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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第一章 愛を大切にすること
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第一章15

「……胸、好きなんですか?」


 その声に振り向くと、工房に続く扉の陰からクロエがこちらを覗いてた。完成した武器をとりにいくだけにしては遅いと思っていたが、見られていたらしい。

 クロエは持ってきた武器を俺たちに見えやすいようにカウンターに置くと、武器を見ながら説明をするためにだろう椅子によじ登る。そのとき腕が胸を押して強調されるようにその形が蠱惑的に歪んだ。


「好き、みたい、ですね……思わず見てしまう、くらいに……」


「……」


 カウンター越しににっこりと微笑む瞳はこちらの視線を絡め取るように、俺の目をジッと見つめていた。クロエが言うように、彼女が椅子に登っている途中、俺の視線はまたもその胸に吸い寄せられていた。


 あげた腕に押さえつけられるように下にたわめば、俺の視線も押しやられるように下に。

 体を持ち上げれば両腕に挟まれるようにして窮屈そうに中心へと押し付けられ、俺の視線もその中心に押し付けられる。

 椅子の上に登りきり両腕の戒めからとかれた胸がたっぽんと弾めば俺の視線もたっぽんと弾んだ。


 その視線全てをクロエは追いかけていたのだろう、言い訳は不可能だ。

 ついでに隣にいたアリスもがっつりと俺の視線の行方を追っていたようだ。やわやわと自分の胸に触れてから、クロエの胸を羨ましそうに見つめている。


「俺が言うことじゃないが、いいのか。自分に祝福を与えている神がこれで……」


 嬉しそうに微笑むクロエと、自分の胸の将来に思いを馳せるアリス。

 そんな二人に対してため息を吐きつつそう訊ねる。この二人には神らしからぬ俗っぽさを隠そうとはもう思っていない。というよりも隠せそうにない。

 二人は俺の言葉にぱちくりと目を瞬かせると顔を見合わせる。


「リク様は神様ですけど、男の方ですし」


「やっぱり、神様、ってことに、してるんですね……」


 同時に聞くと拗れそうだということがわかった。とりあえず一人ずつ話を聞くことにする。

 それまでは完成した装備のお披露目は待ってもらうことになった。


「すみません、せっかく作ってくれたのに」


「いえ、気にせず……それよりも……」


「はい?」


「神様、なら……信徒に、畏まる、必要はない、のでは……?」


 クロエはそう言いながら悪戯っぽく微笑む。

 それに対して俺は諦めたように肩を落とした。


「わかった……アリスの後で話をさせてもらうからな」


「はい、待って、ます……」


 カウンターで微笑むクロエから視線を外し、使ってくださいと勧められた椅子にアリスと向き合うようにして座った。

 さて、改めて考えると少し引っかかることがあった。アリスが俺のことを信じてくれているのはわかっているが、それでも唐突な俗っぽい発言であれば何かしら普段とは違うリアクションがくるはずだろう。


 いや、自分の胸の大きさを気にするという普段とはかなり違うリアクションがあったがそういうことではないので、そこは置いておく。

 つまるところ、男の性に関する発言を自然に受け入れたようなアリスに少し疑問があったのだ。


「アリス、女性の体型の好みについて口にしたりとか、胸に視線がいったりだとか、そういう部分に関して思うところはないのか?」


「思うところ、ですか……私に対してそういう視線が少ないのは寂しい、とかですか?」


 ちょっと待ってほしい。いや、もうそれだけで色々と理解してしまったけれど。

 アリスは俺のことを理解しようと普段から俺に注目していた。つまりは、だ。


「もしかして、アリスを綺麗だと思っていたこととか、体が密着したときに緊張していたこととか、そういうの全部わかっていた、ってことでいいのか?」


「き、綺麗……はい、詳しくまではわかりませんけど、なんとなくは」


 綺麗だと思われていたことが嬉しいのか、頬を染めながらアリスは俺の質問に首肯した。

 顔を隠して叫びたかった。そんなことをしたら余計醜態を晒すことになるからしないが。

 俗っぽいところはなるべく表には出さないようにしていた。していただけだったらしい。実際のところ全部かどうかまではわからないが、そういう部分をアリスは敏感に感じ取っていたようだ。


