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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第一章 愛を大切にすること
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第一章21

 ベルナールがギルドの仕事を終えるのを待ち、俺たちが泊まっている宿へと向かう。

 話をする場所はこちらで決めてもいいかと聞けば、素直に頷きついてきたからだ。


 寝泊りしているところへ呼び込むのは、普通なら危険だろう。その場所を把握されれば相手に害意がある場合、寝静まったところを狙われやすくなる。

 しかし宿屋であれば、別の店へと移ればすむ。更に言えばもともと今日は宿を引き払う予定だったのだ。ある意味丁度良かったとも言える。


 これから話すことは、俺たちにとってあまり大声で口にしたくはない内容だ。それは彼もわかっているのだろう。道中は特に何を話すでもなく、ただ歩き続ける。

 その間に彼についての情報をできる限り思いだす。いつもにこやかに対応してくれていて、それは孤児や亜人相手であっても変わらない。


 何度も冒険者ギルドを利用しているうちに気がついたが、そういう人は少なかった。

 この国では排斥されている亜人であっても、実力があればまともな生活が送れるのが冒険者だ。しかしそれは成果さえあげれば生活できるだけの資金が手に入るというだけの話。

 人の感情とはそう簡単なものではなく、亜人に対するギルドでの対応は悪いことも多い。そもそもの話、冒険者というのは等級が上の者であれば富や名誉も得られるようだが、それは限られた一握りの存在だ。


 あくまで例えだが、等級の低い下っ端は、自己責任で資源を掘り出してくる鉱山奴隷のようなものでしかない。落盤や有毒ガスに怯えながら、それでも生きるために資源を求めて掘り進める。魔物は意思を持って襲ってくるのだから、むしろより危険かもしれない。

 等級があがれば、貴重な素材や魔石などで大量の金銭が得られるが、それは鉱山で例えるのなら金の鉱脈を発見するようなものだ。そうなれない者のほうが圧倒的に多い。


 つまり、等級の低い冒険者とは基本的に扱いが軽い、いつ死ぬともしれない、平均寿命の低い奴隷のようなものなのだから。再起を図ろうとする貧しい者や、良い生活を夢みてやってくる亜人などはその最たるものなのだろう。

 それでもギルド職員も仕事であり、表立って何かするということはない。ただ随所に言葉や態度として、軽く見ているという意識が見え隠れするという話だ。


 しかし彼、ベルナールはそれがない。当然彼以外にもそういう者はいるが、少ない。

 そもそもクロエの店を紹介してくれたのは彼であり、亜人相手への隔意などというものはあまりなさそうに思えた。亜人が排斥されているということは理解しつつ、まわりにある程度気を使いながら、自分は迎合することはしない。

 職員や冒険者から彼の評判をたまに聞いたが、普段からあの対応を心がけているのだろう。かなり良かった。


 その二つから考えると、器用な生き方ができる人だと思う。人となりも悪くなさそうだ。

 とはいえ、それは仕事上の話であり、本心は違うということは十分にあり得る。


 俺の力の全貌がばれたわけではないと思うが、容姿の変化を齎すことは少なくともバレているだろう。クロエが今まで戦闘などしたことがないことを知っていれば、彼女が加入したことで買い取り量が増えたことから戦力増加に繋がる何かを持っていると勘繰られている可能性もあるかもしれない。

 悪用しようと思えば、色々なことができるだろう。そのために俺たちに何かしないとも限らない。アリスとクロエが警戒してくれていることを確認しつつ、俺も気を引き締めなおした。


 宿屋につくと、宿の店主に今日で部屋を引き払うことを告げる。部屋の荷物を回収したあと、少し話をしてから出ていくが構わないかと確認をとり、今日が見納めになるだろう部屋へと四人で入って、机を囲むように座った。


「それで、話とは?」


「そうですね、まずは確認させていただきたい。アリスさんとクロエさん、フードと外套をとっていただいても?」


 ベルナールの言葉に、アリスとクロエが俺へと顔を向け確認をとるように見つめてくる。

 それに頷き返答すると、二人はそっとフードと外套を脱いだ。


「うわ、すっげぇ」


「ん?」


「いえ、何でもありません」


 小声ですっげぇとか聞こえたぞ。

 二人にも聞こえていたようで、体を庇うようにして身を引いていた。


「あぁ、いえ、すみません。変わりように驚いただけでして、お二人とも私の趣味ではないので、どうかご安心を。どちらもお美しいとは思いますけどね」


 その言葉に益々睨むようにベルナールを見る二人。

 因みに頬を赤らめるとかそういう可愛い反応ではなかった。

 アリスとクロエに対するフォローは後で頑張らないといけないなと考えつつ、今はベルナールへの対応をしなければと口を開く。


「私の趣味ではない、は言い方が悪くないですかね」


「とはいえ明言しておかないと、誤解されてしまうでしょう?」


「まぁ、そうかもしれませんけどね。因みに好みのタイプは?」


 苦笑を浮かべつつ、軽くたずねてみる。

 話の流れで少し気になった程度で、流されても構わないと思っていたのだが。


「私はもう少し背が高いほうが好みですね、胸も小ぶりなほうがいいです」


 なかなかに話せる人かもしれない。明け透けに自分の性的嗜好を語れる人間に悪い奴はいるかもしれないが、自分を偽る人間はいないと信じたいのだ。

 彼とは仲良くなれそうな気がした。

 こちらの反応を見ていたのだろうか、俺に対してベルナールはにこりと微笑む。


「お二人のような容姿が好みで、あなたがそうしたのであれば、良い趣味をお持ちで」


「……」


「姿を変える法具でしょうか、それらしきものは見当たりませんが……」


 ちらりと二人を見たあと、俺へと視線を戻す。

 二人の容姿が変わっていることはやはりバレていた。


 因みに法具とは魔法の具という意味で、魔法によって特殊な効果を持ったアクセサリーや装置のことを意味している。容姿が変わっているのをそれによるものだと考えたのだろう。

 しかし、そのことについて追及するとして、彼は何を求めているのだろう。


「それを知って、どうするつもりですか?」


「いえ、姿が変わったことについては、興味があっただけでして。本題は別にあります」


「本題ですか、お聞きします」


「……あなたは、素人でも魔物と渡り合えるようにできるほどの魔法使いなのでしょうか」


 なるほど。

 クロエが戦うことについては素人であったこともバレていたようだ。そして、彼女がパーティに入ったことで素材や魔石が増えたことについての予測はそうなったか。


 確かに祝福だなんだ、永続的に人を強く美しく成長させるような不可思議なものを、人が与えることができるなんて普通は考えないだろう。彼の予想に心の中でほっと一息をついてから、気を引き締めなおす。

 ベルナールが考えていることも強ち間違いではなく、彼の目的がわからないのだから。

 とりあえずは肯定しつつ、彼の真意を探ろう。


「まぁ、そのようなものと考えてもらっても」


「では、お二人以外をパーティに入れることは可能ですか?」


「相手によりますね。そもそもギルド職員のあなたが、ダンジョンに潜ると?」


「はい、正確には私ともう一人ですが」


 ふむ、どういうことだろうか。ギルド職員は薄給だと聞いたことはないから生活に困ってということはないだろう。金銭トラブルでもあり、大金が必要なのだろうか。

 それにもう一人とは、いったい何者なのだろう。


「その人については、教えてもらえるのでしょうか」


 彼については知らないことのほうが多い。交友関係など勿論知らないのだから考えても埒が明かないだろう。率直に聞くしかない。

 俺がそのもう一人について聞くと、ベルナールは少しだけ逡巡してから答えた。


「名前はダフニー……セリアンスロピィです」

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