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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第二章 愛を許容すること
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第二章7

 ギルドで魔石と素材の買い取りをすませたあと、フランソワと別れ帰宅した俺たちはいつも通りの日課をこなす。クロエは鍛冶と細工、俺とアリスは鍛錬に、何故か尻叩き。

 いや、理由はわかっているがそれが日課になっていることを不思議だと思ってしまうのは仕方のないことだと思う。アリスが望んでいるからやめるわけにもいかない。

 ただ、これは必要ではあるが鍛錬とはいえ俺を傷つけてしまうことへのお仕置き、アリスの罪悪感を晴らすためのものであるはずだ。そのはずなのだが……。


「はぁー……はぁー……んくっ、あぁー……」


 寝室のベッドに腰掛けながらアリスを膝上へうつ伏せに乗せて、手を振り上げ尻に向けて打ちおろすごとに、彼女の悩ましい声があがる。顔が赤くなっているが、それは痛みを耐えているが故のものだとはどうしても思えなかった。

 喜悦に浸っているように口元はだらしなく綻び、唇の端からは涎が垂れている。目はとろりと蕩けたように半開きになり、受ける感覚に感じ入っているように見えた。


「ほら、これで今日の分は終わりだ」


 百回叩き終えたので、赤く腫れたそこを癒すために手を添えて奇跡を起こした。

 手触りの良い臀部を労わるように撫でながら癒しの奇跡を維持する。


「ん、凄く、心地好い、ですぅ……」


 甘く深い溜息を吐きながらアリスが膝上でうつ伏せのまま俺に身を委ねる。

 今も叩いている最中も、アリスは喜んでいるようにしか見えない。いや、これは彼女が納得するための儀式のようなものだから、彼女が満足ならそれでいいのだが。


「あ、そうだ……」


 しばらく撫で続け落ち着いたアリスが声をあげて体を起こし、今日は自分で下着を履き直してから俺に向き直るように座った。

 ベッドに腰掛けている状況なので、当然のように俺の膝上にだ。


「今日の探索中に言っていたご褒美、まだでしたよね、どうぞ」


 柔らかく微笑みながら、両手を広げるアリス。

 俺の目の前、そのすぐ下には夢が広がっていた。いや、夢が盛り上がっていた。


 かつては大草原だったはずの場所に、いみじくも育った山脈が堂々とそそり立っている。

 その光景は何とも感慨深く、それをなしたのは自分でもあるという事実に、あるべき自然を穢してしまった罪悪感と仄暗い愉悦をも感じるのだ。

 しかし、そんな暗鬱とした心持ちを溶かしてくれるのもまた、その超大な山々であった。


「ふふ、こうなることを望んだのは私ですし、こうなったのはリク様に触れていただくため……リク様がしたいように、好きなようにしてくれていいんですよ?」


 両手を広げたまま、慈母の如き笑みを浮かべる彼女へ向かって、自然遺産である山を前にした登山家の如き心持ちで手をのばす。


 男は何故、胸に触れたいと思うのか。

 そこに、触れたい胸があるからだ。


 指先が至福の柔らかさに沈み込む感触に、俺は自然に感謝の念を抱いていた。いつも俺を支えてくれるアリスへの感謝。こうして日々の疲れを慰撫し、明日を生きる意欲を与えてくれる彼女に対して常々思う、その感謝の気持ちを伝えたいと。


「いつもありがとう、アリス」


 そう思っているときには、既にお礼を言っている。心の中で思っていても気持ちは伝わらないのだ。感謝の気持ちも、憤りの気持ちも、どのような感情でも身近にいる者に対してなら尚更それを口に出して伝えなければいけない。

 感謝の言葉を口にしながら、手も止まることはない。揉みたいという俺の意思と、彼女の好意を無駄にしないためにも、この幸福そのものに触れるような時間を堪能する必要がある。


「私も、いつもありがとう、ですよ……んっ」


 俺の手の動きに反応して息を弾ませながら、微笑みながらアリスも感謝を伝えてくる。

 先ほどの尻叩きはアリスが望んだとはいえ、あくまでもお仕置き。だからこそアリスにも俺と同じくご褒美と呼べるものをあげたいと思う。


「アリス、してほしいことはあるか?」


「キス、してください」


 即答、そして……にんまりと見覚えのある挑発するような笑顔でアリスが見上げてくる。

 ここでもか、ここでも俺は誘導されていたのだろうか。だとしても怒りは浮かんでこない。

 そうだったとして、これくらい可愛い我が侭みたいなものだ。我が侭なら俺だっていくらでも言っているしやっている。それにアリスは喜んで付き合ってくれているのだから、俺だって彼女のそれに喜んで付き合いたいと思う。