「神なのにそんなことを、って失望したりしなかったのか?」


「とんでもない! 神であろうと男性ならそういうのも仕方ないと思います!」


 聞き分けの良さ。いや、アリスが良い子だということはわかっていた。

 それでもこういう部分まで許容できるとは思っていなかった。地球の神話も詳しく読んでいけばセクシャルな部分が多いし、この世界でも神とはそういうものなのだろうか。


 そう思って聞いてみると、亜人の生まれた経緯として神が獣の姿となって人と交わって生まれたという話があるらしい。どこぞの天空を司る主神を思い出した。

 それらを聞いて、脱力したように椅子に背中を預ける。言ってくれれば良かったのに。そう思うが、アリスからすれば、それこそ言わなければわからないことだろう。


「あ、あの……そういう部分を出さないよう努力しているのはわかっていましたが、私以外では気付かないほどでしたし、リク様がなさっていることでしたから……」


 特に不利益があることでもないし、気付かないフリをしていよう、と。そういうことだったらしい。言わなくてもわかってもらえた。いやぁ、嬉しいことだ。

 そんな俺の様子を見て、クスクスと笑みをもらすクロエ。


「そうだ、クロエは神様ってことにしてるんですね、とか言ってたな」


「アリスちゃんは、神だと本気で信じてる……なら、それはそれで、良いと思います」


「クロエは?」


「ボクは、どちらでも……神様のような人、でも……本当の神様、でも……」


「実際のところは、なんだっていい、ということか?」


 俺の言葉にふるふると首を横に振ってから、ジッと俺の瞳を見つめる。

 そっと、手のひらを上にして、両手を差し出された。それに対して俺も両手を出すとやんわりと掴まれ、その存在を確かめるようにすりすりと指を動かされる。


「あなたが、いいんです……。ボクを助けてくれた、あなたが……」


「人間でも、神でも、俺ならどっちでも良いと?」


「そう、全てをくれた……あなただから……信じます……」


 何だか、凄くむず痒いことを言われている気がする。

 しかし俺のことを神と信じるアリスが、彼女の考え方を受け入れてくれるか、少し不安だな。そう思い隣のアリスに視線を移す。


「リク様のことは神様だと思ってますが、私もリク様だから信じていますよ!」


 主張するところはそこなんだな。しかし、むず痒くはあるが、嬉しくもある。

 たまたまこの世界に降り立って、たまたま神様みたいな力を持っていただけの俺。

 そんな俺を、俺だからと慕ってくれる二人には感謝しかない。


「ありがとう、二人とも」


 だからこそ、素直に感謝の言葉を紡ぐことができる。


「そうやって信じてくれた分、俺も報いることができるように頑張るよ」


 だからこそ、二人のために頑張ろうと心から思うことができる。

 たまたま手にしただけの力だけでなく、俺自身が二人に対してできることを。些細なことしかできないかもしれないけど、せめてそうありたいと改めて思った。

 そんなことを考えながら、俺に笑みを向けてくれる二人に、俺も笑顔を返した。


「だから……」


「ん?」


「だから、ボクも……胸くらい、見られても、いい、です……」


 あぁ、なるほど。人でも神でも、どちらでも良い。俺なら構わないと。

 男としてこれほど嬉しい宣言はないと断言できる。できるが、今そう言われると胸のために頑張っているみたいになってしまうので、少しやめてほしかった。


「……触り、ます?」


「わ、私も、まだ小さいですが!」


「ありがとう」


 とはいえ、男である以上こう言われて抗えるはずもなく、男の性に従うしかない。この二人には自身の俗な部分を隠さないともう決めてしまったところも、決定的だった。

 男は、大小に関わらず、胸が好きなんだ。

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