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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第一章 愛を大切にすること
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第一章29

 日も暮れてそれなりの時間ということもあり、ベルナールたちはそろそろ帰宅することになった。玄関先までアリスと一緒に見送りに出る。

 帰り際、そういえばとベルナールが声をあげた。


「二人の容姿が変わったのは祝福の影響なんだよな……俺の容姿も大きく変わったらどうするつもりだったんだ?」


「ベルナールは影響があったとして、然程変わらないと思っていたから大丈夫だろ」


「適当だな……まぁ顔が良いのは密かな自慢ではあるけどよ」


「はいはい羨ましいことで……お前、ダフニーさん一人で潜らせるつもりないだろ。だったら、多少リスクがあってもお前にも祝福を与えるべきだと思ったんだよ」


 ベルナールの危惧はもっともで、俺の力が露見したかもしれないし、彼を引き入れる理由であるギルド職員の協力という点がなくなってしまう可能性すらあった。

 だが、彼はダフニーがダンジョンに潜る場合、祝福がなかったとしても絶対に同行するだろう。そうなれば戦いなどしたことのない素人のベルナールの危険はかなりのものだ。


 理屈で考えればダフニーだけに祝福を与え、慣れるまで俺たちに同行してから一人でダンジョンに潜るのが最善だろう。だが、ここまで全て彼女のためにやってきたベルナールがそんな理屈で止まるなら、そもそもこの状況までこなかったはずだ。

 だから、祝福を与えないという選択肢はとれない。ベルナールの容姿が大きく変わり、ギルドからの追及から逃れるために職員を辞することになっても、だ。

 実際のところは、ベルナールもダフニーも髪や肌が綺麗になった程度で、骨格まで大きく変わっているほどでもなく、誤魔化しはきくだろうからその考えは杞憂だったわけだが。


「お前な……俺たちだけ得する状況になったかもしれないんだぞ」


「そのときは安定して稼げるようになったお前たちから、そのうちの何割か貰って釣り合いをとったかもな」


「はぁ……それでお前がいいなら、いいけどよ」


 呆れたように溜息を吐くベルナール。

 俺の我が侭という部分が大きいから呆れられるのは仕方がない。

 ベルナールは苦笑を浮かべて、それじゃあ明日から頼んだぞと肩を叩いて離れていく。

 それを追いかけようとしたダフニーが止まり、こちらに振り返った。


「改めて、ありがとうございました」


 深く頭を下げる。揃えた両手はぎゅっと握られていた。

 ベルナールが彼女を大切に思うように、彼女もベルナールのことを大切に思っているのだろう。だからか、その感謝の言葉には、自分の主人であるベルナールのことを考えてくれてありがとうと、そんな意味が多く含まれている気がした。


「私のような亜人を助けてくれようとしていることは勿論ですが、それ以上に坊ちゃまの……ベルナール君の思いを馬鹿にせずに、ちゃんと見てくれて、ありがとうございました」


