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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第一章 愛を大切にすること
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第一章33

 アリスからの指摘を聞き終え探索を再開する。

 二階層からはアリスとクロエも前に出て、俺は以前のように下がることなく二人に並ぶ。


 アリスのフォローが俺の主な仕事だ。例えばジャイアントアントが相手であれば、クロエと同じくメイスを振るって足を潰していく。相手の動きを止めるか鈍らせるかして、アリスが素早くとどめを刺せるように手伝うわけだ。


 メイスの形状や重量化のおかげで、ジャイアントアントの甲殻に阻まれることなく足を潰すくらいならできる。それよりも、ここで重要なのは位置取りだ。

 当然だが俺よりも二人のほうが動きは速い。二人の進行ルートに立ってはむしろ邪魔になってしまう。だからこそアリスとクロエの動きをよく見てから、クロエが優先して狙っている個体とは別の、クロエから一番遠い個体の足を潰していく。


 最初は二人との連携も多少はもたついたが、数をこなすことで慣れていくとどうにか形になっていく。完全なお荷物にならない程度には動けているだろう。

 連携に問題がないことを確認し、全く自衛能力がなかった頃に比べれば多少は前に出たほうがある意味安全でもあるということで、これからも戦闘には参加することになった。

 アリスたちが近くにいるので、致命傷を受けそうになっても助けやすいと言われた。


 そして、アリスたちの安全面という点にも寄与できる。アリスたちが負傷した場合に素早く触れて癒しの奇跡を使って助けることができるからだ。

 日々の鍛錬が無駄にならずにすみそうで喜ばしい。

 後方に残した俺に気を割く必要がなくなったことで歩みも速い。階段までの道順を知っていることもあり、二階層をそれほどの時間をかけることなく突破する。


 そして、三階層のキラービー。こいつを相手にする場合、やることは簡単だ。

 滞空している個体を警戒しつつ、向かってくる個体の攻撃を防ぐ。二人のようにキラービーの突進に合わせて攻撃を当てるのは俺では確実性に欠ける。だからこそ防御へ専念。


 攻撃した瞬間は動きが止まるのでそこをアリスやクロエが狙う。それによって殲滅速度があがり、俺の攻撃を防ぐ技術の習熟にも繋がる。とどのつまり囮だ。

 アリスがとても渋い顔をしたが、前に出るならこれが最善に近いだろう。


「なるべく私から離れないでくださいね、本当に、本当にですよ!」


「あぁ、何かあったときは頼む」


 アリスにはそうやって何度も念を押された。

 彼女の傍にいれば大抵の危機から助けてくれるだろう。頼もしい限りだ。


「アリスちゃんほどじゃありませんけど、ボクも頑張りますね」


「助かるよ、二人ともありがとう」


 二人がいれば、そうそう危なくなることはないだろうな。

 実際、それから三階層を結構な早さで進んだが、キラービーを相手にしている最中に命の危機を感じるようなことはなかった。キラービーの攻撃速度はかなりのものだが動きは直線的で、普段指導をしてくれているアリスのほうがずっと怖いくらいだ。

 更にその攻撃をしっかりと防げば、アリスとクロエが即座に倒してくれる。


 何度戦闘を繰り返しても問題はなかった。

 ある程度進んだところで一度探索を切り上げ、ギルドへ向かう。


 さすがに殆ど初めての探索となる階層を一日で突破することはできなかったが、ペースは以前よりもずっと早くなっている。あと数日もしないうちに四階層へいけるだろう。

 ギルドへ入り、ベルナールが担当している受付の列に並ぶ。


「冒険者ギルドへようこそ。これはリク様、今日も買い取りでよろしいですか?」


「あぁ、頼む」


 素のベルナールを知っているだけに、受付でのやり取りは違和感を覚える。

 しかし彼の今までの努力をぶち壊しにするわけにもいかない。口調などには言及することなく、バックパックから魔石と素材を取り出し机に並べていく。

 魔石と素材の精査を行っていたベルナールの手が止まり、笑顔を浮かべる。


「キラービーの魔石を累計で十個納品されたことを確認しました。おめでとうございます。これであなた方の等級は八級となりました」


「ありがとうございます」


 三人分のギルドカードを手渡し礼を言いつつ、そういえば、等級を九級にあげる条件はキラービーの魔石を累計で十個用意することだったかと思い出す。そして一気に八級まであがったのは、俺たちの素行や風評の問題がなかったと判断されたからだろう。

 九級となり素行や風評に問題がなければ八級へと等級があがる。その判断はギルド職員の推薦があるかどうか、他の冒険者からの悪評があるかどうかなどから下される。


 因みに他の冒険者からの悪評があった場合、それが真実かどうかの調査がされるため九級にあがってから八級にあがるまでに時間がかかることがある。俺たちの場合はそういったものがなく、ベルナールからの推薦のおかげですぐに八級まであがったのだろう。