 そもそも彼女の望みを叶えたとして迷惑を被るどころか俺にとっても嬉しいことでしかないのだから、怒る理由もなければ必要もない。

 小さい女の子に(一部小さくないが)いいように動かされたことに対して反発したくなる者もいるだろうが、俺の場合はアリス相手であればそれもいいと思える。

 何よりも……


「はむ、ちゅ……ふぁ……」


 頷いた俺の唇に焦らされた犬のように甘く噛みついたものの、俺の方から唇を押し当てるとすぐに大人しくなりされるがまま、嬉しそうに笑みを浮かべながら翻弄されるアリスの様子を見れば、もし腹立たしく思ったとしても、そんな気はすぐに失せるというものだった。

 お互いの唇を食むように口付けを交わしていると、今日の作業を終わらせたのだろうクロエが寝室に入ってくる。俺たちの様子を見ると一瞬硬直するが、すぐにもじもじと近づいてきた。


「リクさん……ボクも……」


 そうねだるように言いながら、そっと寄りそうように俺の隣へと腰掛ける。

 とはいえ、今はアリスへのご褒美というか奉仕の時間である。

 彼女が満足するまで離れるわけにはいかなかった。


「ん……ぷはぁ……それじゃあ、交代です」


「もういいのか?」


「はい、今日はもう十分です……それに……」


「それに?」


 離した唇を、今度は俺の耳元に寄せてからアリスが小さく呟く。


「クロエさんからのご褒美も、ほしいですよね」


「ほしい」


「ふふ……えっち」


 ぎゅっと強く抱きつきながら、息を多く含んだささやき声でからかうように言われた。

 顔を離すときに、ぺろりと耳を舐め上げられ、体が一瞬跳ね上がった。


 ずっと見ているとアリスは言った。見ているときに彼女は何を考えているのか。

 俺の反応を見て、その嗜好を探っているのだろうか。というよりもあぁいう手管はどうやって覚えてきているのだろうか。酒場で俺が同業者から話を聞いているとき、女性と話しているのを見かけたことがあったが、もしやそのときに……。

 そうなのだとしたら、彼女はどこまで成長するのだろう。


 膝上から降りて、クロエとは反対の位置に座るアリスを見ながら僅かな戦慄。ただ、誘導されようと彼女が手管を学ぼうと、俺が完全に彼女の言いなりになるようなことはないだろうという確信があった。

 彼女が俺を慕ってくれているということもあるが、彼女の挑発には構ってもらいたいという願望以外にも理由がある。挑発したら俺が少し積極的になることを理解しているからだ。

 まぁ、つまりは……俺の嗜好も大概歪んでしまっているが、彼女も中々のものだということだった。お仕置きが癖にならないといいんだが。


 思考を僅かに飛ばしていると、膝上に柔らかな感触。見ればクロエが俺の膝を跨ぐようにして座っていた。ただ何故かこちらに背を向けている。


「クロエ、この体勢は……」


「あの、片手は好きに触ってくれていいんですけど……」


 そっと俺の右手を持ち上げて、自分の顔の近くへと、正確には口へと寄せる。


「もう片方は……味わっても、いいですか?」


 言いながら人差し指に軽く口付けて、唇から舌を出し軽く舐め上げる。

 熱い舌と、ぬめった唾液の感触に背筋を一瞬震わせてから苦笑して頷いた。


「わかった……好きにしてくれ」


「……口の中も、好きに弄ってくれていいですからね?」


 期待するように言われて、そうしないわけにもいかない。

 右手の指をのばして、クロエの口内へと滑り込ませる。歯茎や内頬の形を確かめるようにゆっくりなぞると、それを追うようにしてクロエが口内で舌を動かす。

 追ってくる舌に指を押し付けるようにすると、軽く噛むようにして固定され、本当に味わうようにして指を舐め上げられた。唾液をすり込むように指の腹へ舌を這わせられ、ゾクゾクと背筋を震わせるが、クロエもまた同じように体を震わせていた。


 それをアリスは横から俺に抱きつくようにしてジッと見ている。

 まさか、この状態でも学んでいるのだろうか。

 ちらりとアリスを横目で見れば、小さく微笑み見上げてくる。

 今度は別の意味で背筋を震わせてから、俺はクロエへの奉仕に集中した。

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