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ニャル様から逃れたい〜世界から存在を抹消された探索者は人外の世界で受け入れられる〜  作者: 時雨オオカミ
捨壱の怪【コドクの犬神】

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じめっこ はるくに

「…………僕はダメなやつです」


 団欒する共用スペースの隅っこで膝を抱えているのは、当然のことながら春国さんである。

 あれから泣き止んだ春国さんや戸惑う幽家さんとの非常に気まずい昼食が終わり、受け付けから出てきた華野ちゃんが「露天風呂に行ってきたらどうかしら?」と提案してきたんだ。

 なんでも、一時間ほど掃除の手が入るとかなんとかで一旦関係者以外立ち入り禁止になるから今のうちに……ということらしい。


 で、決まったのが。


「どうして僕はこんなにダメなんでしょう……」


 女性陣だけで先に露天風呂に行き、俺達は俺達で話でもしながら共用スペースで待つってことだったわけである。

 春国さんは盛大にやらかした後から、こうしてジメジメとキノコでも生えそうな勢いでネガティブ一直線になっているのであった。


「はあー……」


 盛大な溜め息に暗い声。すみっこで暮らしているにしては暗い雰囲気に覆われていて、あそこだけなぜか照明が届いていないような錯覚すら覚える。

 それだけどんよりとして春国さんは延々と呟き続けていた。ここまで来るともう加湿器もかくやという状態だ。絶対にあそこだけ湿度が段違いだと思う。


「もうダメです……冬日さんにバレて……ドン引きされたに決まっています。きっと嫌われちゃったんです……僕はダ狐なんです……僕の初恋は終わりなんだ……」

「あー、なんだ。落ち込むなよ旦那。まだ返事は聞いてねぇんだ。そう諦めなさんな」


 刹那さんがそう言った瞬間だった。


「慰めなんてねぇぇぇぇ! いらないんですよぉぉぉぉ!」

「うぉっ」


 涙と鼻水でぐっちゃぐちゃのまま春国さんが立ち上がり、刹那さんに詰め寄った。胸ぐらまで掴んでいて、その身体からは見事な白い狐の耳と尻尾が露出している。興奮している証なんだろうが、こう見ると悪しき狐が正体を現した瞬間にも見える。

 なにより顔が、顔がすごい。元が美形なだけに色々と酷すぎてさすがに俺でも引く。


「終わりなんだぁぁぁぁっうぐっげほっげほっおぇっ」

「ちょっ、旦那勘弁してくれやうひぃっ!?」

「吐きそ、です」

「春国さんストップ! ストーップ!」


 慌ててビニール袋を手に駆け寄ることにした。

 冬日さんがいなくなった直後も似たような事態になったのでいくつか詩子ちゃんに用意してもらっていたのである。

 滑り込みで彼らの元へ行き二人をべりっと引き離す。ひとまず被害はなし。というか幸いにも春国さんが耐えた。耐えてくれた。


「すっぱい……」

「は、春国さん無理しないでくれ。一旦トイレにでも行けば……」

「うううう、僕なんか部屋から出て行けということですよね。そうですよねこんなにジメジメしていたら皆さんまで鬱になっちゃいます……フラれた僕だけデート取りやめ……は、儚い夢でした……」

「まだフラれると決まったわけじゃねぇだろ! ほら旦那!」

「そうだって! まだ返事はもらってないんだから大丈夫だよ春国さん! 元気出してくれ!」


 遠い目をして虚空に笑いかける彼を全力で励ましにかかる。

 まさかこんなにネガティブモードが続くとは思ってもみなかったぞ。さっきからずっとこの調子で一向に治らない。女子陣が戻ってくるまでに普通の状態とまでは言わないが、せめて色々と取り繕えるくらいにまでは回復してほしいんだが! 


「フラれるに決まってるんですよぉぉぉぉ。あんなに無様で格好悪くて最悪なタイミングなかなかありませんからね!? はあー、無理です。どう楽観的に見ても冬日さんに嫌われる未来しか見えないです……鬱だ……」

「春国さーん、戻って来てくれー!」


 これはもうほとんど正気とは思えない状態なんだが、人間じゃないこのヒト達って精神的ダメージが相当致命的になるんだよな。本当に大丈夫かこれ? そのままショックで死んじゃったりしないよな……? 


「鬱だ……僕にはすみっこがお似合いなんですよ……」

「ほらほら、キノコなんて生やしてっからジメジメするんだ」


 刹那さんが彼の頭に生えているように見えるキノコを抜い……抜いて、え!? 

 あれってあまりにもジメジメしてるから見えていた幻覚じゃないのか!? 


「キノコが生えるからジメジメしているんじゃありません……ジメジメしているから生えるんです……」

「いや、そこは冷静に言い返している場合じゃないよな!?」

「俺達は精神性が大事だからなぁ。こうして精神に異常が出てくると目に見える範囲でおかしくなるってもんだ」

「へえ……って人外的常識に関心している場合じゃないだろ。春国さん、詩子ちゃんも悪い予言をしたわけじゃないんだから、そんなに落ち込まなくてもきっと大丈夫だって」


 むしろそのまま迷わず頑張れば希望があるみたいな言い方だった気がするぞ。きっとなにか活路があるんだよ。


「僕なんてきっとこのままキノコに埋め尽くされて窒息死するんです……」


 き、聞いてない……? 

 発狂してきているんじゃないかってくらい聞く耳を持ってくれないな。必死に慰めているわけだが、まるで効果を成していない。どうすればいいんだこれ。


「だー、あー、ほら、旦那。気休めでもいいからよ、そのキノコ利用しようぜ。花占いみてぇにしながら一本ずつ抜いていくんだよ」


 刹那さんは刹那さんでなにとんでもないこと言ってるの!? 


「……フラれる、フラれない、フラれる、フラれない」


 そして春国さんは春国さんでそれやるのかよ!? 

 いや、二分の一だぞ。半分の確率でまた落ち込むことが決定するわけだが、いいのかこれ? 


「フラれない、フラれる、フラれない、フラれる、フラれない、フラれ………………………………」

「刹那さん!」

「あー、悪ぃ。慰め失敗しちまった」


 キノコは全部抜いた端から(かすみ)のようになって消えていったものの、春国さんの気持ちが最悪なほど落ち込んでいるのは変わらない。


 こうして、女子陣が帰ってくるまでに俺達の必死な慰め合戦(せいしんぶんせき)が続いたのであった。

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