 ベルナール君、きっと幼い頃はそんな風に呼んでいたのだろう。

 彼の名前を口にしているときだけは、あどけなさの残る笑顔が零れた。


「そういう顔は、ベルナールにだけ見せてやってくれ」


「え……変な顔をしていましたか?」


 引き締められた表情に戻り、片手で自分の頬を不思議そうに触るダフニー。


「無自覚か……ダフニーさん、あいつのこと本当に大好きなんだな」


「そんな……いえ、はい」


 恥ずかしさで一瞬否定しそうになるも、自分の気持ちに嘘を吐くことはできなかったのか、素直に肯定した。いや、その好意だけは、嘘を吐きたくなかったのかもしれない。


「俺は二人のことを応援したいと思ってる。これからも仲良くな」


「勿論です……それと、差し支えなければダフニーとお呼びください。あなた方とも良い関係を築いていきたいと思っていますから。それでは、坊ちゃまを待たせていますので」


「わかった、それじゃあまたな、ダフニー」


 最後に綺麗に一礼してから、彼女は今度こそベルナールを追いかけ去っていく。

 ベルナールはダフニーが俺たちと話していることに気付いて足を止めていたようで、すぐ先で足を止めていた。ダフニーにが追いつくのを確認して、並んで帰っていく。


 それを俺とアリスは並んで見送った。

 微笑ましく思いながら笑い、二人に感化されたのか手を差し出し合ってどちらからともなく繋ぎ合う。手のひらの温度を交換しながら、俺たちも家の中へと戻っていった。


「ふぅー……見てください、大まかな形はできてきましたよ。これはダフニーさんが使う予定の短剣の一振りです。彼女のセリアンスロピィとしての膂力に身軽さはかなりの強みになりそうですね。それに結構器用でもあるようですし、試しに両手にそれぞれ持ってもらったのですけど、双剣も使いこなせそうだったのですよ。なので彼女の短剣は二本作っていくのですけれども、こちら利き手側に持つ剣は攻撃に多用するでしょうし小さくとも殺傷力という点で劣らないよう突きを主体にした細身のものとして作っています。対して反対の手に持つ剣は小さめの直剣、持ち手の部分を守るように大きめのガードをつける予定です。両刃の直剣でサイズは小さめですからあまり攻撃に適しているとは言えませんが、その分頑丈に作って防御するのに適したものになるかと。それに適さないというだけで、攻撃にも使えますから、防御に使いつつ、隙を見て奇襲するのにも十分使えます。防御に使っているものが攻撃にも使われる可能性がある、それもわかりやすく剣の形をしていればそれだけで知性のある相手は警戒するでしょうし、牽制になるでしょう。防御する際にも利き手側の剣で横合いから弾くように勢いを殺したり、双剣は攻防両方で戦術の幅が広がります。そのかわり、二つの手に意識が割かれてしまいますし、単純に両手で武器を扱うよりも力も速さも下がってしまいますが、ダフニーさんなら大丈夫でしょう。試しに短剣を二つ持ってもらって軽く素振りをしてもらいましたけど、初めてとは思えないほどに自然でしたし」


 工房に戻ると作業を一段落させたクロエが嬉々として今作っている武器の解説をしてくる。しかし双剣か、浪漫を感じるな。

 単純に手数が二倍になって強いとか、そういうざっくりとした認識だったのだが、なるほど詳しく聞くとそういうものなのか。扱いが難しそうだ。

 それでもクロエの見立てではダフニーは上手く扱えるだろうという。

 実際に扱うところを見るのが楽しみだ。


「ベルナールさんの弓は、ロングボウになると思います。弦を引くための力がかなり必要なため、扱うための前提条件からして厳しいものですが、試しに使ってもらったらしっかりと引き絞ることができていました。習熟すれば速射も期待できそうです。最初はクロスボウにしようかとも思ったのですが、将来性を考えれば弓のほうが素早く射ることができますし、扱うこともできそうなのでこちらに。材料はトレントの木材を使うことで高品質のエンチャントが施された弓にしたいと思っています」


 ベルナールと一緒に試しに弦を引かせてもらったが、確かにかなりの力が必要だった。こちらにきてダンジョン探索や鍛錬でかなり力がついたと思った俺でも辛い。

 それを事務仕事をしていて戦いなんてしたこともないベルナールが、軽々とまではいかないが普通に引くことができるようになる祝福は相変わらず凄いと思う。


 クロエの解説に相槌を打ちつつ、感心したように声をあげる。

 因みにアリスはクロエに許可をとって寝室にベッドの用意などをしにいった。


「あれ、そういえば……」


「どうかしたか?」


「お二人はもう帰ったんですね、お見送りできなくてすみません……」


「作業に夢中になっていたからな、邪魔するのも悪いと声をかけなかったのはこっちだ。二人もそう言ってたから、気にする必要はないぞ」


 どうやら今になって二人の姿がないことに気がついたらしかった。

 クロエの集中力、恐るべし。

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