 十級ではその肩書きに殆ど意味はないが、八級まであがればある程度の信用を得ることができる。逆に言えば九級で止まっている者は人間性に問題がある場合が多いので十級の者よりも警戒されることになるようだ。

 そして当然の如く、九級のまま実力的な条件を満たしてもそれ以上等級があがることはない。


 これは素行が悪い者が過剰な力をつけないようにするための措置でもある。

 魔物を倒すことで人は魔力を僅かに増やし強くなることができ、強力な魔物を倒せばその成長はより顕著になっていく。ダンジョンは多く魔物が存在するために効率良く成長することが可能だ。そのために、強力な魔物が存在する中級や上級のダンジョンへ入るのに制限がかかっているらしい。棄民政策以外にも理由はあったようだ。


「入金と同時に、等級の変更を行いましたので、確認をお願いします」


 返ってきたギルドカードを確認すれば、指で示された等級の部分が変わっているのがわかった。頷きながら、アリスとクロエにもギルドカードを渡す。

 その後はベルナールの仕事が終わるのを待ち、ダフニーと合流してから再度ダンジョンへ向かった。二人を伴っての初めてのダンジョン探索である。


 今度は俺が後ろで見守る番になった。ダフニーが両手に短剣を持ち前に出て、その後ろでベルナールが弓を構えている。ダフニーの傍にはアリスが控えており、ベルナールのすぐ後ろには俺とクロエという形だ。


 初めてゴブリンと出会うと、ダフニーが少し躊躇を見せた。それを見てアリスが動くかどうか迷っているようだったが次の瞬間、ゴブリンの胸元に矢が刺さる。

 動き出さないダフニーを獲物だと判断したのか、意地の悪い笑みを浮かべながら彼女に向かって走り出していたゴブリンは胸元を不思議そうに見て、更にその目に矢が刺さった。


「ダフニーを変な目で見てんじゃねぇぞ」


 鋭い語調で呟きながら、ベルナールが矢を放っていた。

 ダフニーは呆けたような表情で後ろを振り返っている。

 そしてベルナールの様子を見ると、表情を引き締めた。


「ダフニーさん、大丈夫ですか?」


「えぇ、次は私がやってみせます」


 アリスが気遣うように訊ねると、ダフニーはきっぱりとそう答える。

 次にゴブリンに出くわした瞬間、彼女は言葉通り短剣を構えて駆け出し、ゴブリンへ向かって素早くそれを振るった。左手の短剣で牽制となるわかりやすい振り降ろし。


 ゴブリンは勢いよく振り下ろされたそれを無視することもできずに手に持っていた剣を上に持ち上げた。それを見たダフニーはすかさず右手の短剣を無防備となったゴブリンの脇腹へと刺し込んだ。

 痛みにゴブリンが怯んで体勢を崩す。そこで脇腹に刺さった短剣を抜き左右のそれを同時にゴブリンの首元へ当てると引くように振るって確実にとどめを刺した。


 複数のゴブリンが現れると、ダフニーとベルナールは互いに頷き合い、視線で自分が狙う対象を示すと、フォローし合うようにゴブリンと二人で戦ってみせた。

 最初のうちは危なっかしいところもあったが、適宜アリスがアドバイスをして戦闘を繰り返すと、これならば数日としないうちに二人だけでダンジョンに潜っても問題はないだろうと思わせるような連携になっていった。

 一日でそれほどの成長を見せる二人に対して、己の力不足を感じ少しだけ落ち込む。


「あ、えっと、リクさんの祝福がそれくらい凄いってことですから……」


 隣のクロエが俺の顔を見て内心に気付いたのか、慰めてくれた。


「あぁ、ありがとう。仕方ないことだっていうのはわかっているさ」


 そう、わかっている。とはいえ少しはやるせなくも感じるのも仕方ないのだ。

 そんな俺の様子を見て、クロエは何かを思いついたのか笑顔で見上げてくる。

 ちょいちょいと手招きされたので、少しだけしゃがんで首を傾けるようにして耳をクロエへ向けた。それを手で隠すようにして顔を近づけ、彼女は耳元で囁く。


「今日頑張ったご褒美ということで、帰ったら胸を好きなだけ触っていいですよ」


「ありがとう」


 先ほどのありがとうより反応が早く、力強かったのも仕方ないことだと思う。

 さぁ、落ち込んでいる暇などない。俺たちには目標があるのだ。

 そのためにもダンジョンを進み、力をつけなければならない。それが俺にとっては地道なものだとしても、着実に成果は出ているのだから。そしてご褒美もあるのだから。


 俺とクロエの様子を見てにっこりと微笑み、ベルナールたちの視線が自分からそれた瞬間に彼らに気付かれないよう胸を強調するように見せてくるアリス。ご褒美というのはアリスの入れ知恵だったのだろうか。神なのに信徒に調教されている気がする。

 しかしそれでもやる気は萎えるどころか溢れているのだから、男とは愚かな生き物だ。

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