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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第一章 愛を大切にすること
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第一章28

「ところで、一緒にダンジョンに潜らないかもっていうのは……」


 ダフニーを膝に抱きなおしたベルナールが、先ほどの言葉について言及してきた。

 それに対して、聞かれるだろうと思い用意していた言葉を即座に返す。


「あぁ、自由に生きてもらいたいのなら、俺たちに頼らなくても稼げるようになったほうがいいだろう。勿論、最初は手伝ってほしいと言えば、手伝うつもりはある」


 俺の言葉にベルナールはなるほどと頷き、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「祝福を与えられた俺たちなら戦力になるだろうに」


「わかってるだろ、お前の言葉を信じたくなった、それはダフニーに対するお前の思いがあるからだ。だっていうのに、俺たちが縛って台無しにしてどうするんだ」


 益々笑みを深めたベルナールは、小さく呟く。


「本当に、お前らを信じて良かったよ」


「こっちだって得してるんだ、お互い様だろ」


 軽く拳をあげ、それに反応してあげられたベルナールの拳に軽くぶつける。

 ギルド職員の協力という点もそうだが、彼の存在そのものも大きい。

 神だと嘯くのを決めたことに後悔はないが、そういうことを気にせずに馬鹿な話をできる同性の友人ができたというのは嬉しいものだ。それが、応援したいと思えるような志を持ってるような男なら尚更。


「それで、実際のところどうする?」


「そうだな……最初は手伝ってもらいたい。俺もダフニーも素人だからな」


「わかった、慣れるまでは一緒に行こう」


 それからダンジョンに潜る際の得た魔石や素材の分配や、待ち合わせなどについて話をまとめる。その途中、武器をどうするかという話になり、今晩から俺たちの住居となるクロエの工房兼家へと赴くことになった。

 既製品の武器をいくつか試してもらい、ダフニーは短剣、ベルナールは弓がしっくりくるということで、とりあえずは試しに使ってみたそれらをそのまま装備にすることに。防具は俺たちと同じく革製の鎧を選んでいた。


 昨日話していた通り、クロエに二人の装備を作ってもらうように頼むと、はりきった様子で腕捲りをしてみせた。採寸をしたあと素振りの様子をジッと眺め、弓を引いたときの姿勢や力の入れ具合まで聞いてメモしている。

 その後、受け取った繋ぎとして使う装備の代金を二人が払おうとしたのだが


「はい? 代金はいりませんよ。ボクはリクさんへの奉仕として装備を提供しているだけですので。というか今から作業に入るのでちょっと集中させてくださいすみません」


 炉の光だけが赤々とやけに眩しく感じる工房で、気持ち早口でクロエがそう答えた。

 それに対して、眉を寄せながらクロエを指差し、俺を見てくるベルナール。

 ダフニーも半目でこちらを見てきている。


「職人ギルドを辞めたから、商売はできないんだ。だから奉仕って言い方になってるわけだな。わかったらその目はやめてくれ」


 クロエにつられたように、俺まで早口になってしまった。

 ベルナールとダフニーがひそひそと俺の方を見ながら話している。

 冗談の類だとはわかっているし、半ば俺も乗っかっているのだが、アリスの反応が少し怖い。そう思っていたのだが、アリスは笑顔で俺たちの様子を見守っていた。


「アリスは、こういうの気にしないのか?」


「はい、だってベルナールさんはリク様のご友人でしょう? リク様も楽しんでいるようですし、なら私も怒りはしませんよ。敬愛する神を不遜にも貶めようというのなら話は変わりますけど」


