい咆哮と共に現れた、桁違いに強いと秒で分かる巨大な白銀の狼。

初っ端から完全に戦闘態勢をとっているところを見ると戦闘は不可避。

「先手必勝☆」

先程まで数多のモンスターを蹂躙してきたファンシー(仮)鈍器で容赦なく殴りかかったが、逆にポッキリと折れてしまった。

「うっそん」

早々に殴られたのが癇に障ったらしく、白狼は容赦なく私の方に牙を剥いた。

あれ?私完全にとばっちりでは?

何故かターゲットは私になっている。体力防御力共に最低値、更には擬似戦闘レベル初期値だ。

一発当たったら終わりの無理ゲーはっじまーるよー!(ヤケクソ)

避けて避けてひたすら避ける——そんな神経擦り減らす避けゲーをしている私に、全ての原因であるロリータが空気を読まずに声をかけてくる。

「ねぇ〜!今後私とタッグ組んでくれる〜!?」

頼むから空気読め、出来るならターゲット代われ。言いたいことは本当に腐るほどあるが、避けるのに手一杯でそんなことする暇がない。

「答えて!大事なことだから〜!」

ねえそれ私の命より大事なの!?

君は死人とタッグを組みたいの!?

ああでも相性は良いみたいだし腕も良い…ええい!真面目か!?馬鹿正直に考えてどうすんの!

でもとりあえず結論は出たので首を縦に振る。

その行動を見て、可愛らしい美貌がニンマリとした似合わない笑みを浮かべた。

「OK、契約成立ね…んじゃ改めて。

名前はノン、ジョブは聖騎士パラディン

得意魔法は縮小魔法ミニマム!」

そう叫んでネックレスのチャームを引きちぎった相方…ノンはハンマー型のチャームを空高く放り投げる。

「解除!」

気のせいだろうか。空中のチャームが、なんだかどんどん大きくなっているような気が…


ドゴォッ!


「うっそでしょ…?」

派手な音と共にノンの背丈より三〜四倍の大きさがあるだろう巨大なハンマーが地面に深々と突き刺さる。

気のせいじゃなかった。あのチャーム、この化け物みたいなハンマーを魔法で無理矢理あの大きさまで縮めてたの!?

ノンはあろう事か力自慢五人がかりでも引き抜けそうにないそれを片手で軽々と持ち上げ、白狼に向かって振るった。

小枝でも振り回すかのような軽やかな動きだ。

あんな小さい体のどこにそんなパワーがあるのか。

「てかパラディンじゃないでしょ。

別名鎧騎士ってジョブなのに、鎧どころかロリータ服だし。槍じゃなくてハンマーって」

「ツッコミどころそこじゃな〜いw」

ケラケラと笑いながら常人が当たれば長期入院程度では済まされない攻撃を繰り出し続けるロリータパラディン。

なんだろう、ゴブリンに続いて白狼すら可哀想に思えてきたよ。

「おやすみッ☆」

最後、両手での一撃。一際重い打撃音の後、白狼はゆっくりと倒れた。

さあ主も倒したし今度こそこれで終わり…そう思った矢先、同じような足音、しかも今度は二つ。

出てきたのは黒と赤の更に大きな狼。

しかも倒れている白狼を見て、露骨に私たちに敵意を表している。

「ありゃりゃ〜…ねえ、これもしかしなくても…」

「親、ですね」

我の子供に何してくれとんじゃあー!と言わんばかりに吠えてこちらに向かってくる。

これはやらかした。親の逆鱗に触れて倒す以外に沈める方法を知らない。

「えいやッ!」

ノンはまたも外面は可愛らしい掛け声でエグい一撃を放つが、前の狼ほどは効いていない。

純粋に相手が強いのと、さすがに主クラス連戦はキツいのだろう。

「…フゥー」

私が、打開しなくては。

純粋な攻撃力のみでは恐らく歯が立たないだろうし…使うべきは。

「発狂…」

狙って発狂、なーんて人生で一度もした事はない。まず発狂そのものと縁遠い生活をしていたのだから。

でも、ドラゴンを一撃で沈めたあの感覚は多分、私が今求めているものだ。

発狂できるかは分からない。

発狂したとして勝てるか分からない。

攻撃を一撃でも喰らえば負け確定。

勝てる確率は相当低い、賭け。

「…やるだけやってやる」

まず一息、そのまま全感覚を研ぎ澄ます。

頭が激しく痛み、それと同時に体が自分のものではないかのように勝手に動き始める。

狙うべきは、舌。攻撃の為に口を開けた瞬間。

体もそれは分かっているのか、無闇に突撃せずタイミングを伺っているようだった。

黒と赤、両方の巨狼が牙を突き立てんと口を開いた瞬間、体は跳躍していた。

丁度舌が狙える高度。気づけば剣を両方、舌めがけて力一杯ぶん投げていた。

さくりと音を立てすんなりと沈み込んだ剣二つ。力尽きた狼は3匹に増える。

それを見届けた未だ私の制御を受け付けない体は、自由落下を始めてしまった。

(————オワタ)

ここまで頑張って無傷できたのに最後の最後に落下で戦闘不能デスカ。

それはあんまりなんじゃねーの?

ああでもまあ、仕方ないか…

「っとぉ」

軽い掛け声。そして体はがくんと落下を停止した。

目の前にはチョコレートを彷彿とさせる色のツインテールと、それに包まれた理想的な美貌。

…ノンが私を空中で回収したらしい。

(…アレ?なんか感触に違和感…)

フリルやリボン越しの感触に、どこか違和感を覚える。なんか違う、と。

そんな事はお構いなしに、ノンは私を抱えたまま大声で笑いだした。

「あははははっ!冗談かと思ったよ!主クラスをクリティカルアタックで一撃って!私ですら二桁なのに!」

分かりにくい笑いの沸点にストライクだったのだろう。苦笑いは出来るようになったので返してみせる。

まあ、それは置いといて。

「…つかぬ事をお尋ねしますが」

「なあに?」

キュルンと星が出んばかりに可愛らしく小首を傾げるノン。

こんなに可愛いのに………?

いや、ないと思う。ないと思うけど一応。念のため。

「…もしかして、男?」

「あ”?」

「声低ッ!?」

今の声どっから出た!?てかめちゃくちゃ黒い顔してたよ!?

「うんッん…あーあーあー……気のせいだよ♡」

「めっちゃ喉微調整してましたけど」

今の数秒で声が二転三転してたぞ?どういう声帯してんだ。

「それに、ロリータ服で分かりにくかったけど、体つき。男性のそれ」

元ヒーラーの目を誤魔化せると思うなよ、ヒーラーは体のスペシャリストなんだから。

「ッチ…しゃーねーか。そうだよ、男だ。名前はディオ」

がしがしと乱暴に髪を梳きながらしぶしぶと名前を口にだす。

「ミエ……ミーナ。よろしく」

馬鹿正直にミエナ・ホーネティアと名乗るのはやめておこう。

きっと後々面倒くさい事になる。

「ミーナね、分かった。あと私のことはぁ、通常時はノンって呼んで♡」

完全なる女子ボイス。もはやこの声帯変幻自在なのではないだろうか。

そんな奇妙が過ぎる巡り合わせで、


ヒーラー名家長女のバーサーカー

筋肉ゴリラの(女装)美人パラディン


という、摩訶不思議なタッグの旅は始まった。

やっと個性が出てきました…(泣)

ここまでお付き合いありがとうございます!

二話からも頑張りますので見ていって下さい!

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