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子連れデート?

 目の前には美味しそうにあんみつを食べる紅子さん。

 視線を動かせば、本を読みながらサンドイッチをつまむ字乗さん。控えめに喜びつつわらび餅を食べる幽家(かくりや)さん。そして大きなパフェを大きなスプーンで幸せそうに崩しながら食べる誘理(ゆうり)がいるのであった。


「あの、春国さん」

「はい」

「誘理は置いてきたんじゃ……」


 当初の予定ではトリプルデートだったので、誘理はお狐さん達や真宵さんに預けるという結論に達していたはずだ。そして、実際に今日来たのは春国さんと幽家さんだけだったはずなのである。

 しかし、先程チェックインしてから荷物を置いて、食事処『糖花(とうか)』に来てみればご覧の通りだ。


 まず紅子さんや幽家さんが幸せそうに甘味を食べているのはいいとして、誘理はいつからここに来ていたんだ……。

 別に誘理がいることに不満を抱いているわけではない。むしろ女性陣に囲まれて、本当に幸せいっぱいな表情でパフェを頬張っているため、微笑ましいくらいだ。紅子さんも幼い子相手にはやたらと優しくなるし、優しい目をしてくれるからな。むしろ子煩悩っぽい一面が見られて俺としては嬉しいくらいだが、それはそれとしてどうやってここまで来たんだという問題がある。


「は、はい、それが……真宵さんを経由しておいぬ様から提案があったそうです。犬神達とじっくり話したいから、誘理は連れて行ってほしいとか。それに、誘理も寂しそうにしていたらしいので、僕としては大歓迎ですよ」


 俺達もおまけでついているとはいえ、せっかくのデートなのにいいのか。まあ、春国さんも幽家さんも誘理を通じて仲良くなっているところもあるし、いいのか。それに二人とも誘理を相手しながら幸せそうにしているし。


「ふふ、なあんか……親子みたいだよねぇ、キミ達」

「え、そ、そうですか?」


 頬杖をついて紅子さんが言った言葉に、春国さんは照れたように視線を誘理と幽家さんへと移す。確かに、春国さんと幽家さん。そしてその子供の誘理って絵面にも見えないことはない。親子みたいに見えるほど仲が良くなっているのは良いことだ。


「誘理、これも美味しいわよ、はいあーん」

「あーう」

「よくよく噛んで食べるのよ」

「あいでしゅ」


 それに、幽家さんも誘理の事情を聴いてからはとても優しい対応をしている。嫌っていたはずなのだが、さすがに彼女には責任がないことを知ってからは憎めなくなってしまったらしい。それに、誘理自身の無邪気な性質もあって、彼女と関わっていると邪険にしにくい。

 お世話を焼いてせっせとわらび餅を細かくスプーンで千切って与えているところからしても、可愛がっているのがよく分かる。


 ちなみに席順は向こう側に紅子さん、誘理、幽家さん、字乗さん。そしてこちら側に俺、春国さん、刹那さんである。誘理は紅子さんと幽家さんの間にお子様用の小さな椅子を持ってきてもらい、そこに座っている状態だ。


「司書さん、さすがに本を読みながら食事はするもんじゃねぇぞ」


 幽家さんと誘理と春国さんのやりとりを一通り眺め、それから更に隣へ視線を移すと刹那さんが字乗さんに注意しているところだった。


「サンドイッチとは片手で別のことをしながら食べることに特化した料理だ。問題などあるまい」

「それでもだぜ。俺達が揃った場での食事だ。賢いあんたのわりにはすげー、行儀悪ぃぜ?」

「む……そう言われると、そうかもしれないな。俗に言う『宴会に呼ばれたはいいものの、盛り上がりにも参加できず本読んだりスマホいじっていて空気が読めない扱いされる人間』の行動そのものか」

「……なんでそんなに詳しいんで?」

「たまたまさ」


 多方面にダメージが来そうなことを話していた。

 いるよな、そういう人……幸い俺は高校時代、盛り上げる側だったからその気持ちは分からないが。何度かそういった対応をしている仲間をなんとか会話に混ぜようとしてみたり頑張ったことはある。

 ただ、そういう対応をとっている人が本当に会話に誘われて嬉しいかどうかは人それぞれだから、難しいところなんだよなあ……なんて昔の思い出に浸ってしまった。無理矢理は良くないが、字乗さんはちゃんと会話に参加しようとしてくれるみたいなのでこのまま刹那さんに任せていていいだろう。一番話したいのは彼だろうし。


「お兄さんはなにか食べないのかな?」

「うーんと、ちょっとまだ悩んでる。紅子さんの食べてるあんみつも美味しそうだし、こっちの抹茶アイスも気になる」

「そう? なら抹茶アイス頼みなよ」

「ん? そうか、分かった」


 藤色の着物を着た、恐らく藤の精霊と思わしき店員さんを呼んで注文をする。

 思わず紅子さんの言うことを素直に聴いたが、やっぱりあんみつも頼んでおけばよかったかなあ。


「ほら、おにーさん」

「え?」

「あんみつ、気になるんでしょう? はい、あーん」


 正面を見据えれば、不敵な笑みを浮かべて面白がるようにスプーンを差し出して来ている紅子さんがいる。

 ま、またこのパターンか!? 嬉しいけど! 嬉しいけどさあ! 心臓に悪いんだよ! 


「あ、あーん?」

「はいはい、美味しいよ?」


 視線を逸らしながら彼女からあんみつを分けてもらい、咀嚼する。正直今のシチュエーションが嬉し過ぎて味があんまり分かんなくなっているのが問題だ。

 ……これはもう一回一口もらわないと味が分からないな。


「紅子さん。抹茶アイス二口分食べていいから、もう一口もらってもいいか? 味が分かんなかったからもう一回」

「ふふ、わがままな人だねぇ」


 まさかこんなにデートらしいことができるとは。

 恥ずかしいといえば恥ずかしいが、今日一番ここに来て良かったなと思えた出来事だったのであった。

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