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祝福の鐘を鳴らしたら  作者: 古賀幸也
第三章 罪には罰と許しを与えること
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第三章17

 入り口を注視していたからその姿はすぐにわかった。いや、よそ見をしていたとしてもすぐに気付いただろう。ただ歩いているだけでも重厚な足音が響き、視界の端に現れただけでも意識が持っていかれるような巨体だった。

 見たのはこれで二度目だから驚きは少ないけれど、やはりその姿は遠目であっても圧倒される。しかし気圧されている場合ではない。私の目的はあの女なのだから。


 あの職員の予想通りダンジョンのことなどについて聞きにきたのだろう、カウンターへ一直線に向かい、先程話していた職員から話を聞いているようだ。

 それを確認してから立ち上がり、そそくさとそのそばへと近寄る。足元まで辿り着くとにんまりと笑顔を浮かべて彼女の顔を見上げてみせる。


 でっか……。いや、近くで見ると本当にでかいわね。私が特別小さい種族であるコロクルだからというのもあるのでしょうけど、さすがにこれは、それだけが大きく感じる原因じゃないわよね。この巨体、人間からしても彼女の大きさは異常に感じるはずだわ。

 私が見上げていることに気付いて、ちらりとこちらを見下ろす。内心を表に出すようなへまはせず私はにっこー、と満面の笑みを彼女に向けた。


 ジッとこちらを見てから、すまないと一言職員に告げてしゃがみこむ。私に向かって巨大な顔と胸が迫ってきた。どちらもサイズが普通の人間より一回り以上大きいから少し怖い。

 なんとか顔を背けたりのけぞるようなことはせず、目線を合わせる。


「すまない、私に用事があるのであれば、少し待ってもらえるか。今とても重要な話を聞いているんだ。その後でよければ、話を聞こう」


「うん、わかった! ありがとーおっきいお姉ちゃん!」


 笑顔のままで元気にそう答える。そのとき一瞬動きが止まった。首を傾げてみせても、特に何か言うわけでもなく立ち上がり、彼女は話を再開する。なんだったのだろうか。

 しかし、どうやらお人好しの部類らしくて助かった。少なくとも子供を無下にするようなタイプではないらしい。冒険者というのは上にいく連中に限って常識が欠如していたり、精神的にどこからおかしい奴が多いというのを聞いていたから心配していたけれど、一先ずは安心したわ。


 待っている間、職員との会話を聞いていると、手堅くダンジョンに出てくる魔物や、ダンジョンの構造について聞いているようだった。あとは高く買い取れる素材や、その剥ぎ取りの仕方まで。

 昨日のあれは、やはり色々と知らないがゆえの行動だったらしい。ゴブリンの死体を丸々全て、それも何十匹分もゴロゴロとカウンターに転がしたことは非常識だともう学んだようだ。


 職員との会話を終えると、そっと手を差し出してきた。手のひらまで大きいわね。首を傾げながらその手に自分の手を乗せると、壊れ物にでも触れているのかと思うほど慎重にゆっくりと握って、私の手を引いて歩き出す。

 そのまま近くのソファまでくると、そっと両脇に手を差し入れて持ち上げ、ソファへと座らせてくれた。首を傾げて固まったまま、ぽすっと軽い音を立ててソファに乗る。


 いや、私は子供か。いやいや、私は今子供だった。とりあえずきゃっきゃとでも喜べばいいだろうか。ここまで優しく扱われたことは初めてだったからよくわからない。いや、そうじゃない。子供だったらあそこまで高く持ち上げられたら、興奮するか恐怖するか、よね。

 ここで恐怖して困らせるのは罪悪感を持たせてこちらが優位に立つという点では有用かもしれない。しかし利用するのであれば、友好的な関係を築いておいたほうがいい。最初に溝を作っておくのは得策ではない、か。


「す……っごいわ! 普段お姉ちゃんは、あんな高さで世界を見てるのね!」


「ん……そうだ。まぁ、それほどいいものでもないがな。だが、喜んでもらえたのなら、この大きく過ぎる体には戦うためだけでなく、それ以外の意味もあったのかもしれないな」


