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金色のお狐様

 俺達が連理の道を抜けてあやかし夜市に戻ってくると、そこは出発した地点と寸分違わない場所だった。リンの案内が正確であることを実感し、あとでご褒美になにか作ってやろうと心に決める。


「あれ、真宵さん達は……?」

「えーっと」


 しかし戻ってきたところには真宵さんや鈴里さんの姿が見えない。

 紅子も辺りを見回していたが……。


「あら、終わったのですね」

「お疲れ様です」


 背後からの声かけに振り返ると、そこにはものすごい光景が広がっていた。

 ものすごいと言っても、別に真宵さん達があられもない姿でーなんてことはない。


 真宵さん達は――片手にお団子、腰に酒瓶、腕にかけた袋の中からは焼きそばだろうか? 空腹をくすぐるような香りが漂ってきていた。


「なにしてるんだあんたら」

「相変わらず、結構言いますわね」

「その軽蔑するような目、なかなか神様相手にそんなことできる人はいませんよ。誇ってください」


 いや、だって人に緊急依頼任せておいて、自分達は屋台で遊び歩いてましたみたいな格好で出迎えるのはどうだよ? それでも上司か? 


「ちなみに、ラーメンも一杯食べてきました」


 無表情でピースサインをする鈴里さんに、もう一回デコピンしても許されるかどうかを考え始める。いや、わりと許される気がするな、うん。


「ダメだよ、おにーさん。なんか変なこと考えているでしょ」

「……」

「お兄さん?」


 紅子さんの肩から八千までもがジッとこちらを睨みつけてきている気がする。面布をしているのに、不思議と睨まれているのが分かってしまう。


「ごめん」

「よろしい」

「あらあら、さっそく尻に敷かれちゃって」

「真宵さんが原因であることを忘れないでほしいかな?」

「……ごめんなさいね、紅子ちゃん」


 紅子さんの目が据わっていた。

 さすがにお気に入りから責められるのは堪えたらしい。真宵さんが困った顔をしながら両手を合わせて謝り、事の次第は終息した。


「あの……」


 そこで、ようやく俺は真宵さん達の後ろに誰かがいることに気がついた。


「あなたは……?」

「あの、えっとね、壺の封印を先に済ませてしまおうか」


 柔らかい口調でそう言った人物……いや、人じゃないな。

 長い金髪を左手側の髪をサイドテールにし、その両眼は包帯で塞がれ、見ることができない。銀色の着物……多分打ち掛けかな? 稲穂の柄が入った銀の打ち掛けの内側に、赤色と金色の導師服のような、中華風と言えばいいのだろうか? そんな服装をしている優男だ。

 声もいくらか高いが、男だとしっかりと分かる声音である。


「僕は金輝(きんき)。以前、弟の銀魏(ぎんぎ)と弟君が仕える春国君には会っていると思うんだけれど」


 春国と、銀魏……。

 思い出したのは、神中村で言い争いをしていた敬語の男の子と、銀色の狐だった。確か最後の最後に全体を浄化してくれた二人である。


「ああ!」


 思い出して合点が行く。

 あの銀狐を弟と呼ぶと言うことは、きっと兄なんだろう。


「これから豊穣神社へと向かって、この壺についてを話すつもりでしたの。でも、その壺をそのまま持っていくことはできないのですよ」


 真宵さんが扇子で壺を指し示す。

 未だこちらを睨み付けているこんなやばそうな壺と植物だ。確かに神社という神聖な場所に持っていくことはできないだろう。俺がその神社の神様だったら何事だ! って思うだろうし。


「だから、封印術の得意な僕が案内狐として来たんだよ。さくさくーっと封印しちゃおうねぇ」


 やけにのんびりとした口調で金色のお狐様が言う。

 しかし、狐か。


「あれ? 僕みたいなの珍しい? 僕も、銀魏も化けるのは上手だからねー」


 言いながら金輝さんの姿が揺らめく。

 すると次の瞬間には、その頭上に片耳だけ少し折れた金色の狐耳と、その背後に豊かな金色の波が揺れるようになった。どうやら見えないだけで、ちゃんと尻尾も耳もあったらしい。


 無意識にゆらゆらと揺れる尻尾の数を数えてみたら、金の尻尾が五本。

 九尾、というわけではないらしい。


「僕が五尾、弟が四尾で、二匹揃って九尾の狐(大霊狐)って呼ばれてるんだよー」


 なるほど。なんかそういうニコイチみたいな関係は憧れるものがあるな。格好良い。


「それじゃあ、ペターッと」


 言いながら金輝さんはお札のような物を壺に貼る。

 するとみるみるうちに壺の上部に透明な膜が出来上がり、中にある芽にくっついた目玉が目を閉じる。炎は相変わらず揺らめいているが、確かに封印されたと言えるだろう。


「それでは、私は仕事もあるのでここら辺でお暇しますよ」

「ええ、しらべ。頑張ってね」

「はい、あとで胃薬送ってください」

「もう、遠慮なくおねだりしてくるんですから……分かりましたわ」


 鈴里さんが手を振って、その場から離脱する。

 あやかし夜市の元締めだし、忙しいんだろう。真宵さんも言っている言葉こそ愚痴っぽくなっているが、その声音は優しい。部下を労う良い上司……なのだろうか? 


「それじゃあ、行きましょうか。そこでこれの説明をして差し上げますわ」

「あ、それと後で訊きたいことがあるんですけど」

「ご遠慮なさらずにどうぞ。けれど、今は移動しましょう」

「はい」

「分かったよ」


 訊きたいこととは、もちろんケルヴェアートさんのことである。

 ギリシア神話の冥界の番犬がなぜ、中立なのにこちらの国の冥界の手伝いをしているのか……正直ずっと気になってたからな。


「紅子さん、それ俺が持つよ」

「あ、うん。ありがとう、お兄さん」


 封印された壺(にもつ)を俺が持つ。意外と重いぞこれ。紅子さんには悪いことをしたな。女の子に重い荷物を持たせっぱなしにしちゃって、嫌われないだろうか。


 ……いや、対等な関係。対等な関係を忘れちゃいけない。

 そうやってか弱く思われるのは、絶対に嫌がる。そんなことを思ってはいけない。うん、そうだ。これは交代で持ったということになるから多分大丈夫だろう。紅子さんだって俺のプライドとかもろもろを気遣ってくれているんだから、俺も同じようにしないとな。


 そうして、俺が密かな反省会をしている間に、どんどんとあやかし夜市の奥へと進んでいくのだった。

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