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ニャル様から逃れたい〜世界から存在を抹消された探索者は人外の世界で受け入れられる〜  作者: 時雨オオカミ
捨壱の怪【コドクの犬神】

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これからの方針

 そうして目を覚ました俺は、言い方に気をつけつつも皆に説明をしていったのである。


「ありがとうございますわ、令一くん。随分と辛いものを見てきたのですね」


 優しい瞳でこちらを見る真宵さんに「俺にしかできないことでしたから」と返す。役に立てるなら、俺だってちゃんと役に立ちたいからな。


「事情は分かりました。犬神は恐らく、この子のことを術者であると勘違いしたまま彷徨っているのでしょう」


 記憶の中の様子を見る限りはその線が一番ありえるな。


「そして、この子には(しゅ)が刻まれている可能性がありますわ。けれど、今は霊体ですし、わたくしは呪の専門家ではございません」


 申し訳なさそうにそう言う真宵さんに、誘理は「あちしのことはいいでしゅから」と言い出し始める。が、そんな彼女の口を塞ぐように紅子さんが移動して誘理を抱き上げると、思いっきり撫で回して可愛がり始めた。


「なにしゅるでしゅか!」

「キミが気にするべきところはそこじゃないってことかな」


 俺達も、春国さんも彼女をなんとかしてあげようとしているのだ。なにもせずに捨てろと主張しているのは実質誘理だけである。そんな風に自分自身を卑下したり、自分なんてどうでもいいからと言う彼女の言葉は、俺達は聞くつもりなんて毛頭ない。


 勝手に同情して、勝手に助けようとしている。

 春国さんが問答無用の浄化をしないというなら、そうするしかないだろう。


「呪を専門とする子がおりますから、わたくしのほうから連絡を取りましょう。あの子は各地を放浪しておりますが、腕は確かですわ。その子の力があれば、犬神からこの子が術者に見える呪を解くことができるでしょう」


 呪いの専門家か。確か葛の葉ヒュドラのときにも言及していたよな。

 その人を呼んでくれるっていうのなら、頼もしい限りじゃないか? どんな人なんだろう。真宵さんが呼ぶってことは人間ではないんだろうが、気にはなる。


「それから、今後の方針ですわ。今、誘理を犬神に会わせるのは危険です。ですから、しばらくは鏡界の中で彼女には過ごしていただかなければなりません。同盟所属ではありませんから、特例として春国くんを保護者とし、滞在許可を出すことにしますわ」

「ぼ、僕がですか……?」

「連れてきたのはあなただもの。当然、引き受けてくださりますよね?」

「ひっ、はいっ、喜んで……!」


 にっこりと笑みを浮かべた真宵さんは、正直なによりも恐ろしかった。笑顔とは本来獲物に向ける表情だなんだと言われるが、今の真宵さんはまさにそれである。春国さんは怯えて泣きそうになりつつも、その場で首振り人形みたいにガクガクと頷いた。この光景を見ているとなんだかかわいそうになってくるんだが……不可抗力であるとはいえ、誘理を連れてきたのは春国さんで間違いないしなあ。


「それでは、わたくしは連絡を取って来ますから……移動をしておきましょうか。春国くん、その子は神社には入れませんから、別の場所に囲うこととなります心当たりはあって?」

「と、鳥居を潜らずにということなら……神社のある階段を登った中腹に休憩所があります。そこなら神社の中ではないので、この子も入れるはずです」

「分かりましたわ。それでは、そこへ移動しましょうか」


 真宵さんが結論を口にすると、口を挟まずに控えていた金と銀の狐が立ち上がり、その尻尾に狐火を灯して円を描く。それから炎で縁取られた空間がゆらりと揺らめいて、その先にどこぞの山の中の景色が浮かび上がった。


「我らは先に行き、生活ができるよう準備をしておく」

「みんなはゆっくり来て大丈夫だからねえ」


 そして金輝さんと銀魏さんが鏡界の中に消え、俺達が残された。


「すぐに行きますのに、狐はせっかちですわね」


 呟いて真宵さんの周りが歪む。空間に蛇の鱗が浮かび上がり、蛇の目玉が瞬膜を開くようにして、その場の空間が裂ける。ギャロギョロとしたその目玉に、春国さんは小さくひっと悲鳴を上げて、頭を抱えた。


 怖いのダメだもんなあ、この人。


「ほ、本当に本当にあちしとクロを助けてくれるんでしゅか?」

「本当に本当だよ」

「本当に本当に本当でしゅ?」

「本当に本当に本当だよ、話聞いてたでしょう」

「本当に本当に本当に本当でしゅか?」

「本当に本当に本当に本当に助けたいと思っているからねえ」


 抱き抱えられたまま、紅子さんとそんなやりとりをしている誘理に微笑ましく思いながら真宵さんに向き直る。

 もう一度鏡界へ戻り、そして一度休憩して呪いの専門家ってやつと連絡が取れるまで待つ。それから誘理に刻まれた呪いを解いてもらって、今度は犬神をどうにか助けるために会議をする……これからの予定はそんなところだろうか。


 一歩踏み出す。


 子供相手にあやす紅子さんも、誘理を抱いたままこちらへやってくる。

 春国さんも不安そうだが、やると決めたことはちゃんとやるようで、真宵さんから一番遠い位置だが、鏡界へ入るための入り口に向き合う。


「それでは、参りましょうか」


 俺達が鏡界移動をするために、〝カカメ〟へと入り込む。

 そうして……現実の神社には、静けさだけが残された。

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