教頭の呼び出し
「スト……教頭、お話というのは?」
「今ストーカーって言いかけませんでした?」
「まさか。いや、まさか。で、お話とは」
とある日の放課後、俺は教頭から呼び出しを受けていた。また桜木くんに関する話だろうか。彼は相変わらず筋肉見せつけ歩き=桜木筋肉ウォークをやめない。もはや学校の名物として定着しつつあるが、彼の将来を考えれば早めにやめさせたいところでもある。
「実は来月予定されている教師の飲み会についてのご相談で」
何だ、そんな感じの話か。
「幹事を務める予定だった井上先生が、どうしてもその日空けられない用事ができてしまったようでして」
「ふむ」
「代わりの幹事を先生にお願「断ります」早くない?」
「教と……ストーカー、俺には無理です」
「合ってたのに何で言い直したかは一旦置いといて、何故です? 先生もその日用事が入ってらっしゃるんですか?」
「まあ単純に面倒くさいからなのだが、建前は大事だし用事があるってことにしておこう」
そうですね。ちょっとその日は用事が「本音が漏れてますよ先生」
「あっ」
しまった、面倒くささが前面に出過ぎてしまった。
「全く先生、貴方も社会人なんですから。日頃から生徒達のことを良く気にかけていらっしゃるのは素晴らしいことですが、こういう場面で積極的な姿勢を見せていくのも大事なことですよ」
「は、はい……すみません」
あーやってしまった。これで用事無いのがバレてしまったし、このまま幹事引き受けざるを得ないかあ。
「では改めて、お願いできますか先生」
「スト……じゃなくて、ストーカー」
「いい歳して泣きそうですよ私」
「教頭にはこの前の丸山くんの件でもお世話になりましたし、今度は俺がお手伝いさせてもらう番ですね。あまり幹事の経験がないので不慣れですが、やってみます」
これも社会人としての仕事。この飲み会でスムーズに取りまとめができれば今後に何か活かせるかもしれないし、この前のお礼の意味も込めて引き受けよう。
「おお、それはありがたい。私もできるだけフォローしますので、何かあればいつでも相談してください」
「分かりました、ありがとうございます。お話は以上で?」
「ええ。今日も一日お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。では失礼します」
俺は教頭室を出て自分のデスクに戻り、一息ついた。
「ふぅ。幹事かー」
ほとんどの先生が参加する大規模な飲み会の幹事。かなり大変な役目を請け負ってしまったが、こういう役目を面倒くさがっていてはいつまでも人として未熟なままだろう。
丸山くんの件の後、もっと教師として成長したいという俺に教頭は色々なアドバイスをくれた。もしかしたら今回俺に幹事を頼んだのは、教師としてだけでなく、人として成長するための経験の意味合いもあるのかもしれない。
上手くこなせるかは分からないが、いっちょやってやるか。
◇
セッティングを終え、何とかこぎ着けた飲み会当日。
乾杯のビールで俺は初っ端から酔っ払ってしまった。
「この人ォ~、桜木くんをつけ回してェ~」
「はーい先生お酒が足りないようですねえ! もう一杯どうぞお!」
「筋肉を舐め回すように見てたド変態なんですよお~!」
「だから鬼ですか貴方は! はい焼酎も行きましょうねええ!」
「こんなもん水だよ水! オラ、もっとテキパキ注げストーカー!」
「どうやら生徒より貴方に教育を施す必要がありそうだ! ほらお望みの焼酎ですよ早く飲みなさい!」
程なくして酔い潰れた俺には、後日教頭によるありがたいお説教が待ち受けていた。
いや、本当にすまないと思っている。マジで。