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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第二章 愛を許容すること
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第二章8

 フランソワを連れてダンジョンに潜った日の翌日、俺たちはいつも通り三人で探索を行っていた。昨日クロエが切り倒した木が既にもとの大きさに戻りつつあるのを見て驚愕。

 そして、広大な迷宮の中、珍しく同業者にちらほらと出会う。というのもクロエが木を切り倒した跡は次の階層への階段近くまで続いているようで、二階層以降を主な狩場にしているパーティがその跡を通っているのが理由のようだ。


「最初見たときはなんだと思ったが、やっぱりお前らか」


「もうすぐ中級だって言ってたからなぁ、ギルドや酒場で情報集めてたときは熱心なルーキーがきたもんだと思ってたが、順調に進みやがって可愛げのねぇ」


「ギルドで中級一層が福者によって地形が変わっているが問題はないとか言ってたが、ある意味問題だろこれ……いや俺たちは楽になっていいけどよ、気をつけろよ?」


 同じ道を辿りながら、擦れ違い様に、顔見知りである冒険者たちからそんなことを言われつつ木々の伐採跡を歩いていく。

 やっぱりとはなんですか、その節はどうも、お気遣いありがとうございます等々……冒険者なんて名前だからアウトローの集まりのように思えるが、実際はギルドという組合に所属している社会の一員であるからして、円滑な活動を行うにはこういったコミュニケーションが必要となってくる。どこであろうとこういう部分は一緒だ。


 ただやはり魔物との戦闘という荒事を主な仕事にしているからか、体格が立派で屈強そうな人間が多いので、最初は少し萎縮してしまっていた。ただ仕事を真面目にこなした結果そうなっているだけで、等級が八級以上であればギルドの(ふるい)にかけられ滅多なことでは無法者のような類の人はいないことを理解すれば、普通に接することができるようになった。

 やはり会話と相手への理解というのはどこでも大事だとしみじみと思ったものだ。


 しかし先ほど気になることを言われていた。気をつけろ、と。

 それはやはり、この木々の伐採跡のことだろう。

 そういえば昨日、買い取りをしてもらっている最中、ベルナールからも冒険者同士の諍いには気をつけるようにと言われていた。


「ギルドとしてはメリットとデメリットを考え、不干渉であることを決めました。冒険者は基本的に自己責任ですので、あなた方の行動も、それに続く他の冒険者の行動にも口を挟むことはしません。ただ、個人的に言わせてもらえば、冒険者同士の諍いにはお気をつけください」


 そんなことを言われていたが、なるほど、今日のダンジョンの様子を見てわかってきた。こうなる可能性があり、確定しているわけではないから、曖昧な忠告に留めていたのだろう。

 つまりは、俺たちが今後もこのように木々をトレントごと伐採し、階段への道を作れば他の冒険者はその道を使うことになる。階段までの道のりが格段に楽になるということだ。

 そうなった場合のギルド側のメリットは、中級ダンジョンの攻略を進めることができるパーティが増える可能性が高くなり、中級ダンジョン深層の素材や魔石が手に入り易くなる。


 対してデメリットは、中級ダンジョンに初めて挑む者たちが、その難易度を勘違いしてしまうかもしれないということが一番大きいかもしれない。一階層は初級ダンジョンに出てきた魔物が相手ということもあり、ダンジョン構造の差があっても対処はできるだろう。

 だからこそ、初級ダンジョンとの違いを実感しつつ中級ダンジョンを学んでいく場として適切。だが、最初から俺たちが木々を伐採した跡を通れば、明るく見通しがきく分、初級ダンジョンよりもある意味では楽とさえ言える。他の冒険者たちも通っているからその道周辺の魔物は倒されていることが多くなるので、俺たちは今実際に楽だ。


 中級ダンジョンの難易度を勘違いしたまま、未知の魔物と遭遇することになる二階層へ向かえば危険だろう。

 更にダンジョンは一定数の魔物が狩られない場合、魔物が外に溢れだすことがあるという。これについては俺たちが通っている道の魔物を倒すだけでも大丈夫だとは思うが、可能性ということを考えると、気をつける必要があるかもしれない。


