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最悪な修学旅行「化け物との攻防戦」

 奴には物理的な攻撃が効かない。

 しかしなぜか俺の持つこの刀の一撃は奴に通るようだから、あいつを殺せるのは俺と、スプレーとチャッカマンを構えた友人のみ。

 しかし炎をまた吹き上げさせたからか、火災報知器が鳴り響いていてスプリンクラーが起動してしまう。そうなればびしょ濡れになって炎なんか効かなくなってしまう。

 炎が効かなければ対処できるのは俺だけ。

 友人達を食われないように立ち回りながら俺だけが、奴と戦うことができる。そんなの……無謀だ。


「下土井、頼むよ。俺らもなんかできないか、ちょっと考えるから」

「分かった」


 それでもあいつらは諦めない。

 俺が時間を稼いでいる間になにかできることがないかと模索し始めた。

 なら、俺がするのは化け物を叩きまくって注意を引くこと。あいつらに狙いを定めないように突き回すことだ。


「こっちだ化け物!」


 踏み込み、口の周りに漂う触手を切り落とす。

 化け物は危機を感じ取ったのか、その口をぐぱりと広げて俺を威嚇した。

 声は出ず、やはり粘着質な気泡が割れるような音が響くのみだが、その注意が俺に引かれてきているのは間違いない。


「うっ」


 風が。俺の顔に突風じみた風が叩きつけられる。

 距離が近いからか、痛いくらいだ。ぐっと唇を噛んで、閉じてしまわないように目を細める。一瞬でも目を離してしまったら、化け物に食われると思え。

 そう念じながら、集中した。


「くそっ」

「大丈夫かー?」

「声かけんな、そっちに行ったらどうするんだ!」


 風が叩きつけられる。

 これはなんだ。地下室だぞ? いや、風は化け物のほうから流れてきている。

 あの化け物は飛行しているわけだし、風を操ってその巨体を浮かび上がらせているのか? そんなことが可能なのか。

 考えてみても仕方ないのは分かるが、あまりにもズルすぎやしないか? 

 やはり地球外生命体とかなのかもしれない。あんな異様な姿は映画で見たエイリアンとかそっち系に近いわけだし。

 案外、人の想像ってやつも的を射ているんだな、なんて余計なことを考えつつ、動き出す。


 近づけば近づくほど、奴の周りで渦巻く強い風でダメージを受ける。頬が裂け、刀を握る腕にビシリと入る細い傷。触手を叩きつけてきたり、俺に巻きついてやろうとしてくる歪な巨体を躱して一太刀入れてみせた。


 奴の体は仰け反り、ポリプ状のその体が流動して変形する。

 うわっ、気持ち悪っ。


「下土井ー! どけー!」

「っ……分かった!」


 横っ飛びしてから友人達のほうへと引き返す。

 追いかけてくる触手を刀を振り回して切断し走って戻れば、俺の横を大きなペットボトルが通り過ぎていく。

 その中に入った爆竹に、俄然顔色を変えて俺は叫んだ。


「なに危ないことしてくれてんだ! 早く隠れろ! 隠れろー!」

「分かってるって!」


 走って倉庫内の物陰に滑り込み、一瞬の間を置いて爆発音。

 物陰に隠れた俺の足元にプラスチックの破片が飛散して突き刺さり、顔を青ざめさせる。

 爆発でペットボトルが破壊され、その破片が凶器となってあたり一面に散らばったのだ。ただ爆竹を投げるだけよりも考えたなとも思ったが、俺が巻き添えを食らいそうになったので笑えない。あいつら勝手かよ。


「でもほら、結構効いてるじゃん!」


 別の物陰に隠れていた一人に、引きつった笑いを返す。

 確かに上手くいったが、上手くいったから良かったものの……あと少しで俺にも被害が出ていたぞ、今のは。走って物陰に隠れるのが遅れていたら、俺もペットボトルの破片で針のむしろになっていたぞ。


「あのなあ……!?」


 いない。

 ひゅるるるる、と風の音はする。

 しかし口笛の音もないのに、化け物は姿を消していた。


「おっ、吹き飛ばすのに成功したかー?」


 友人が物陰から出てきて現場を見渡す。

 いや、そんなはず……あれだけ物理攻撃が効かなかった奴が、たったそれだけで跡形もなく吹き飛ぶなんてことありえるのか? 


 それになにより……未だに地下室の中にはそよ風が吹いている。

 あの化け物がいなければ地下室に風なんて吹くはずがない。


 それなら……口笛の音もなしに一体どこへ……? 


 視界の端が歪む。

 警鐘が頭の中で打ち鳴らされる。

 奴は一体どこへ。奴が動けば口笛の音がするはずなのに。

 俺達の仮説が間違っていたのか……? 首を巡らせて地下室内を見渡す。


 そして風が顔に当たり……? 


「っ……!」


 恐怖心と咄嗟の判断力で、目の前に向かって刀を突き出した。

 なにか硬いものに当たったように刀の動きが止まる。それが意味するのは……。


「あ、あぶっ、危なっ……!?」


 目の前の空間が揺らぎ、不可視の化け物が姿を現わす。

 口を大きく開けて、円状にずらりと並んだ歯が気持ち悪い動きをしながら、中心に突き刺さった刀に当たり、カチカチと音を鳴らしている。


 ペンキがついていたんじゃなかったのか……? 今はどこにもペンキのついていた跡がなくなっている。スプリンクラーの雨と、さっきの爆発で全部目印が吹っ飛んだのかもしれない。


 俺の目の前にいたそいつは、今は地面に五本の触手を垂らして〝立っている〟ようだ。これで歩いて移動したのだろうか。

 飛行しているときは絶えず音を鳴らしていたから、こいつは空を飛んでいることしかできないと勘違いしていた。そこを上手く突かれたのである。

 こいつに知性があるのは明らかだった。


 ゴボゴボと音を鳴らし、一旦身を引いた化け物が刀から口を離して鎌首をもたげる。


「下土井、後ろ! 後ろぉ!」

「え……?」


 咄嗟に避けようとして、気づく。

 背後から俺を包み込むように、尻尾の触手が絡みついてくる。

 足から、上へ這い上がり、胴体を斜めにぐるりと一周した触手のせいで身動きが一切取れなくなる。体がその場に固定され、走って避けることは叶わない。

 刀を取り落とさないようにしながら抵抗してみても、がっちりと掴まれてしまって動けない。動かせるのは腕だけ……だが。


 見上げると、透明な液体を口の端から流した円形の口が目の前に迫って来ていた。

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