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最悪な修学旅行「作戦会議」

「それで、だ。本当に、やるんだな?」


 地下室から出た後、俺達は一つの部屋に集まって話し合っていた。

 いくら正義感が働いているとはいえ、危険に飛び込むことになるのである。

 普通なら身を引くものだろう。

 けれど、全員怯えつつもその瞳に浮かべるのは「好奇心」という知識欲であった。それは俺も変わらない。


 怖い。けれど、このままわけもわからぬままに放置するのはもっと怖いのだ。自分の知らないうちにあの化け物か旅館内を浮遊し、パニックホラー(さなが)らの光景が広がることになるかもしれない。知らぬ間に俺達の部屋に来て、いきなりばっくりと頭から食われてしまうかもしれない。


 ……そう思うと怖くて仕方がなかった。


 だから、自分達の安全を明確にするためにも、化け物を退治しなければならない。そうでなければならない。


「で、でもどうするんだ? 相手は見えないんだろ」

「音でなんとか場所は分かるんじゃね?」

「耳元で聞こえたときにはもう頭と胴体がオサラバしてるっつーの!」


 それもそうだ。


「な、なら見えるようにする……?」

「方法は?」

「それが分かんないから聞いてるんじゃないか!」



 冷静に一人が返し、見えるようにすると言った一人が激昂する。そりゃ、そんな切り替えしかたされたらキレたくもなるよな。


「そもそも見えたとしても、それでなんだって言うんだよ。幽霊みたいなもんなら俺らが倒そうとしたって通じないんじゃないのか……? もう、どうしようもないんじゃ」

「そう悲観するなよ。俺達しかこれを知らないんだ。俺達じゃないと、他のやつらを助けられないだろ」


 ネガティブな方向へと流されていくクラスメイトを俺がそう言って諭すと、またもや皆に「出たよ正義厨」とツッコミを入れられる。

 いいだろそれぐらい。実際、怖いから立ち向かうなんて矛盾したことをやろうとしているんだ。多少それにまともな理由を求めてもいいだろうに。


「で、どうする」


 堂々巡りだった。


「待て待て。ひとまず化け物を退治する方法は置いといて、状況の整理から始めよう」


 声をあげて、議題を決める。

 できもしないことや、明確に分かっているわけではないことを考え続けても無意味だ。それなら、なにか糸口を掴めないか、ときには周りから攻めることも大事なのだと思う。


「状況の整理って言われてもさあ」

「お前ら文句ばっかりだな? いいから話を聞け」


 我が友人ながら文句ばかりである。頑張って対策を立てようとしているのは自分だけなんじゃないかとか、こいつらに頼ってもしょうがないんじゃないかとか、そんな独り善がりの思考が脳裏を掠める。


 しかしそれを振り払って俺は話し合いを続行した。


「まず最初に、あの化け物は飛んでいると思われる。足音がないのに口笛の音が動くからだ。もしかしたら、ものすごく足音が小さいだけという可能性もあるにはあるが、十中八九飛行しているだろう。信じられないが……」

「飛んでる化け物ってだけでもうヤバイよな」

「口笛の音は? 結局あれはなんなんだよ」


 少し考えて、口にする。


「飛んでるときの……風を切る音がそう聞こえる……とか?」

「なんだよ、はっきりしないなあ」

「そう言うんならお前も考えろよ」

「そういうのはなあ、ネットで調べるのに限るって」

「ネットて……」

「オカルトもんはネットにあるだろ。多分」


 言いながら、友人の一人がスマホで検索し始める。

 まあこいつは放置して、あとはなんだろうか。


「明らかな肉食だよなあ」

「二人も食われてるわけだし、そうだろ」

「あとはー、そうだな。あの地下室にあったものとか思い出せるか?」


 最終決戦があそこになるのなら、少しでも有利になるようなものがないか把握しておく必要があるからな。生憎、俺は掛け軸とその裏の穴にかかりきりで正直周りを十分見れていたとは言えない。

 だからこそ、こいつらに訊いてみたわけだが……。


「神内さんが言ってただろ。古い倉庫で、寝具とか棚とか、要らなくなったものがまとめてあったっぽいって。あと懐中電灯とか?」

「あの中スッカスカだったもんなあー」


 それもそうか。


「なあなあ、それならこんなのはどうよ。あの部屋に火を放って部屋ごと化け物を蒸し焼きに……」

「いやいやいや」


 先生、ここに放火魔がいます。


「さすがにそれはまずいって」

「それならまだ、下土井が床の間の刀取ってきて斬りつけるほうが現実的だろ」

「えー、いい考えだと思ったんだけどなあ」


 物騒すぎる。

 あと、旅館の美術品をそう簡単に使えるかよ。弁償が怖いわ。


「そもそもの話あの割れ目から化け物が来てるんなら、放火してもそっちに逃げるだけで倒せないだろ」

「それもそうか」

「そうそう、それに蒸し焼きにするどころかスプリンクラーが無駄に起動するだけで終わりそうだし」


 火事になったら大変だし、普通はあるよな。スプリンクラー。

 ……まてよ? 


「そうか、そうだよ。その手があったか!」

「え、なんだよ下土井。放火はだめだぞ?」

「いやそれは分かってるけど」


 見えない相手なら、見えるようにすればいい。

 それが真理だ。当たり前だよな、でもその方法が問題だった。

 しかし、今その答えが見えた気がした。


「神内さんか旅館の人に、貯水槽がどこにあるか訊こう。もし、スプリンクラー用の貯水槽があれば万々歳。なければ、ペンキを探すんだ」


 浮遊し、見えないとはいえ相手は人間をバリボリ頭から食っている。

 つまりそれは、実体があるということだ。


 それならば、スプリンクラーを利用すればある程度の位置が〝視える〟はずだ。不自然に水滴が弾かれる場所。そこに口笛の主がいるはず。

 そして、そのスプリンクラーの水に色をつけられたのならもっと最適だ。透明な水よりも、居場所が分かりやすくなる。

 けれど、飲み水と併用してスプリンクラー用の水が調達されているならこの作戦は使えない。だからこそのペンキだ。


 スプリンクラーである程度の場所を特定し、ペンキをぶちまけて見えない化け物にかかれば、その位置は完全にこちらにも知れるようになる! 

 まあ、これは化け物に質量があるという前提が必要になるわけだが。そういう細かいところは後にして、現状一番現実的なこの対抗策で行くしかない。


「なるほど」

「とりあえず、旅館の人に聞きに行くぞ!」

「俺はもう少し調べ物しとくよ」

「いや、待て。もうすぐ昼じゃないか?」

「そういえばそうか」


 地下室に行って、それから話し合っているうちに随分と時間が経っていたようだ。

 しかしそのおかげで攻略の糸口は掴めた。

 あとは準備をして……実行するだけである。

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