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呼び根こ

 松明を咥えたカラスに導かれ、紫色の炎の輪を抜けた先では今まさに襲われそうになっている女性が座り込んでいた。


 俺はその光景を見て反射的に動き、地面に足を踏み込んで駆ける。

 そして女性を狙っていたツタ植物の頭だと思われる葉の部分をいくらか斬り裂き、紅子さんに言って女性を避難させてもらう。


 俺が円を描くように斬り払うと、頭になっていた葉が切れて力を失ったようにだらりと垂れ下がる。ポタポタと赤色の血のような……いや、実際に血なのだろうか。犠牲者の血肉を自らの体に取り込んでいるのか、ツタの断面からは血が滴っている。


 相手はあくまで植物。斬ってしまえば無力化できる。そう思っていたのだが、ことはそう上手くはいかないようだ。


 血を垂らしながら揺れていたツタが持ち上がる。


 そしてまるで早送り再生をするように、切れたツタの断面から新しい芽が出るとあっという間に小さな葉になり、そして成長していった。


「再生能力持ちかよ……」


 ひとつ舌を打って樹木の下から脱出する。俺を追ってきていた蔦葉は十mほどでビンッとその体を伸ばしきり、樹木のほうへ振り返った。

 あまり遠くへは攻撃できないのだろう。


 そう思っていたときだった。



     にゃあん


            にゃあん


   にゃあん


         にゃあん


                  にゃあん



 ゆらゆら揺れる葉が近くにある同じ葉のツタ(くび)を噛みちぎる。

 ぼたぼたと落ちる液体は赤色。そして、今度はそこから葉ではなくツタを長くするようににょきにょきと成長していった。


「おいおい」


 このまま逃げ続ければツタも伸び続け、しまいには避難したはずの女性のところまで届いてしまうかもしれない。それに周辺住民の住宅に入り込むことさえできてしまうかもしれないじゃないか。


 俺は慌てて赤竜刀を構えながら樹木の下に戻り、もう一度斬り払う。


「ここでやるしかないか」


 ぐっと赤竜刀の柄を握りしめ、集中する。


「……まあそうだよな」


 だが、簡単に斬り払えてしまうことからか、赤竜刀に薔薇色の浄化の炎が宿らない。多分俺が「無謀」だと思う気持ちが薄いからだ。

 その代わり赤竜刀が僅かに赤熱しているが、やはりいくら力を込めようと神中村のときのように、無謀を燃料として燃える決意の炎ほど、強い力は出てこない。


「でも、熱があるなら……!」


 背後から寄ってたかって噛み付いてこようとする葛の葉を斬り払った。

 今度は……再生しない! 


「どうだ、これで再生できないだろ」


 赤竜刀は浄化の炎を纏う。今は赤熱しているだけだが、条件は同じ。赤竜刀で斬られたツタの表面がコゲつき、じりじりと浄化の熱で燃やし続けているからかツタは再生しない。

 これでなら対処できるだろう。


「お兄さん、戦況はどう?」


 そこで紅子さんが、避難を終わらせたのか戻ってきた。


「再生能力持ちだ。斬った断面を焼くとかしないと再生されるみたいだ」

「なるほどねぇ」


 こいつらはどうやら知性も理性もないらしいが、シャコのように逃げを選ぶことはないらしい。完全に俺達を食らうことしか頭にないようだ。そもそもこの葉っぱの頭のどこに脳味噌があるのか分からないが。


「八千さま、アタシに力を貸してくれるかな?」


 紅子さんの肩に乗った八千が、しゅるしゅると舌を出して答えた。


「そうだね、意地でも斬ってやろうか」


 そう言った途端、紅子さんが取り出したガラス片に藍色の炎のようなものが揺らめいた。


「紅子さん、それ」

「キミのやつ、ちょっと憧れてたんだよねぇ。格好いいことしちゃってさ。アタシだってこういうのしてみたかったんだ」


 無邪気に、しかし好戦的に笑いながら紅子さんが迫るツタを斬る。


 でも、これは蛇神の祟りの力みたいだからあんまりいいものでもないけれど……今一緒に戦う分には充分だよね」

「そうだな、よし、一緒にやろう!」

「頼むよおにーさん」


 二人で頷く。

 それぞれの手の中で藍色の「意地」の炎と、薔薇色の「決意」の炎がチラチラと燃えていた――。

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