 笑顔で答えるアリス。良い子か。良い子だった。

 それはそれとして、最後あたり目が笑っていないのは背筋がゾクゾクするが。


「神て」


 自然にアリスが俺を神扱いしていることにベルナールから突っ込みが入った。

 しかし突っ込みを入れたベルナール自身が片手で顔を覆うようにして悩ましい声をあげる。


「あー……でもそうか、祝福を与えることができる……そりゃ神みてぇなもんか……」


「アリスはそう信じてくれてるし、クロエは俺がそう決めたから信じてくれてるって感じだな。俺自身、この力のことを考えればそう振舞ったほうが都合が良い」


「なるほどな……俺も信仰したほうが良いか?」


 少しからかうような口調で、笑みを浮かべながら訊ねてくるベルナール。


「信仰は強制するようなもんじゃないだろ。まぁ、した方が祝福は強力になるようだが」


 俺がそれに笑って答えると頭をおさえて悩み始めた。

 信頼や好意、ポジティブな感情でも効果はある。

 しかし、信仰心が最も祝福の効果を高めるのは事実だった。


「というか、お前のその力は本当になんなんだ」


「さぁな、俺もよくわからん。気がついたらこの町にいて、こんな力を持っていた」


「知らない間に天界から落っことされたってか?」


「俺がいたところを天界って呼ぶのなら、そうかもしれないな」


 このあたりを気兼ねなく聞いてくるのも、ある意味ありがたい。

 軽く聞いてくるものだから、俺も事実を適当な調子で返せる。

 しかし、俺のその答えに思うところがあったのか、なにか考え込んでいた。


 信徒と従者ということで何か通じ合うところがあったのか、アリスとダフニーはなにやら後ろのほうで話し始めている。

 二人の話し声と、作業を始めたクロエが金属を打つ音だけが工房に響く。

 考えがまとまるまで待つかと椅子に腰掛けようとしたところで、彼が顔をあげた。


「急に黙って悪かった……ちょっと聞いていいか?」


「なんだ、改まって」


「……リク、本当に神になる気はあるのか?」


 そう聞いてくる顔は真剣で、先ほどとは雰囲気が違う。

 だからこそ、こちらも真面目に答えなければならないだろうと真意を訊ねる。


「どういう意味だ」


「お前を神とした宗教を起こして、人を集めて……ってことだよ」


「……この力を活用するには、そうするのが一番ではあるからな、いずれはってところか」


「なら、それにも協力させてくれ」


 そう言われて、今度は俺が考え込む番となった。

 手伝うとは言うが、それはギルド内でのちょっとした手伝いとはわけが違う。


 いずれはそうするのが一番だとは俺も考えていたが、宗教を興すと一口に言っても成し遂げるまで、そして興してからもかなりの問題があるだろう。その問題を跳ね除けるために、今こうして力を蓄えているわけだが。

 それに巻き込まれることをベルナールは理解して……いないわけはないか。

 それでも協力したいと考えているのは、やはりダフニーのためだろうか。


 そういえばさっき……結婚、宗教……そういうことか。


「なるほど、俺たちが宗教を興したら、二人の結婚式やらせろってか?」


「理解が早くて助かるな」


「そのためだけに、面倒ごとに自分から首突っ込むのか」


「愛する女と添い遂げるためなら、安いもんだろ?」


 迷いなく言い切るものだから、男から見ても本当に格好良く見える。

 それに、否定もできない。


「そうだな、それじゃあ、そのときがきたら手伝ってもらうとするか」


「おう、ダフニーとの結婚生活のためにも、頑張ってもらうからな」


 話を終えて、こちらの会話を聞いていたらしいダフニーがベルナールの言葉に顔を赤くしている。表情は引き締められたままだが、恥ずかしがっているのは丸わかりだった。

 最初の冷たげな印象は完全に溶けてしまっている。


 そしてアリスも顔を赤くしていた。ダフニーとは違う意味で。

 両手を組み、こちらをいつものじっとりとした粘度の高い視線で見つめている。


「リク様、そのときは私もお手伝いいたします。なんでもお申し付けくださいね」


「あぁ、うん。ありがとう、アリス」


 お礼を言いつつ、軽く頭を撫でると、むふーと満足げに息を吐いた。

 興奮で赤く染まった頬は可愛いが、少し心配になる。


 アリスは今日も信仰をキメていた。

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