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双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第二章
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ジャンル1 ホラー

 最初に目覚めたのは風二郎ふうじろうだった。窓の外は夜の闇におおわれていた。

 窓の外の暗闇を見つめていても埒が明かないので、風二郎は三人を起こした。


「あれ、私たちどうしたんだっけ?」

「梅ばあが開いた本が突然光り出して気を失ったんだ。確か梅ばあはジャンルトリップに行って来いとか言ってた」


 雷二郎らいじろうは起きた直後にも関わらず、スラスラとよどみなく話した。


「あーそうだわ。よく覚えてるなー。てか、冷静だな」


 月夜つくよは円卓中央にそのまま残っていた本を読み始めていた。現状を知るため、ではなく本能に従って。月夜は第二図書室の本も一年生の間にほぼ読み終えていた。しかし、目の前の本は見たことがない本だった。


「何かいろいろとおかしいよね。外は夜だし、梅ばあもいないみたいだし」

「よく分からないし、とりあえず帰るか」

「兄貴、とりあえずで行動するのはやめろ。それで上手くいったことないだろ」

「何だとお。ここにいても何も分からないんだから、仕方ないだろ」


「いや、分かることはある。まず夜の学校に俺たちが取り残される状況は普通ならあり得ないってことだ。鍵閉めで巡回する教師が気づくはずだ」

「それが分かったところで何になるんだよ。どのみち帰るしかねーじゃねーか」

「普段とは違う状況だと言ってるんだ。慎重に考えてから行動した方がいい」

「俺が何も考えていないみたいに言いやがって」

「違うのかよ」

「二人ともストップ」


 一花いちかが二人の間に割って入った。


「フウはいつも通りおバカ。ライはいつもと違って熱くなりすぎだよ。さっきから月夜が何か言いたそうにしてるよ」


 自己主張しない月夜を気にかけるのが、姉である一花の役目だった。

 月夜は三人の前に本を持ってきて「ここ読んでみて」と言った。本の冒頭にはこう書かれてあった。


 ジャンルトリップにようこそ。

 気の済むまで各ジャンルをお楽しみください。

 次のジャンルへの移動、つまりジャンルジャンプを行うための方法は二つです。

 一つはエンド条件をクリアすること。

 一つはゲートをくぐること。

 初回のエンド条件は「殲滅せんめつ」でございます。難易度はA。無理ならゲートをお探しください。ゲートヒントは「うさぎを映す水の鏡」でございます。


 四人は息を呑んだ。文字が金色に光っていたのだ。


「本当におかしな世界に来ちゃったみたいだな」

「ジャンルって書いてあるけど、これってあのジャンル? ミステリとかSFとかファンタジーとか?」

「そうだとしたら俺たちは今どのジャンルにいるんだ?」

「エンド条件の『殲滅』ってどういうことなのかな? それにゲートって? 次のジャンルに飛ぶってことは私たちが元いた世界には帰れないのかな?」


 疑問が泡のように浮かんだ。はじけては消え、また別の疑問が浮上した。頭が迷宮になっていく。思考が体を縛っていく。


「あー分かんねえ。だからもう止め。ここから出よう。変化無きところに成長なしって梅ばあも言ってたし。ほら、行くぞ。野郎も淑女しゅくじょ共もついて来い」

「淑女共はないでしょ。共は」


 風二郎以外の三人も、現状を変えるには動くしかないということをうすうすは分かっていた。


 夜の廊下は洞窟どうくつのように暗かった。月は雲に隠れていて、月光は届いていない。冷気が足元を蛇のようにすり抜けて行く。


「とりあえず玄関まで行くか。競争だー」

「おい待て」

「待ってよ。フウ君。私まだ目が慣れてなくて」


 制止に耳を貸さず、風二郎は全力疾走で廊下を駆けて行った。

 雷二郎はこぶしを握り、風二郎ほど扱いにくい駒はないと思った。


「だんだん目が慣れてきたな。一花と月夜はいるな」

「はい。月夜います」

「私もいるよ」


 一花は雷二郎と月夜から離れて随分後ろの方にいた。第二図書室の出口からほとんど動いていなかった。


「一花、何してる。早く来い」

「先、行かないでよ」

「早く来い」


 数秒待っても動く気配がなかったので、雷二郎が一花のもとへ行った。


「どうして来ない?」

「だって怖いから」

「なら、なおさら一人でいない方がいい。行くぞ」


 雷二郎は一花の手を取った。一花の手が震えていることに気づく。


「ありがと」

「さっさと歩け」 


 三人が階段を降りていって二階まで来た時、下から絶叫が聞こえた。風二郎の声だった。急いで二階へ降りると、雷二郎は走って来た風二郎とぶつかった。


「やばい、ライ。やばいぞ」

「落ち着け」

「何かいる。足音がしたんだよ。下から上がってくるぞ。やばいやばいやばい」

「フ、フウ君。いつもの冗談だよね。ね」

「いや月夜、本当だ。ちょっと静かにしてろ。聞こえるから」


 一花は何も言わず雷二郎の手を一層強く握った。


 トーン、トーン、トーンとリノリウムの床を打つ足音が聞こえてきた。足音は徐々に大きくなった。四人の心臓の鼓動も、聞こえてくる足音に比例して大きくなった。


 音が変わった。ガ、ガ、ガ。階段を登り始めたのだ。四人は慌てて隠れようとしたが一瞬遅かった。


「誰だ?」という声と共に、四人に光が当てられた。懐中電灯の光だった。四人はまぶしさに思わず目をつぶった。

「なんでお前らここにいるんだ?」 


 聞き覚えのある声だった。

 懐中電灯のスイッチを切って近づいて来た人影は四人の担任桂竜馬かつらりょうまだった。


「かっちゃんかよ。おどかすな、バカ」

「一花、大丈夫。先生だ」


 雷二郎は一花に声をかけたが、一花はなかなか目を開こうとしなかった。


「はあー。これで安心」と月夜はひざから床に座り込んでしまった。

「おいおい、何が何だか先生にも説明してくれよ。まあ、月夜さんの言う通り先生も一安心だ。これで今夜の食事は確保できたからなあ」


 瞬間、雲が切れて月光が桂の顔を照らした。


 目玉は飛び出し、視神経まで見えていた。頬の切り傷からは緑色の血がしたたり落ちていた。唇は異様に長く、裂けていた。灰を被ったような白髪が数本、抜け落ちた。


 風二郎は先程の何倍もの大きさの叫び声を上げて、階段を登って行った。月夜は必死に風二郎の後を追った。雷二郎はそばにあった消火器を勢いよく桂に投げつけ、膝が震えて動けない一花を抱きかかえて廊下を走り、北教棟へつながる連絡通路へと急いだ。


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