 きゃっきゃとはしゃいだように声をあげる私に、彼女は苦笑して頭を撫でてくる。その不器用な手つきと笑みに、一瞬、声が詰まる。

 けれどすぐに呼吸を整えて、子供らしさを演じたまま話を続けた。


「戦うためってことは、やっぱりお姉ちゃんは冒険者なんだね!」


「あぁ、そうだ、昨日冒険者になった。名前は、ジョゼ……うん、ジョゼだ。好きに呼んでくれ」


「ジョゼ、あなたジョゼっていうのね! 私はレリア、よろしくね!」


 まぁ偽名だけれど。ただあちらも偽名か愛称、少なくともフルネームではなさそうだ。名前のところで詰まって、少し考えるようにしていたから恐らく縮めたのだろう。

 本名はもっと長いのか、それとも家名を名乗ることをやめたのか。どちらにせよ、言いたくない事情というものがあるのだろう。つまり、後ろ暗いところがある同類である可能性が高い。


 好都合だ。何故か浮き立つように軽くなっていた心が急激に冷めて重く沈んでいく。目の前の女を利用する算段を自然に思い浮かべていく。人をどのように利用すればいいのか、学んだ通りに。

 戦力として確保し、ダンジョン内であのパーティにぶつけ、疲弊したところを両方仕留める。彼女を利用しようと考え、最初に思い描いた絵図はこれだ。もともとギガースはその体格から屈強な戦士を多く擁していたという。複数の福者を打倒はできないだろうが、ある程度戦うことはできるはず。


 ぶつける方法はいくらでもある。もし彼らがバルトリードのことを探っているのであればどうせ最終的には始末するのだ。なら、偽の情報で踊らせてしまうのが一番手っ取りばやい。

 交流を続けて情報を得てから、両者にとって都合が悪くなるように互いを動かさせるという手もある。どちらにせよ、あの四人が商会にとって都合が悪い存在だった場合は、だけれど。


 とにかくまずは彼女とも交流を持っておこう。新人の冒険者。周りの反応を見る限り、この町で見かけた者がいない亜人。世間知らずな行動。そして今日確認したところ、順応性も良識もあり、頭もそこまで悪くはなさそうだった。戦力はその種族から保証されている。これほど利用しやすい存在もいない。

 戦力として以外にも、使い道はある。福者というものの非常識さを認識して少し悩んでいたけれど、どうやら運が向いてきたらしい。


「あぁ、レリアか、よろしく。それで、私になんの用なんだ」


「ジョゼお姉ちゃんみたいな人、初めて見たからお話ししてみたかったの!」


「私みたいな……あぁ、ギガースをか。なるほど、人間からすればこの姿は物珍しいだろうしな」


「すっごく強そうで格好良かったからだよ! だから冒険者としても凄いんだろうなって、ダンジョンでのお話聞きたいなって! そう思ったの!」


 私の言葉を励ましのように感じたのだろう。彼女は少しだけ嬉しそうに笑って、私の頭を撫でてくる。実際そのような意味合いで口にしたのだから、そう思ってもらわなければ困るけど。

 亜人としての見た目にコンプレックスを抱いている者は多い。コロクルも同じ。大きすぎると小さすぎるという違いはあれど、そこのところはよくわかった。だから、欲しがるだろう言葉を思い浮かべて投げることもできる。


「気を使ってくれたのか? その歳で凄いな、ありがとう」


「思ったこと言っただけだよ!」


 実際、言っている内容については、強ち全て嘘というわけでもない。強そうだと思ったのは本当だし、逞しい体つきは他の体が自慢である冒険者たちにも引けをとらない。格好良いと思う者も多くいるだろうと思うし、冒険者として活躍できる素養があるとも思っている。

 そして何より、話を聞きたい。それも本当だ。ただ、目的は相手が思っているような、子供の無邪気なそれではないけれど。


 もう少し話して、人柄をしっかりと把握できた後なら、コロクルであることは打ち明けてもいいかもしれない。私の正体についても。

 そう、彼女にとって都合の良い正体をね。

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