「うーん……木々の伐採は、あまりしないほうがいいのか?」


「なるほど、やはり悩んでいたのはそのことについてでしたか」


 アリスが自然に俺が悩んでいる内容を把握してくるのにも最近慣れてきたかもしれない。それだけ俺のことを考えてくれていると思えば、嬉しくもある。

 他の冒険者が多いので外套を被ったままのアリスが、俺と一緒にその件について考えてくれるようだ。顎に手を当てて小声で唸っている。


「おー……? どうしたの……?」


「木の伐採をどうしようかとな」


「切るの、駄目なら……別の方法、考えないと……」


 フードを深く被ったクロエも唸っているが、トレントを討伐するのに木を一緒に切らない方法を考えないといけないというのもおかしなものだ。しかしまぁ、そちらの方が不意打ちを受ける可能性を減らせるし、先に進むのも楽だからな。

 目立ってしまうことについても考えるべきかもしれないが……。


「貴族からの誘いがあった以上、目立つことについてはもう諦めたほうが良さそうですね。ただ信徒を増やすのは前以上に慎重になる必要がありそうですが」


「あぁ、注目を集めた状態で祝福を与えた人間を一気に増やすのはまずいな」


 アリスと思考を被らせつつ、同じ結論に達する。

 実力のある福者として目立つのは、もう仕方がないだろう。クロエの変化などについても彼女の知り合いにはバレないよう、ベルナールに協力してもらっているからまだどうにかなる。

 だがこの状態で祝福を与えた者を無闇に増やせば悪目立ちするどころではない。増やすにしても慎重に少数、そしてベルナールたちのように目立たないようにしてもらう必要があるだろう。


「ただ、この一階層でのやり方は、変える必要はないかと」


「ふむ……まぁ中級ダンジョンまでくるような冒険者なら、ダンジョン構造の違いとその危険性についても理解して、自分から一階層の森の中で慣らすこともあるとは思ったが」


「それもありますし、ギルドとこちら側から注意喚起を行えばいいと思います。そうすれば最低限の義理は通しつつ、一階層以降を狩場としている冒険者へ恩を売り心証を良くできます」


「おー……アリスちゃん、さすが」


 クロエが小さく拍手をしている。俺も同じくいつものように感心した。


「もともと初級ダンジョンでは棄民を兼ねていますからね。中級ダンジョンであろうとそこまでして自身の力量やダンジョンの危険性を見誤るような手合いであれば、ギルドとしても放置して良いと判断したからこそ不干渉を決め込んだのだと思いますし」


「なるほどな……」


 ギルドの意向はそういうことだったか。

 サポートこそしてくれるが、割りとドライだからな、その推測は完全に間違っているということはないだろう。


「じゃあ一階層での探索は昨日と同じように、いいかクロエ?」


「了解、です」


 ぐっと戦斧を掲げながらクロエが答える。

 そのまま殆ど戦闘が起こることもなく、既に二階層以降を探索している他の冒険者たちに続いて階段へと辿り着いた。いつもよりずっと早く階層を突破してしまったことになる。


「まさかここまで早く階段までこられるとは……よし、今日はもう地上に戻ろう。もう少し時間がかかると思って、二階層の情報はまだ不十分だしな。フランソワとの約束もある、ギルドで待っているほうが遅れる心配もない」


 今回は二階層の確認はせず、そのままギルドへと戻る。その道中、元の大きさに戻りつつある木々をついでとばかりに切り倒しておいた。

 相変わらず驚いたり呆れた顔をしたりしている冒険者たちと擦れ違いつつ、伐採跡の残る中級ダンジョンを後にする。

 そしていつも通りギルドで受付の順番待ちの列へと並んでいたのだが


「お前らが最近中級ダンジョンにあがってきた福者だな?」


 後ろからそう声をかけられた。振り返ると年季の入った装備を纏った冒険者の二人組がこちらを睨みつけている姿が見えた。

 その様子から、友好的でないのは見てわかった。


「ちぃと面貸せや、福者だってことで調子に乗ってやんちゃしてるかもしれねぇルーキーに話がある」


 何だか少し言い方がおかしい気もするが、これは絡まれているということでいいのだろうか。

 恐らく、中級ダンジョン一階層のことだと思うが。


「おうおう、グレちゃんが話があるって言ってんだ、無視したら怒るかんな」


「やめとけユベっち、相手の事情も知らずに怒るのは筋が通ってねぇぜ」


「わ、わりぃ、グレちゃん! 気が逸っちまって!」


「つーわけで、お前ら! 受付での買い取りが終わったらそこの店で飯でも食べながらお話といこうじゃねぇか! 勿論俺たちから誘ったんだから、こっちの奢りでな!」


 なんなのだろうか、この一見チンピラのようで実は凄く良い子だろうと思わせられる二人組は。

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