エピローグ
どこまでも続く青い海が目の前に広がっていた。漂ってくる潮風が髪の毛と頬を撫で、僅かに聞こえてくる波の音は心を穏やかにさせる。見ているだけでも心が湧き立つような、だというのにどこか落ち着くような、相反する感情を想起させてくる。
そんな存在、のはずだ。少なくとも俺の知っている海はそうだ。
猫族の国であるサンビエドと違い、ビオローナは海に面した土地は多くない。正確には町を作れるような海辺の土地が殆どないと言ったほうが正しいか。
ようするに海食崖が多いのだ。海と繋がった陸地は殆どが切り立った崖になっており、海に出るのは難しい。だからビオローナには港町は一つしかない。
ビルティアンと呼ばれるそこは、それなりに拾い浜辺を擁している。木材で作られた足場が海に向かって伸びており、その先で釣りをしたり、船を停泊させるのに使っているのだろうことが、遠くからでも見てとれた。
本来なら長閑な港町だなぁ、なんて感想を抱くのが普通だろう。
しかし、今海から聞こえてくるのは波の音だけではない。
見えるのは青く広がる美しい海だけではない。
「うわぁあああああ! どうして魔物がこんなところまで!」
「巡回の兵たちは何をしてたんだよ!」
「落ち着け! 今は早く岸に向かうんだ、足場が崩されるぞ!」
聞こえてくるのは阿鼻叫喚。見えるのは怯え戸惑い握る人々。沖からは数十匹の海に住む魔物たちが陸地へと向かってきている。
あの様子だと、普段はこのようなことはなかったということらしい。だからこそ対応が後手後手になっているのだろう。逃げ遅れている人の姿も見えた。
本音を言えば助けたい。しかし、ここで俺たちが姿を現すと問題になる可能性が高い。どうしたものかと悩んでいると、ポレットがジッとこちらを見上げてきた。
「お兄さん、僕たちだけなら問題ありません。行ってもいいですか?」
「それは……」
どこまでも真っすぐなその瞳は、逃げ惑う彼らを案じている。そんな彼女を見て、思わず笑みが浮かんだ。そうだな、きっとそれでいい。
優しく頭を撫でる。そのまま、彼女の言葉に答えた。
「駄目だ」
「……」
「行くなら皆で、だ」
「っ! はい! 行きましょう!」
そう答えると、周囲から仕方ないなとでもいうような雰囲気が伝わってくる
いや、実際にそういう目を向けられていた。
苦笑しているフィリピーヌがこちらに近づき口を開く。
「ある意味では好機です。町の住人たちを助け、認めてもらえれば、目的の達成に近づくことができるでしょう。とはいえ問題もありますが……そこはどうにかしましょうか」
「苦労かけて悪いな」
「いえ……そういう貴方だから、私も救われたわけですからね」
そう言って微笑んでくれたフィリピーヌに俺も微笑み返し、戦闘準備を整える。
既に準備万端だったポレットは一目散に駆け出し、炎の刃を翻す。
それに続くようにして、俺たちも各々の武器を手に、港町へ向かって駆けだした。




